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メディアアートが社会に投げかける問い — アルスエレクトロニカ現地レポート②

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前回は、今年のテーマ「“Error” – The Art of Imperfection」の視点から、フェスティバルの中心地である「POST CITY」(すなわち”郵便集積所跡”または”これからの都市”) の展示をピックアップして紹介した。

本記事では、カンファレンスやカテゴリーに分け、優秀作品が選ばれるPrix Ars Electronica(アルスエレクトロニカ賞)の受賞作品プレゼンテーションで話された内容をもとに、メディアアートが映し出す今の社会における不安、不満、問題意識を見ていく。

アルスエレクトロニカの共同創設者であり、アルスエレクトロニカ賞のリーダーでもあるHannes Leopoldesederの言葉によれば、かつてないほどに急速な進化を遂げるこの時代だからこそ、パニックに陥ったり、後退しようとするのではなく、立ち止まってみること、振り返ってみることが重要だと言う。

“偏見”と“真実” – ジャーナリズムとしてのデータとメディアアート

今年のテーマ“Error”に基づいて開かれたシンポジウム「The Fragile / ERROR – The Art of Imperfection」や、アルスエレクトロニカ賞のプレゼンテーションでも議論の的となっていたのがシステムの“偏見”と“真実”についてだ。

2017年、白人の手には反応するが、黒人には反応しないトイレの石鹸センサーがTwitterで話題になった。他にも、世の中の身近なシステムの中にはいろいろな偏見が存在する。道路のSTOPの標識の上にユニコーンのステッカーを貼ると、自動運転車は認識しなくなる。TSAロックのシステムを用いて渡航者のプロファイリングを行っていると噂される空港のセキュリティチェックもその一例だ。

テクノロジーの多くは、ある一部の偏ったコミュニティによって作られており、データ収集・処理、システムも人によって作られた主観的なものである。GDPRの施行に象徴されるように、自分に与えられるデータに頼りすぎないこと、自分がデータを提供する代わりに、何を得られるのかを考えること、という主張が現地では飛び交っていた。

・Help me know the truth

アルスエレクトロニカ賞のインタラクティブアートのカテゴリーで優秀賞に選ばれた「Help me know the truth」。この作品は訪れた参加者のセルフィーを撮り、画像処理をかけていくことで、そのセルフィーを完璧なステレオタイプ画像へと加工していくインタラクティブアートだ。他の参加者は、表示された誰かのセルフィーのもとの画像と、それにぼかしやノイズを加えた画像の2つに対して、「リーダーらしいのはどちらか?」「テロリストはどちらか?」といった質問に応える形で画像を選択していく。これを繰り返すことで、画像処理プログラムは学習していき、不特定多数の群衆からつくられたステレオタイプ・セルフィー画像を生成する。

現代の監視社会の中で、人々は無意識に偏見をもちながら、さまざまな決定を行っている。そして誰かが作ったシステム処理によって、操作されているかもしれない、という問題意識を参加者に投げかけている。

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