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メディアアートが社会に投げかける問い — アルスエレクトロニカ現地レポート②

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オンラインとオフライン:データの価値は現実へ還元される構造に

・BitSoil Popup Tax & Hack Campaign

今や、どんなアクティビティをするにせよ、誰と交流するにせよ、SNSは生活の一部となっている。私たち個人が発信・共有する「データの価値」を意識したことはあるだろうか?

一見、無料で提供されている便利なコミュニケーションツールのようなSNSだが、プラットフォーマー側は個人情報を収集し、広告主が使いたくなるサービス作りが目的となり、サードパーティへの情報共有を行い、彼らが無料で収集した情報に価値をつけることで「儲け」を得るサービスとなっている。

「BitSoil Popup Tax&Hack」キャンペーンは、ソーシャルメディアプラットフォームのユーザーを扇動して、データに対する「マイクロ税金」を請求する。それによってデジタル経済の富を得ているプラットフォーマーたち、通称「テックジャイアント」が得る儲けを、公平に分配し、ユーザーにデータの価値を認識させることを目的としている。

・Wikileaks: A Love Story

公開するものと公開しないもの。ネットを通してコミュニケーションをとることは、同時に対話する相手またはグループのコミュニティを作り、その中にプライバシーを作り出すことになる。パブリックであることと、プライベートであることの境界線は、ネットが介入することで曖昧になる。ネットプライバシーが盛んに叫ばれるが、一方で「知る権利」を主張するWikileaksは、非公開の秘匿文書などを公開する、プライバシーへの問題提起を行うシステムだ。

「Wikileaks : Love Story」は、ある情報がプリントされた書類の上にiPadをかざすことで、さらに新たな秘密を浮かび上がらせる。それはプライベートなカップルのやり取りだ。恋に落ちる様子や、別れを告げるメールは、実際にネット上でやりとりされたラブストーリーの「データ」であり、その物語自体がまたプライバシーを象徴している。

Wikileaksの抱えるプライバシー問題の揶揄としても機能するが、一方で、秘匿文書たちをカップルの会話に置き換えることで、デジタルにおいてパブリックとプライベートという概念の境目が極めて曖昧になり、自分が日々書いているメールやメッセージなども同様で、ネットのプライバシー問題は全ユーザーに関わることであるという事実を突きつけている。

・g0v.tw

「g0v(gov zero)」は台湾発のテック・コミュニティで、言論の自由やオープンソースを訴えかける草の根的な活動家たちである。「g0v」の由来は、デジタル・ネイティブたちによるグローバルな目線を政治、政府(government)に活用していこうという志のもと、0と1で構築されるデジタル世界の「0」をgovernmentの”o”と置き換えたものである。No(0)と抑制されることへの意思表明であり、出発点でもあるわけだ。「g0v」というWebサイトをプラットフォームに、エンジニア、コーダーにとどまらず、教師・教授やアーティストなど、さまざまな分野の人材と自由にディベートや情報交換を行いながら、ハッカソンなども開催している。

例えば台湾では、空気汚染の深刻度を公開する「Environmental Dashboard」や最も使われているネイティブ言語を守る「Amis Moe Dict」、投票喚起のための「Voting Guide」など、国民が一丸となれる活動を扇動している。

この活動体に著名人が加わることで、国民もそれに合わせて活動的になり、デジタルに閉じないまま、真実を伝えることができる。すると、国民が声を上げやすい「オープン・スペース」がオフラインに拡張される。言論を抑制され、行き場を失った人々が、臆することなく参加できる、真実を伝えるメディアプラットホームになることで、政治に働きかけることのできる、オンラインとオフラインの活動体を作り上げている。

次ページ 「テクノロジーを前進するためではなく、横道に逸れるために使う」へ続く