ロイヤリティを向上して売上を伸ばそうとするマーケターの幻想
上記のターゲティングの考え方は、実はマーケターのロイヤリティに対する幻想ともつながっています。森岡氏は、AKB48の総選挙を例にとって、ブランドのシェアや売上は、そのアイドルの総得票数と同じだと言っています。つまりどのくらいファンがついているかということですが、この場合アイドルは自分の既存のファンに対して投票数を上げよう、というのが「垂直方向のプレファレンスの強化」になります。ただし、森岡氏も述べていますが、垂直方向が伸ばせるのであれば、結果的には水平方向のほうがより伸びている状態になります。
この点について、バイロン・シャープ氏はもっと明確に、既存顧客のみにインセンティブを与える「ロイヤリティプログラム」などのマーケティング手法はブランドの成長には寄与せず、しかも費用的に見合わない、と言っています。氏は、ブランディングの教科書に出てくるようなアップルやハーレーダビッドソンでさえ、100%のロイヤリティどころか、平凡なリピート購買率しか示しておらず、よく言われる「新規顧客よりも既存顧客のほうがマーケティング費用は安い」という神話にも何の実証データがないと批判しています。
さきほどのように、カテゴリー購買者はそもそもコークであれファンタであれペプシであれブランドを重複購買しているという事実があります。シェアが小さいブランドほど購買ベースは小さいですから、そもそも既存顧客だけを狙って「投票数」を増やしても大した数にはなりません。これを購買者でなくても口コミ的な効果に求めるインフルエンサーマーケティングも同じで、口コミ自体は既存顧客よりも新規顧客から生まれることが多いため、大きな影響力がないことを示しています。
バイロン・シャープ氏は、そのブランドの平均購買回数はブランドのシェアが高いほど比較的高いが、シェアの差よりも差異が小さい、と言っています。つまり、リピート購買数のようなロイヤリティ指標は差がつきにくいということでもあります。そしてロイヤリティの根拠としてよく出されるパレートの法則の「2割のロイヤル顧客が8割の売り上げを占める」というケースは実証してみると、8割まで高くなく、実際は5割か6程度でしかないことも指摘しています。よく小さいブランドだがロイヤリティが高いので売上が顧客数に比べて高い、などということは理論的にはあり得ても、現実的には皆無だと指摘しているのです。
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