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クリエイターを刺激する都市とクリエイティブの未来とは?Vol.4-2 木村健太郎氏(博報堂ケトル)

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【関連記事】「クリエイターを刺激する都市とクリエイティブの未来とは?Vol.4-1 木村健太郎氏(博報堂ケトル)」はこちら

2019年9月27日から募集が開始になった、第3回「Metro Ad Creative Award」(応募締切は12月25日)。「Metro Ad Creative Award」は「これからの新しい交通・OOH広告を創造する」を旗印に掲げ、メトロアドエージェンシーと宣伝会議が企画・運営するものです。
消費者とリアルな接点を持てる交通広告・OOHは、「移動空間」や「景観の一部」という従来の概念を飛び越え、人や人、人と地域のコミュニケーションの場を生み出していく可能性があります。
本コラムでは、「Metro Ad Creative Award」の審査員らが登場。交通・OOH広告を広く、街の魅力を創造するメディアとして捉え、最前線で活躍するクリエイターたちが自身を刺激する都市におけるクリエイティブについて語ります。

今回はプランニング部門審査員の木村健太郎氏によるコラムの第2弾です。

強くて効果的なアウトドア広告の作り方(2)

前回は、アウトドア広告の強みであるレレバンシーと、トキメキの瞬間を発想するための4つの方法論をお話ししました。いいアウトドア広告の条件とはブランドとスペースのレレバンシーが高いということです。しかし、実はもうひとつ、いいアウトドア広告を作るために大切な条件があると思っています。それは、「空間のバリューアップ」です。

アウトドア広告が掲出される場所は、たいてい公共の空間です。それが交通機関の構内や車内であっても、街の道路や広場であっても、多くの人が使うみんなの生活環境なわけです。広告であることに気づかせずにさりげなくアプローチするアウトドア広告のことを「アンビエント広告」と言いますが、アンビエントとは「環境」という意味なのです。

美しい景色の写真に広告看板が写り込んじゃったら頭にきますよね。美しい街並みに派手なラッピングバスが走っていたらなんだか残念な気持ちになりますよね。こういうことを阻止するために、ブラジルのサンパウロ市では、街の美観を損ねない目的で、アウトドア広告を厳しく禁止する条例が施行されています。

日本にはそのような厳しい規制はありませんが、商品やサービスのプロモーションのために、街の景観を少しでも悪くしてしまったり、利用する人にちょっとでも不快な思いや余計な負担をさせてしまったりしたら、実はその広告はブランドにとってマイナスになりうるのです。これは無意識的な影響なので、広告する側にとってはついつい見過ごしがちなポイントなんですが、いくら関心や欲求が高まるトキメキの瞬間を捉えたとしても、その広告のせいで空間の価値をダウンさせてしまったら、そのブランドに嫌悪感を覚えてしまうことがあるのです。

逆に、アウトドア広告によってその空間がちょっと素敵になったらどうでしょう?例えば退屈で殺風景な駅の地下通路が、楽しいエンタメ空間になっていたり、役に立つ情報空間になっていたり、アート空間になっていたら、嬉しい気分になりますよね。さらにそこにちょっと参加したり体験したりする仕組みがあれば、自然にそのブランドのことが好きになったり、そのブランドのことを人に教えてあげたくなったりしますよね。その空間を素敵にするアウトドア広告。これが「空間のバリューアップ」といういいアウトドア広告のふたつめの条件です。

自分がこのことを痛感したのは、10数年前に、スキー場のスキーリフトを使った肉まんのアウトドア広告を開発した時でした。肉まんが食べたくなるトキメキの瞬間は何だろう?それは「寒い時」であり、「お腹が空いた時」であり「やることがなくて手持ち無沙汰な時」だろう。その3つの条件を全て叶える場所はどこだろう?と考えてスキーリフトに思い当たりました。

スキー場でリフトに乗ってる時間は、寒いし、お腹が空いてるし、手持ち無沙汰ですよね。さらに頂上に着くまでには、何十もの、人が乗っていない下りのリフトにすれ違う。そこで、その背もたれに「外はホカホカ」「中はジューシー」「チーズもピザもあるよ」「諸葛孔明が発明した」「29男」といったヒントを書いて、降りる直前の最後のポールに「答えは肉まん」と表示したのです。

肉まんとスキーリフトのレレバンシーは抜群に高く、事実、このスキー場の売店では、肉まんがバカ売れしました。一度答えが肉まんだとわかってしまったら、リフトが頂上に着くまで食べたくて仕方なくなるというのが人間に心理だからです。

しかし、同時に、自分も学生時代からスキーをやっていたので、ひとりのスキー好きな生活者としては、「愛するスキー場を商品を売るための広告で汚してしまっていいのだろうか」というちょっとした罪悪感のような迷いがありました。

このモヤモヤが吹っ飛んだのは、実際に広告が掲載され、現地でそのリフトに乗ったときに、偶然隣に乗った女性インストラクターに言われたこの一言でした。

「この肉まんクイズ、小さな子供達に大人気なんですよ。なかなかしゃべってくれない引っ込み思案な子供とも、この肉まんクイズで盛り上がるんです。コミュニケーションツールとしてとっても役に立ってます。」

この一言がすごく嬉しかったのと同時に、アウトドア広告というのは、「空間のバリューアップ」が大事なんだなということを痛感したのを覚えています。

広告は愛されたり、嫌われたりします。人々がテレビを見る目的は、欲しい情報を知ったり、好奇心を満たしたり、笑ったり泣いたりするためですよね。テレビCMも、そういうことをもたらしてくれるものは愛される。広告というのは、そのメディアや空間を使う人の目的に沿ったものであるべきだと思います。その意味で、「レレバンシー」と「空間のバリューアップ」は、いいアウトドア広告を作るためのふたつの条件なのです。

第3回Metro Ad Creative Awardの詳細・ご応募(応募締め切り2019年12月25日)はこちらから。

 

木村健太郎氏
博報堂 グローバル統合ソリューション局長
博報堂ケトル 取締役/エグゼクティブ クリエイティブディレクター

1992年博報堂入社。戦略からクリエイティブ、PR、デジタルを越境した統合的なスタイルを確立し、2006年博報堂ケトルを設立。従来の広告手法やプロセスにとらわれない「手口ニュートラル」というコンセプトで、アイデアを沸かして世の中を沸騰させるコミュニケーションを提案・実施している。