コラム

48歳のピボット・ターン 〜広告会社のCDが、テックベンチャーに入ったら〜

なぜ、48歳で転職したのか

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Think different. と Connecting the dots.

ここに帰ってくるのは8年ぶりだ。そう、アドタイコラムという場所のこと。僕は2013年に、ロサンゼルスのクリエイティブ・エージェンシー、CHIAT\DAYでの滞在記を連載させていただいた(『原田朋のCHIAT\DAY滞在記 ~リー・クロウの下で365日~』)。日本の広告会社に長く勤めていた自分の目に、アメリカの広告会社の毎日は何もかも新鮮に映った。まさか、もう一度アドタイコラムを書くことになるなんて。そして、自分が広告会社を離れることになるなんて。

ロサンゼルス滞在で学んだものは大きかった。もちろん、英語でのアイデア開発やブランディングという実務も学んだが、それ以上に、違う環境に身を置いて自分を相対化することを学んだ。違う環境にいくと、自分のスキルや、属していたカルチャーの特徴に気づく。二つの環境に身を置いて初めて、物差しが手に入る。それまでに培ったクリエイティビティを、いっそう意識的に使えるようになった。CHIAT\DAYでは、リークロウという伝説的なCDの元でブランディングを学び、大好きなAppleの「Think different.」を生み出したカルチャーに触れることができた。当時は「Think different.」という、僕自身が広告に夢中になったきっかけでもあり、意志を持って世界を変えるスティーブ・ジョブズ自身を表したような言葉に惹かれていた。でも8年経ってちょっと感じ方が変わったことがある。実は今、スティーブの言葉で一番好きなのは、「Connecting the dots.(点と点をつなぐ)」だ。

有名なスタンフォード大学の卒業式での彼のゲストスピーチでは、結びの言葉「Stay hungly, stay foolish.」がよく語られるが、「Connecting the dots.」の方が、今必要とされる人生観のような気がするのだ。これはスティーブの大学時代のエピソードが元になっている。何事にもやる意味を見出せなくなった大学時代、なんとなく興味を持ったカリグラフィー(文字を美しく見せる方法論)の授業に潜り込んだスティーブは、書体の美しさのとりこになる。文字の細かい造形や字間のつめ方を学んだ経験が、10年後にAppleで、美しいフォントを持つPCマッキントッシュを作らせた。カリグラフィーというdot(点)と、マッキントッシュというdotがつながっていた、と、分かるのは後になってから。マッキントッシュを作るために、カリグラフィーを学んだのではない。カリグラフィーに偶然夢中になったから、マッキントッシュが生まれたのだ。そんな考え方が、48歳で転職を決めた自分にもしっくりくる。

転職先へ向かう道。大学時代から慣れ親しんだ大好きなエリアでもある。

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