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映画を通じて、「広告は面白い」と伝えたい 澤本嘉光×浜崎慎治

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CMで鍛えたことが映画で活きた

—浜崎さんは初の映画ですよね。コメディ映画で、しかも人を笑わせることは難しいと思いますが、いかがでしたか?

浜崎:初監督でした。僕はこれまでも日本映画を見ていて「もうちょっとテンポがよくてもいいんじゃないか」と思うことがあったから、今回の映画のように見ている人の先にいって、次の展開を起こしていくコメディのスタイルは面白いと思いました。

ただ、コメディはおっしゃる通り難しくて、最初に一番難しいのをやっちゃったなと(笑)。感動系、サスペンス、シリアス、ホラーなどはやや型がありますが、コメディには型がないし、人によっても間もツボも違う。役者さんが動いてみないとわからないところも大きいから、一番難しいんですね。CMのテンポ感でやっても90分あるから、そこもまた難しくて。だから、どのへんが良いところなのかなと探りながらやっていきました。

—澤本さんが脚本を書く段階で意識したコメディのポイントはありますか?

澤本:僕がイメージしていたのは、ちゃんとフリがあって、それが最後に回収されて、見終わったときに気持ちよくなる、という脚本の伏線回収構造です。この映画にコメディとしての特徴があるとすると、伏線が明確なシーンではなくて、くだらないシーンになっているところですね。

浜崎:伏線の部分はくだらないほうが後から効いてくる。

澤本:そうそう。くだらない小ネタだけど、あれが実は伏線だったんだ、という感じで回収されるのが好きで。CMネタだったり、CMの技量を使って映画の脚本を書いた。という感じですね。

浜崎:でも、CMは時間が短いから伏線なかなか張りづらいですよね。だからなのか、澤本さんの伏線の張り方はまた独特で。

澤本:たとえば映画『白雪姫』の冒頭のキスは伏線ですよね。あれが電気のCMだとしたら、王子様がキスしたらビリビリしてビックリしたというCMが成立します。そういう感覚で、1個1個のシーンが15秒CMとして成立するようなものをネタとしてはめている感じですね。

浜崎:確かに、1シーンごとにCMっぽくて、そこだけ切り取っても形になるというか、ちゃんとオチがあって、くすっとくるポイントがあります。

澤本:そのあたりはCMをやっているからこその筋肉の鍛え方があるのかもしれません。キャスティングにしても古田新太さんは10秒ぐらいしか出てないものの、存在感が強くてセリフが面白いから、観客には古田さんで笑った記憶が残ると思いますが、あの感じはCMをやっているからわかるところですね。そこは伏線とも関係していて、古田さんがあそこで笑わせてくれるから、その後のJAXA宇宙飛行士 野口聡一さんが張っている露骨な伏線がわかりづらくて、ここはお笑いコーナーだなと思われるようにしているんです。

浜崎:観客の気を緩めておいてね。

澤本:伏線に対する煙幕としても使ったりしていて。CMの仕事をしていないと、ここに1回だけ古田さんを呼んで一言だけ言ってもらうのは申し訳ないと思います。でも、あのシーンを一般のおじさんがやっても同じようにはならないから大事なんです。

浜崎:1回面白いことが起こった後に野口さんが出てくるから、後々それが効いてきて。普通はそのためだけに古田さんは起用しないし、向こうもOKしないだろうと思います(笑)。

—キャストが豪華ですね。

浜崎:やっぱり脚本が特徴的だからだと思います。日本にはない感じというか、何なんだろうこれ、食べたことないなという感じで脚本を読まれたと思いますよ。

澤本:堤真一さんが「脚本がスピード感あって面白かった」と言ってくれて、堤さんにそう言っていただけるとうれしいですね。

—澤本さんはもともと映画をつくりたかったんですか。

澤本:僕は子どもの頃は「スターウォーズ」などのハリウッド大作が好きだったんですが、高校生のときに『家族ゲーム』(森田芳光監督)を見たら面白くて、その後に『時をかける少女』(大林宣彦監督)に出会い、この2つの映画を見たことで僕も映画をつくってみたいと思ったんです。でも、映画は上映時間が長い。受験勉強をしていても20分ぐらいで飽きて、お菓子食べるぐらい集中力がない僕には無理だなと思って。

浜崎:それは意外ですね(笑)。

澤本:CMは短いからいいぞと思って、撮影時間のことは考えずに、CMの世界に入りました。とはいえ、もともと映画は好きだったから、脚本を書くことができたのはうれしかったですね。映画をつくれたのもCMをやっていたからこそ。そもそもは僕がつくったCMを見た映画のプロデューサーが「このCMをつくっているんだったら映画の脚本を書けると思います」と言ってくれたことが始まりです。

僕たちがCMでやっていることは「企画」で、企画とはただ面白くすることではなくて、その構造自体が企画なんですね。僕は映画も同様に「企画」と考えて取り組んでいます。たとえば「予算がないから、90分間だけ同じ部屋の中だけでセリフ劇をやる」と言われたほうが企画っぽいし、その中でどうしたら飽きないかを考えます。途中で部屋の上から人を落としたり、その部屋にはじつは裏の部屋があるとやっていくと、企画として成立しますよね。

浜崎:映画もCMも同じ筋肉を使っている、ということですね。

—浜崎さんは映画の現場はCMの仕事と比べてみてどうでしたか?

浜崎:ひとつCMと違うのは、コンテありきじゃなくて、まずは芝居を見てからカット割りをするところで、そこはもう逆転しちゃってるんですね。役者が初めて澤本さんが書いたセリフを発して、こういう感じだな、こう動いたな、意外とこの人はうろうろしながらしゃべるなとか、そういうことも含めて現場でスタッフや俳優と話しながら、「こっちのほうがいい」とつくっていきました。映画の現場は、ある意味生ものなんだなと思いました。CMと映画の半分半分の筋肉を使った感じです。

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