コラム

そのイノベーションが、未来社会の当たり前になる。

坂井直樹×廣田周作 ニューノーマルの「好奇心とイノベーション」(後編)

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未曾有の危機で、断捨離すべきものも見えてきた

廣田:また質問が来てまして。時間の話です。9時~17時の勤務のような時間の使い方から、クリエイティビティを最大化する働き方、つまり、自分がアイデアを出せている時間のみ働くような働き方に変わっていくんだとしたときに、これからの時間の価値は、どう変わっていくとお考えですか。

坂井:例えば、僕はお客さんのところに行くときに遅れるのが嫌なんで1時間前に出るんですよ、車で。着いた場所で30分くらいスタッフとミーティングして、そのあと商談。でもこれが自動運転になって、車の中がオフィスとして使えるようになってきたら、ロス時間がゼロになりますよ。

廣田:車の中で働けるようになると、待ち時間がなくなると。

坂井:そう。例えば大きな駐車場がある会社だったら、前の夜の22時ごろに行って、車をベッドルームにして、翌朝8時に出て行けばいいんじゃないですか。だから、自動運転になったら時間が浮いてきますよ。

廣田:確かに時間って作ろうと思うと、まだまだ工夫によってはできるものかもしれないですね。次々質問が来てます。遠隔会議が常態化することで、デバイスを通した利用者のデータ取得をする接点が増えると思います。日本も中国同様、取得データを技術革新に使えるような法整備をするようになると思いますか。それとも個人情報保護の観点から、データの被取得者の権利として利活用できなくなっていくのか。

つまりデータを誰がどう持って活用していくのかっていう議論ですね。国家が非常に強い権限を持ってコントロールをしているかによって、オンラインのデータの扱いがまったく違っていくように思いますし、台湾なんかはソーシャルセクターがうまく機能していて、行政と市民をフレキシブルにつないでいますが。

坂井:データを使う権利をシェアしたらいいと思うんですよ。使ってもいいから何%払いなさいと。

廣田:情報銀行のような考え方ですね。情報銀行がデータを預かって企業に提供して、個人には、企業からリターンがある。

坂井:そうです。情報銀行みたいなのが一番いいと思うんですけどね。

廣田:次の質問です。少子高齢化が進んでいますが、坂井さんが考える解決のアプローチって何かアイデアがありますか。

坂井:あんまり考えたことがないんですけど、先進国は高齢化に向かいますよね。でも移民がたくさん入ってくる国なんかは、先進国でも若いんですよね。

廣田:フィジカルな高齢と精神的な若さっていうのは、違いますよね。坂井さんを見ていると僕なんかよりもずっと若いので、今後、上手に自分の加齢と付き合っていく、特にメンタルヘルスを意識していくことが必要なのかもしれないですね。

坂井:メンタルヘルス、重要ですよね。

廣田:このあいだ坂井さんにお聞きしてびっくりしたのですが、坂井さんは、高層マンションを階段で上り下りする運動をしているそうですね。

坂井:毎日、階段で10階降りて10階上がっていくんです。ストレスをすっ飛ばすんですよ、それで。力使うと脳が休んでくれますよね。メンタルヘルスは、これから重要になってくると思いますね。かなりの人間が孤独になって行くんでね。

廣田:坂井さん独自のセルフケアのしかたは?

坂井:ファッションですね。自己表現だし、「今日は何を着て行こうかな。今日はこんなお客さんだからこれにしよう」と考えることは楽しみのひとつ。そういうこともメンタルヘルスになるんじゃないかと。

廣田:リモートで服装を気にしなくなりがちですけど、むしろそこをケアすることって大事かもってことですよね。インサイトについてもう少し知りたいという意見が来てます。冒頭に少しインサイトについての本を書かれているという話が出ましたけれど、リモートで直接会えないので、例えば表情とか見づらいわけですよね、リアクションとか。その中で相手のインサイトが見えづらくもなっています。

坂井:コミュニケーション上のインサイトってことね。一般的にはコンシューマーインサイトって、顧客の隠れた本音とか購買意欲がどこにあるか、といったことを指しますが、テクノロジーにもサイエンスにもインサイトがあるし、インサイトはあらゆるジャンルに存在しているわけですよね。でも隠れてるから、ボーッと見てたら見えないわけですよ。

