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陳暁夏代×坂井直樹 対談 ~コロナ下の中国トレンドの移り変わり~

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内需シフトが加速

坂井:IP(知的財産)ビジネスの立ち位置はどうなっていますか。

陳暁:3年前ぐらいまでは海外の優れたIPをインプットする傾向でしたが、2019年から国内オリジナルが格好いいという方向にシフトしています。三次元でも二次元でも国内のIPに注力していて、コロナを機に加速している印象です。

坂井:鎖国状態に近いからね。

陳暁:災害や疫病といったやむを得ない事情が、経済とか文化にも影響を及ぼしますよね。一時的にはコンテンツが枯渇するかもしれないですが、長期的な目で見れば、より多くの内需を定着させるきっかけにもなると思います。例えば2016年以降、ミサイル問題をきっかけに韓流コンテンツは中国政府から圧力がかりました。韓流ドラマやK-POPが爆流行りしていた中国で、韓国籍の芸能人が活動できなくなった。すると今度は、韓国でデビューしていた中国籍の芸能人が、帰国してソロデビュー始めて、そこから中国のエンタメが伸びたんです。韓国で培ったスキルを国内で発展させていった。こういった外部遮断がもたらす国内コンテンツの成長への影響は大きいです。

坂井:中国の人のパフォーマンスをどう見ていますか。

陳暁:若い人は、世界中のクオリティの高いものを見ているので、10年前だとまだ国内のクオリティーも低く、ファンがつかなかったんです。今は海外の最新状況をローカライズしたアウトプットがなされてきて、国内のクオリティが上がり、ファンがちゃんとついてくるようになっています。

坂井:夏代さんの仕事で直接的な影響を受けた領域は?

陳暁:興行系ですね。中国向けに日本のアーティストを斡旋するキュレーターをしているのですが、2020年の公演や渡航は全てなくなりました。半年間なり準備をしていて、本番が1日の世界。延期・中止するのは簡単ですが、携わる多くのスタッフの生活に支障が出ます。いつ何が起こるかわからないからこそ、何かあったときに対処する能力を磨く。忘れかけていた野生を取り戻したといいますか。トラブル対応能力は鍛え続けないとなと思いました。常に臨機応変にですね。コロナに直面して、そういった意識が働いた人は多いのではないでしょうか。

坂井:中国も今年はローカルのほうに目が行くと。

陳暁:コロナ前から、中国では内需にトレンドが移行していますが、世界を見渡しても、コロナ後はビジネスもカルチャーも閉じてくると思うんです。そうして育ったものが結果的にインバウンドコンテンツとして好いてもらえる。そこに期待しています。これまでは世界に出る時、出た先の場所に合わせる思考でしたが、これからは、良いものをつくることに徹して、国内の100人を満足させられたら、世界の1万人が好いてくれるかも、くらいの気持ちでいた方がいいと思いました。

坂井:ちなみに、フェラーリはサーキットとイタリアで走る車としてつくられたことで、ブランドを築いてきましたからね。

陳暁:まさに、コロナ後はそうした思考が主流になりそうです。モノづくりは、各国で愚直にいいものを作っていく。一方で世界中から情報は入ってきますから、情報戦は別軸にあります。若者は積極的に世界中のいいものを探して情報を取りに行くと思うんですが、それ以外の人にどうやって伝えるか。良いものを摂取したいと思う海外の人たちへPRする、凄腕PRパーソンや戦略力が結構大事になってくるかもしれません。

坂井:加えてトップセールスも大事ですね。

陳暁:中国では、これまで無料のバラまきで定着させていたビジネスとか、安く売ってたくさんの人に使ってもらうビジネスとかが多くありましたが、内需シフトが加速したことで、良いものをつくって売るとか、高いものをその値段で売るとかがより課題になっていくと思います。

坂井:付加価値とかブランディングですね。

陳暁:日本に関しては、既得権益の突破が課題になってくるのではないでしょうか。Airbnb、UberEats、Zoomのような、壁を打ち破る海外からのサービスの襲来がコロナで少し止まったとき、国内でどんなものが生まれるか。冒頭にお話ししたオンライン化を妨げる気遣いや、すでにある便利な手段に甘んじず、どう変化していくか、が大事になっていきそうです。

坂井:これからの中国において、日本企業が取るべき戦略は?

陳暁:中国人は問屋思考だと思っています。どういうものを作っていて、成分が何で、何個売っていて、どういう思想を持っている会社なのか、シビアに見ています。ブランディングで固めている日本企業に対して「結局、それって何なの?」と問い詰めるわけです。良いものをつくって、内容を証明する。その方が中国人に買ってもらえるのが現状ですし、それが続いて行くと思います。俳優とか歌手についても同じで、演技力や歌の上手さとか、どれぐらい人徳があるかとかを見ている傾向があると感じます。

坂井:その点、日本の部品メーカーは強いですよね。

陳暁:そうです。もともと中国人がメイドインジャパンの製品を好きなのは、いいものだからです。大量生産でチープなものを見てきた中国人にとって、職人がつくったこだわりのもの、ストーリーがあるものは、希少価値が高い。それを、Made in Japan、サクラ、富士山のようなところだけを押し出しても、受け入れられません。そこを勘違いしている企業がまだ多いように思います。

坂井:いいものである証をどう海外に伝えていくか。コロナ下の情報戦において、今一度見直しておきたい視点です。

DIGDOG代表
陳暁夏代(ちんしょう なつよ)氏

内モンゴル自治区出身、上海育ち。幼少期から日本と中国を行き来する。上海・復旦大学在学中からイベント司会・通訳を行い、その後上海にて日本向け就職活動イベントの立ち上げや日系企業の中国進出支援に携わる。2011年より北京・上海・シンガポールにてエンターテインメントイベントを企画運営。2013年東京の広告会社に勤務。2017年、DIGDOG llc.を立ち上げ、興行のみならず日本と中国双方において企業のブランディングやクリエイティブを手がける。

 

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<目次>
 
■対談1 松岡正剛(編集工学者)
会社からオフィスが消え、街から強盗が消える?

 
■対談2 猪子寿之(チームラボ代表)
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■対談3 陳暁夏代(DIGDOG代表)
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