グローバル観光客は「なめらかな社会」の価値観をもたらす
東浩紀氏の『観光客の哲学』ではグローバル観光客が増えるのと、国家の政治的緊張とはまったく別の世界であることを「二層化」という言葉で指摘しています。そして東氏の主張では一見、私的な目的で他国を訪れる観光客が増えることは関係ないように思えるのですが、実はグローバルレベルのネットワークによって平和な世界の実現につながっているというのです。
これは壮大な考えではありますが、あながち間違っているとも言えないような。そんな直感があります。なぜなら、ミレニアル世代の観光客の増加はグローバルブランドの影響力をますます拡大させるだけでなく、彼らの移動により、彼らの価値観が世界中に浸透し、グローバル社会における倫理や経済のものに変えていく可能性があると考えるからです。そして、その価値観に対する影響は、それを受け入れる側の国にも、送り出す側の国にも生じるものです。
このようなグローバル化を「世界はフラット化する」という表現で、あたかも金太郎飴のような均一化が引きこされると、批判する人もいます。しかし旅行者が増えることで起きるグローバリズムがもたらす世界とは、東氏がスマートニュースの鈴木健氏の言葉を使って説明した「なめらかな社会」という指摘を聞くと、違う側面が見えてきます。
むしろフラットというよりは、「なめらかな」社会に移行していると言えます。それは均一なのではなく、「なめらかな社会では、社会の境界がはっきりとせず、だんだんと曖昧になっていく。」ものです。これが観光客のもたらす世界です。
「日本であって日本でないような場所」というわけです。
外国人観光客が見出す、「日本ではない日本」
日本を訪れる外国人観光客は東京や大阪などの大都市圏をメインに訪れていますが、それ以外にも、その外国人がときどき日本人自身はあまり「観光地」として捉えていない場所に訪れているというケースが見られます。
昨年の4月19日のTBSニュースでは、「意外な場所にタイ人観光客が殺到」というタイトルで、山梨県の下吉田に観光客が押し寄せていると報道されています。なぜこの場所にタイ人が来るのかというと、富士吉田市の新倉山浅間公園からは富士山が五重塔をバックに拝める絶景のスポットだからなのです。そしてこの風景は、実はタイでは教科書に載っているくらい日本を紹介する際によく用いられる写真なのだそうです。
TBSニュースはこのような外国人観光客を取り上げることが多く、2018年の4月5日には日暮里の布生地の繊維問屋街で布生地を観光で買い物にくる外国人のことや、2018年の9月14日には、外国人の客が8割という人気の観光スポットであるフクロウやカピバラ、ハリネズミなどと触れ合うペットカフェや、外国人向けの観光ツアーとして思い出横丁を体験する夜のスポットに行く様子を特集しています。
こうした情報は日本人にとってはあまり意味がないかもしれませんが、これらのスポットは観光客によって、「日本」に新しく見出された観光地なのです。
もちろん観光客の増加は、その国の生活者にとって必ずしもよいことだけをもたらすわけではありません。観光客が増えると地元の住民のクレームや意見が増えることもまた事実です。ですが、東浩紀氏は面白いことにこのような批判に対して、マンガや小説など原作のある作品を映画化、アニメ化する際に否定意見を述べる「原作厨」というオタク用語を使って退けます。
もちろん観光客の行為は制限されるべきこともありますが、それを全否定する必要はないということです。それは観光客がもたらす「日本でない日本」というのは、文化にとっても新しい解釈であり、魅力のひとつになり得るからです。
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