廣田:感性、肉体、頭脳、あらゆるところがフル回転しないと、見えないってことなんですね。

坂井:インサイトって言葉はちょっとわかりにくいと感じる方がいらっしゃると思うので、ちょっと話をすると、僕がアメリカで一番初めにインサイトっていう言葉を聞いたのがマーケティングのメンバーばかりが集まる会議で、こんな話をされました。ある中年の男がハーレーを買いたいと言い出す。モーターバイクが欲しいわけではない。本当に欲しいもの(インサイト)は「若さ」なんですね。

廣田:若さを買いたいから、ハーレーを買っている。人はものを買おうとしているわけじゃないんですよね。「ジョブ理論」じゃないですけど、人は買ったものを通して、何かを代替してるわけですよね。坂井さんご自身が、いま買いたいものってありますか。

坂井:ないんですよ。僕は、40歳前後までに買いまくったもんだから、なくなっちゃった。自動車も10台ぐらい持ってたんですけど、もう要らないんですよ。興味ないんです。ほとんどの消費って見栄でしょ。今回コロナでも、要らないものが見えてきたはずです。コロナ禍の有名な断捨離は、イーロン・マスクが巨大な豪邸を売ったことじゃないでしょうか。インサイトは断捨離だと僕は理解しています。僕、41歳の時にキャッシュでロスの家を買ったんです。ベッドルームが5つあるんですね。お風呂場が6個ある。

廣田:ここはヤバ過ぎですね(笑)。

坂井:維持費が大体100万かかるんですよ。メイドさんとか、芝刈りとか、プールにヒーターが入れられて。でも月100万って言うと、そこそこのコンドミニアムでも借りられますよね。すると所有してる意味がないんです。その証拠にこの家はもう何回も何回も売られてるんですよ。

廣田:1回は住んでみたいと思わせるけれども、住んでみると……。

坂井:僕、この大邸宅を買ったときに、なぜか、まったく満足感がなかったんですよ。

廣田:これからお金持ちの人は何を買いたがるのかっていう質問があったんですが。

坂井:僕はいまお金持ちじゃないから、それに答える権利はないけど。一般論で言うと、やっぱりセキュリティかな。ハッキングされない携帯電話とか。セキュリティの問題はものすごく深刻ですよね。

廣田:そうですね。そこが一番心配ですよね。このコロナで何か具体的に捨てましたかっていう質問もいただいてます。

坂井:ずっと乗っていたポルシェを処分しました。いまDiDiで動いてます。老人の運転事故のニュースが増えていますが、そういうことのリスクが怖くなりました。これは取るべきリスクじゃないと思ったんだよね。

廣田:結構勇気がいることではないですか、ポルシェを手放すのは。

坂井:皆さんそうおっしゃるんだけど、僕はぜんぜん何とも思わなかったですね。たった1日で決めて、妻にも言わずに先に売っちゃいましたから、事後報告して。

廣田:また面白い質問が来てまして、人々のアクティビティや価値観も変わっていると思うのですが、今後モテる男性、女性の基準は変化するのでしょうか。

坂井:20代の男女に一体、あなたは人生で何が欲しいのかって聞くと、男性はなんて言うと思いますか。

廣田:よくありがちですけど、ステータスとか。

坂井:そうですよね。リッチアンドフェイマス系ですよね。高級車がたくさん欲しいとか。豪邸が欲しいとか。女性に聞くとなんて答えると思いますか。愛って言いますよ。愛が欲しいっていう人類とリッチアンドフェイマスって絶対合わないですよね(笑)。お互い求めるものが違い過ぎる。

廣田:そこに男女のすれ違いが生まれる。

坂井:エロティシズムと経済、モテるモテないということによって、どれだけ産業が広がっていくのかっていうことを、いま執筆のテーマにしています。

廣田:デジタルのギャップについていけない高齢者を助けるべきですかという質問が来ています。つまりデジタルデバイドの質問で、上の世代を助けようと思っても、本人が動かないからサポートできない。自分ゴト化してないから周りがいかにたきつけても変わらないよね、ということだと思うんですが、現代に必要な他者への優しさ、ある種お節介でも変えたほうがいいのか、それとも諦めるのか、この辺どうお考えですか。

坂井:僕は諦めたほうがいいと思うけどね。中国って、どんな老人でもスマートフォン使ってるんですよ。なぜならスマホがないと生きていけないから。スマホの中にアリペイが入ってる、ウィーチャットペイが入ってる。それがなければ、切符も買えないし、食事も買えない。いま現金出すと嫌がる店舗が、いっぱいありますからね。クレジットカードも嫌がりますよね。中国は田舎までキャッシュレスが浸透してる。だから、そういう社会になったら、日本でもスマホを持ち出しますよ。でも今は必要ないんですよね。

