コラム

そのイノベーションが、未来社会の当たり前になる。

チームラボ代表 猪子寿之×坂井直樹 対談 ~脳を拡張するものに、人間の興味はシフトする

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コンセプターの坂井直樹さんが、今起きている社会の変化の中でも、少し先の未来で「スタンダード」となり得そうな出来事、従来の慣習を覆すような新しい価値観を探る対談コラム。第2回目はデジタルアートの制作や、ソリューション事業を行う「チームラボ」の猪子寿之代表。デジタルアート作品が飾られている、チームラボのオフィスで語り合いました。坂井さんから繰り出される問いに、ときに猪子さんが「ちょっと散歩して考えてきていいですか?」と、身体全体を使って向き合いながら、対談は進んでいきました。

左)猪子寿之 氏、右)坂井直樹 氏

自分が作ったものを、自分で体験したい

坂井:チームラボは、デジタルアートミュージアムを作ったり、りそな銀行のアプリを作ったり、アートもビジネスの能力もあるから、万能に見えるよね。

猪子寿之 氏

猪子:設立時からアートはつくっていたんですが、出口もわからなければ、お金にもならないので、チームラボという場を維持するためにも稼がなきゃいけなかったんです。その時代が長くて、そのおかげでテクノロジーとクリエイションによるソリューションの基盤もできました。僕はもうアートしかやっていないんだけど、他の共同設立メンバーがソリューションに特化した仕事をしています。

坂井:総合力って、やっぱり組織の維持にとってもアートの表現にとっても大事なんだろうね。

猪子:お台場の「チームラボボーダレス」は、基盤の技術をたくさん使っていて、3~4年かけて作っています。それも総合力のおかげです。作品と関係ない部分でも、オンラインのチケット販売も入場ゲートや券売機もチームラボでつくっているんです。

現場の券売機から、グローバルなオンラインチケット販売まで、リアルタイムに全部統合的にコントロールしたほうがいいので、自社でつくっています。そういう部分も非常に大きいです。

坂井直樹 氏

坂井:お台場の入場数は5か月で100万人を超えたと聞きました。猪子さんの仕事ぶりを見ていると、ガラッと世の中が変わる感じがします。

猪子:自分たちで設備を作ったことは、一般的な美術館との違いがよく表れていると思います。これまでだと作品を美術館で展示して、作品に権威がつく。それを、ギャラリーを通して売るのがアートのエコシステムでした。で、その数を限定することで、セカンダリー・マーケットも成り立っています。つまり比較的狭いワールドです。

ところが僕は、アートはつくりたいけれど、根本的に売るとか、狭い世界の権威とかに興味がない。なんでアートつくりたいかというと「自分がつくったもので自分が体験したいから」なんです。それなら体験を普通に売ったほうが素直だなと思って。

坂井:それで常設のミュージアムを作った、というわけですか。「チームラボボーダレス」のアート作品は、巨大な空間の中にあって、見に来る人に反応してどんどん変わっていくし、同じ瞬間が一度もない。所有できないものね。朝10時ぐらいに行ったら、もうすでに子供もお母さんも楽しそうにしていて。カップルもお年寄りもいて。普通の美術館では子供たちが楽しくないのは、アートに参加できないからですね。

2018年6月にオープンした「チームラボボーダレス」。森ビルとの共同運営。

坂井:ところで、さっき入場ゲートの話が出てきたけれど、僕はいま、中国に本社がある、オンライン決済サービスのラカラジャパンの仕事を手伝っていて、少し似たところがある話だな、と思って聞いていました。

中国にいる1億人のオウンドメディアのユーザーに「旅前情報」として日本の店舗の情報を配信し集客して、訪日客がよく使う決済方法を店舗で導入できるようにしている。中国の人と触れ合っていると、こうした面白い話が来るんだよね。だからこれまでやってきたデザインの仕事に、最近はまったく関心がなくなって、デジタルマーケティングの仕事がメインになっています。

猪子:え、そうなんですか!

坂井:デジタルって、いろんなところに変化を起こせるから面白い。いま企業で気になるのは中国の平安保険ですね。中国の保険業界でフィンテック分野をリードする平安保険グループ。

「IT×金融×生活サービスの融合」を戦略に掲げ、世界的な総合金融機関でありながら、4億人の金融ビッグデータを持ち、ネットを通じてユーザーの生活に密着したサービスを標榜しています。中国の企業では、時価総額が11位(※)の超巨大企業で、従業員は170万人以上。一見保険業なんだけれど、金融商品も不動産も売っている。

これはデジタル企業の特徴かもしれないですね。ただ平安保険は、ITを効率化のために入れていても、顧客への電話もバンバンしていて、すごく丁寧に顧客にコンタクトするのが興味深いですね。いったい中国とシリコンバレーは、何が違うんだろう。人も、工場も圧倒的にそろっていることなのかな。

猪子:工場がある、というのは重要ですね。LEDやムービングライトも中国が圧倒的に強い。うちも独自につくっていますが、工場は全部深圳です。ノウハウのレベルが違う。それから大げさなことを言うと、中国は20世紀の概念にとらわれていません。海外の考えを輸入しようとする日本と違って、中国の若い起業家は独自にイノベーションしているように見えますね。

坂井:確かに日中の違いはそこにあるかもしれませんね。中国に実際に行って、自分の目でいろいろ見てくると、えらい影響を受けるんです。学ぶことが多すぎる。

猪子:2017年にチームラボの展覧会を、北京と深圳で開いたら、チケット料は日本の2倍だったんですが、あわせて70万人の来場がありました。2019年は、上海にできた新しい美術館(TANK Shanghai)で、こけら落しの展示をやります。中国でも、常設の巨大なミュージアムもやっていけたらいいなと考えています。

※ iiMedia Research社が2017年に公表した中国上場企業時価総額ランキング

次ページ 「長い時間までさかのぼって、一瞬を見ている」へ続く

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