ホプキンスの時代に生まれた広告の「アテンション、合理的説得、ルール」
ポール・フェルドウィックによれば、ホプキンスが「科学的広告」と呼んだ「広告がセールス」であるとする前提において、後の広告界に影響を与えたコンセプトは3つあります。
1つ目は、「広告におけるアテンション(関心を引くこと)の重要性」です。特にこのアテンションはホプキンスと同じ年に心理学で学位をとったハーバードビジネススクールの教授、ダニエル・スタークによって広告会社の広告の評価基準をつくり出しました。スタークは、AAAA(アメリカ広告業協会)の調査部門のヘッドとして新聞や雑誌の広告の効果測定として「スタークスコア」を発案したことで知られています。
このスコアとは簡単で、人々が読んだ新聞や雑誌のなかでどれだけ広告を覚えているかを尋ねるものです。これは調査が簡単で安価ででき、しかもわかりやすいため一般的に使われるようになりました。多くの広告会社はこのスタークスコアを購入してクライアントに自らの広告効果として提示することになったのです。
しかしアテンションが重要である、という考えは、当時のビル・バーンバックをはじめクリエイティブの人間にとってはあまり評判が良いものではなかったようです。なぜならただ関心を得るためだけだったら、面白おかしいビジュアルやタレントを使えばいい、という安易な考えに陥りやすかったからです。
ただスタークスコアのようなものが広告の評価として一般的になると、アカウント担当はおそらくそれを上げるためにそのようなアイデアを提案するでしょう。そのようなアカウントとクリエイティブの齟齬は今も昔もあまり変わらないように思えます。
2つ目は、「広告は合理的説得である」というものです。この点はUSPを生み出したロッサー・リーブスに典型的ですが、ベネフィット(便益)やリーズンホワイ(理由)などの用語は、広告とは人が意識上で合理的に理解するメッセージによって成立することが前提になっています。
要するに、メッセージが消費者の意識に伝わるだけでなく、その商品を買う理由を納得してもらえなければ広告として機能しない、つまり説得できなければ売れない、ということです。これは具体的なセールスの場面を思い浮かべれば想像しやすいと思います。
このような用語は、実際に広告主が広告会社と広告を合理的に検討する際には非常に便利なのですが、必ずしも正しい結果を生むとは限りません。この点は昨年このコラムでも紹介した、バイロン・シャープの主張の1つとも関連があります。
なぜなら、この考え方は広告接触者が、広告を無意識的に記憶していてその後の購買行動に影響するなどのことは一切考慮されていないからです。このような前提は経済学がホモ・エコノミクスのような合理的判断をする人間のみを前提としているのと同じような懸念があります。
そして3つ目はホプキンスが示したように「正しい広告にはルールがある」という考えです。これはホプキンスの著作の題名と同様に、広告は自然科学のように、実験を繰り返せば、正しい規則を発見でき、より効率的な効果を発揮できる、という信念に基づくものです。特にホプキンスの貢献は、ダイレクトレスポンスと今では呼ばれる広告から直接商品の注文を取るタイプの広告でした。
したがってホプキンスが「広告」の前提として考えていたのは、メールオーダー型の広告であり、19世紀末から新聞や雑誌において広告を出しわけるスプリットラン手法がはじまって、すでにホプキンスの時代には一般化しており、彼の知見は今でいうABテストの結果をもとに語られていたからです。
そもそもホプキンスの「科学的」という言葉は、1911年に経営学者のフレデリック・テイラーによって発表された科学的管理法(Scientific Management)を思い出させます。広告も労働と同様に適切に管理されれば、より効率的な効果を生み出すルールをつくり出せる、という信念は、この当時のビジネスにとっての原動力であったのかもしれません。つまり、科学的広告はジョン・ワナメーカーが嘆いた「半分の無駄」を少なくすることを目指していたわけです。
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