廣田:確かにコンビニにATMがあって、そこで現金をおろすことができる国ですからね。次の質問です。業務が遠隔でもできるようになって、事務所が不要になると、困るのは従業員同士の偶然のコミュニケーションがなくなったこと。その点で、グローバルに活躍されている坂井さんは、物理的に離れたチームといわゆるセレンディピティである偶然性を作り出す工夫はしていますか。

坂井:やっぱりSNSですね。SNSを使ってない人は、すごく仕事が難しいですね。

廣田:アメリカの次世代SNSで、音声版ツイッターのClubhouseというのがあって、例えばオンラインセミナーも、そのアプリを使うと、乱入できる。そこでいっぱいいろんなセレンディピティが起こるというので、注目されているんですが、SNSも偶然の出会いとか意外な発見ができて、ブレイクスルーにつながりそうです。次の質問です。外出できなくなったストレスは大人だけでなく、幼い子どもたちも感じています。子どものストレスの問題とそれに対するソリューションはありますか。

坂井:孫がいるので、暇つぶしのサポートをしてるんですけどね、例えば千代紙を2000枚贈って、折り紙をするとか。折り紙なんてめちゃくちゃ時間がかかるんでね。

廣田:時間がかかる課題を与える。

坂井:昆虫の折り紙とか、面白いですよ。親と子どもが一緒にいる時間が増えるっていうのは、情操教育的にもすごくいいんじゃないですかね。

廣田:コロナ禍で、ヴァーチャルの価値観が大きく変わっているのではないか、という意見も来ています。これまではリアルの代替がヴァーチャルという考え方が多かったのに比べ、ウィズコロナ時代には、そもそもリアルでなくてもいいんじゃないかという意見ですね。eスポーツ然り。

坂井:そうですね。もうリアルもヴァーチャルもないですね。でも日本はまだそこがうまくいってないんですよね、あんまり。

廣田:ゲームを作るのは、日本はもともとうまかったんですけれど、オンラインゲームで言うとアメリカ・中国がすごく大きくなっていますね。

坂井:eコマースをやっていたアパレルとやっていなかったアパレルも、コロナ禍で明暗を分けました。インターネットを使ったビジネスもちゃんと組んでおかないと、危険ですね。リアルをやめるんじゃなくて。

廣田:どちらのチャネルも持っておくのが大事、ということですね。

坂井:アリババのスーパーマーケットなんかも、もともとeコマースの倉庫の延長ですし、考える順番が従来と逆なんですよ。

廣田:リモートトラストで結婚までできると思いますか、という質問が来ています。

坂井:囚人と結婚する人っているじゃないですか。スキンシップもできない。文通だったり、限られたコミュニケーションでも、結婚する人っていますよね。だからできると思います。

廣田:ウィズコロナ時代において、空間デザインの今後の可能性はなんだと考えますかという質問も来ています。

坂井:いい質問ですね。レストランなんかでは3密にしないための椅子のレイアウトの変更だとか、目的に合わせようとしてるんだけれど、デザインは追いついてないんですよね。

廣田:確かにちょっと残念ですよね。

坂井:その点、サイゼリアは量産型でも3密回避のレイアウトに一気に変えている。一度行ってみてください。

廣田:皆さん、いろんな課題とか悩みとか抱えて仕事をされている方も多いと思うんですが、坂井さんから励ましのメッセージを。

坂井:オンラインセミナーだと、僕は皆さんの顔が見えていないけれど、向こうからは丸見えっていうのは面白い体験でした。ぜひリモートトラストのスキルを磨いて、頑張っていきましょう。

廣田周作

1980年生まれ。放送局でのディレクター職、広告会社でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に独立。企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

 

坂井直樹(さかい・なおき)
コンセプター/ウォーターデザイン代表取締役

1947年京都生まれ。京都市立芸術大学デザイン学科入学後、渡米し、Tattoo Companyを設立。刺青プリントのTシャツを発売し大当たりする。73年、帰国後にウォータースタジオを設立。87年、日産「Be-1」の開発に携わり、レトロフューチャーブームを創出。88年、オリンパス「O・product」を発表、95年、MoMAの企画展に招待出品され、その後永久保存となる。04年、ウォーターデザイン(旧ウォーターデザインスコープ)を設立。05年、au design projectからコンセプトモデル2機種を発表。08~13年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス教授。著書に『デザインのたくらみ』『デザインの深読み』など。

 

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