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震災から10年、住民参加型ニュースサイトの軌跡 ①新聞記者から、市民メディアへ

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日本初のVR動画ニュースサイト、「TOHOKU360」を立ち上げる

宮城県に赴任してからは慣れない記者職に戸惑いながらも、担当業務の合間を縫って被災した沿岸部へ足を運び、地域の方々からお話を伺いました。震災後、沿岸部は土地のかさ上げや宅地造成工事、防潮堤の建設にインフラの整備…と、日々姿を変えてきました。新しくそこに生まれる風景もある一方、その一瞬にしかない、消えゆく風景がたくさんありました。目の前の、その一瞬の空気をそのまま閉じ込めるように、この風景や人々の語りを書き残せないか。そんな思いで取材を続けていました。

「伝える」ことを職業にすることで、「伝わらない」悔しさを感じる機会も増えていきました。地域の外にいる人々に向けて、全く復興が進まない地域の現状を伝えようと記事を発信しても、震災から時間が経つにつれ、インターネット上では理解のない言葉も見られるようになっていました。

2013年12月の石巻市。被災した地域の現状を伝えようと、個人的に友人に向けてSNSにアップしていたうちの1枚。

もっと「伝わる」方法はないのか?新聞という媒体を超えて、あらゆる表現方法を使って「伝えること」の可能性を試してみたい。自然とそんな気持ちが膨らんでいきました。私は2年勤めた新聞社を辞め、宮城県で生活しながら、Yahoo!ニュース向けに記事を書く仕事を始めました。ネットの匿名コメント欄は容赦ないものですが、例えば被災した地域の現状を伝える記事に「動画」を付けると、その反応が明らかに変化する手応えも感じました。

そんなある日、ニューヨーク・タイムズが発表した「VR動画」を報道に用いたアプリを目にしました。360度、空間をまるごと記録して発信できるVR動画を使えば、地域の現状がより伝わるのではないか。そう感じ、さっそくVR動画を使った報道を模索していきました。動画の撮影や編集も、サイト制作も全くの初心者でしたが、全国紙や地元紙出身の記者・編集者やカメラマン、アナウンサー経験者らの協力も得て、2016年2月、「日本初のVR動画ニュースサイト」と銘打った独自メディア「TOHOKU360」を立ち上げました。

立ち上げ当初のTOHOKU360。すべてVR動画でニュースを作っていました。

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