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室井淳司×山本雅也 日常が予測できる時代になるからこそ求められる“偶有性”

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「偶有性のデザイン」が人を幸せにする

室井:僕は著書の中で、これからの時代に必要なブランド戦略を10の視点でまとめています。その10番目の視点が、「ブランドは『企業から人』へ」です。例えばこれからの企業は、僕の好きなものをよく知っていて、僕が何か問いかけると、リアルタイムでAIが返事を返してくれるようになります。

そうなると、僕はその企業を組織ではなく、「人」として認識するようになるわけです。その「人」は自分に何をしてくれるのか。自分にとって魅力的な「人」でいてくれるのか。そういうことを判断して付き合います。そう考えると、これから「人」としての企業は、顧客を「個客」と捉えて、誠心誠意をもって付き合わなければいけません。それがこれからのブランディングだと思っているんです。

山本:まさに今の話はキッチハイクにぴったりです。僕らのようなスタートアップは、メンバーも少ないですし、手法もまだ確立していません。そういうなかで、何で勝負するかというと、キッチハイクという「人」のキャラクターで勝負するしかないわけです。この人は面白いとか、この人の言うことなら信用できると思ってもらえる会社になれたらなと思っています。

室井:最近僕は様々な企業と新しいサービスの開発を行っていますが、その企業の利益を追求するサービスではなく、企業として正しく振る舞うためのサービスを提案するようにしています。それが企業と顧客の幸せにつながり、結果的に持続して発展するからです。山本さんが考える本質的な幸せとは何ですか?

山本:これからの時代は、「偶有性のデザイン」が幸せのデザインになると思っています。これは、キッチハイクの創業時から変わりませんね。

室井:偶有性とはどういうことですか。

山本:偶有性は、端的にいうと「想像を越える出来事に出合えるかどうか」といったポジティブな意味で使っています。個人データやビッグデータからいろいろなことが予測され、設計されまくる日々の中で、人間はどこに喜びを覚えるのかなといつも考えています。予測される時代だからこそ、明日何か楽しいことが起こらないかなとか、想像を超える発見はないかなとか、そういうことに幸せを見出す時代にますますなっていくのだろうなと思っています。

室井:たしかに、テクノロジーが進化すればするほど便利にはなるけれど、日常に変化が無くなる可能性はありますよね。

山本:そう思います。人間の行動がリコメンドでどんどん先読みされていった時に、ふと、「確かに無駄のない毎日だけれど、本当にこれでいいんだっけ?」と立ち止まるようになるんじゃないでしょうか。
そもそも人間は、「偶然」とか「想像を超えたもの」が好きですよね。そこは変わらないんじゃないかなあ。

室井:アマゾンで本のリコメンドが出るのはたしかに便利ですけど、本好きとしては、本屋にいる方が思わぬ出会いがあって幸せですもんね。

山本:たしかに! ここ10年ほどで本屋の棚がすごく変わってきていますよね。例えば、昔は岩波新書は岩波新書の棚にずらっと並んでいましたけど、最近の本屋さんの棚は、「海」をテーマに縦割りで、大西洋の本もあれば、魚のさばき方の本もあるし、『ワンピース』も並んでいるみたいな、そういう世界観をつくることで偶有性を上げている。

同じようなことが、街、車、ファッション、食、日々の導線、ライフスタイル、等々…、いろんなチャンネルでできると思うんです。僕らキッチハイクは、食を通じた人と人との出会いに偶有性を高めることを使命としています。

室井:なるほど。だから物販ビジネスには儲かりそうでも参入しないんですね。

山本:そうです。やりません。

室井:僕が『すべての企業はサービス業になる』を書いているときに感じたのは、オートメーション化社会は確実にきて企業はビジネスをしやすくなるだろうけれど、それで人々は幸せなのか、楽しいのか、ということです。そんなときに山本さんからメッセージが飛んできたんです。

実はシェアリングのコーナーを書いている時、キッチハイクは他の事例とはちょっと違うな、なんだか豊かな感じがするなと思っていたんです。いくらサービスが進化しても、企業は利益を追求するだけでなく、人の幸せを作っていかないと持続できない。そういうことを考えると、山本さんみたいなマインドの経営者が増えると、未来のサービスもまだまだワクワクする出来事が起こりそうだなと思っています。

室井淳司(むろい・あつし)
Archicept city 代表/クリエイティブ・ディレクター/一級建築士

1975年広島県出身。2000年東京理科大学建築学科卒業後博報堂入社。2012年博報堂史上初めて広告制作職域外からクリエイティブ・ディレクターに当時現職最年少で就任し、翌年博報堂フェロー。2013年Archicept city設立。これまでの主なクライアントに、トヨタ自動車、キリンビール、SONYなど多数。新規事業・サービス開発、ブランド戦略、空間開発、広告コミュニケーション等において、企業のトップや事業責任者にクリエイティブ・ディレクターとして並走する。著書に「全ての企業はサービス業になる〜変化を俯瞰しブランドをアップデートする10の視点〜」(宣伝会議)など。

 

山本雅也(やまもと・まさや)
株式会社キッチハイク 共同代表 / COO

1985年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、博報堂DYメディアパートナーズ入社。出版社 × IT 領域の新規事業やコンテンツ企画、メディアプラニングを担当。退社後、450日をかけて47ヶ国で家のごはんを食べ歩く世界一周の旅をする。2013年5月、共同代表の藤崎祥見と「食べるのが好き!で集まろう ~食べ歩きが趣味になるグルメアプリ~ キッチハイク」をリリース。人と食の出会いを描いた食卓探訪紀『キッチハイク!突撃!世界の晩ごはん』(集英社)を出版。2017年10月、Mistletoeやメルカリなどから2億円の資金調達を実施。2018年10月には、サッポロビールと事業提携し、オリジナルビールをつくって仲間とシェアできるサービス「HOPPIN’ GARAGE」をリリース。

 

【書籍概要】

すべての企業はサービス業になる 今起きている変化に適応しブランドをアップデートする10の視点室井淳司 著 (好評発売中)
 
今起きている変化を俯瞰し、正しい判断の基準を持つことで戦略を正しい方向へと進めていきたいリーダーのための必読書です。