脚本は菅田将暉と有村架純の当て書きだった
澤本:名前とか……すべての選び方が絶妙過ぎて。
土井:あれは僕もすごいなって思って。
澤本:そうそう。すごいですよね。
土井:人物を描くにあたっては、坂元さんの好きなものが羅列されているわけではなくて。麦と絹という人物を描くときに、イメージに近い人のInstagramをフォローして、彼らが読んでいる本や聞いている音楽をリサーチしてつくり上げていると。僕も坂元さんのインタビューを読んで、後で知ったんですけど。
澤本:へ~。
土井:もちろん、自分の嫌なものは書いていないと思います。けれど、あくまでも自分ではなくて、登場人物の趣味になってる。
澤本:うんうん。なるほど。
土井:麦と絹という2人の人物を描いているんだけど、自分が“描いている人”ではないという。ちょっとした距離感みたいなものがちゃんとある。一歩引いて見ている感じは、脚本の良さでもあります。
澤本:すごいなあって思いましたね。脚本も演出も、日本の映画になかなかない“その辺感”って言うんですか。すごい近しいところで起こっている感じがあって。
中村:そうですよね。それこそ、押井守さんとか。固有名詞も出てきたり。リアリティを感じさせる部分が多い作品ですけれど、撮り方で意識されることはあったりするんですか?
土井:固有名詞については、映画のなかで描くべきものに関しては嘘をつきたくないとおっしゃっていました。普段は様々な問題から「架空のものにしましょう」と簡単にやってしまうことが多いんですけど……。
中村:へ~。
土井:今回はそこをすごくこだわって、書棚に並んでいたり、彼らが実際に手に取って読む本であるとか、それこそ押井守さんであったり、Googleのストリートビューなどは、時間をかけて色んなところにお願いをして、許諾を頂く作業をしました。これは僕というより、プロデューサーが本当に頑張ってくれました。
澤本:リアリティでいうと、それこそ菅田(将暉)くんと有村(架純)さんは、当て書きに近かったんですかね?
土井:当て書きですね。ドラマもそうですけど、基本的に誰がやるかをイメージしながら描くのが坂元さんのスタイルなので。今回は菅田くんと有村さんでやりたいというのが先に決まって、そこからできた話です。
中村:はじめに坂元さんから脚本が上がってきて、その後当然、演出との間のすり合わせはされるんですよね。
土井:もちろん最終的な映画の脚本になるまで、かなりの段階があります。いきなり映画になった脚本をもらうわけではないので。坂元さんのイメージボードのようなものや走り書きをワーッと書いた何枚かの紙からはじまって。そこから長い時間をかけて1度かなり長いものができて、それがどんどん削られて2時間のサイズになる。本当に細かい作業をたくさんしていくので、いきなり脚本をもらって、演出的にどうするかっていうより、作業のなかでいろんな話をしながらできていくものなんですよね。
澤本:なるほど。
土井:もちろん最初に坂元さんが考えていたものと、最終的に映画の形になったものは、主人公のキャラクターなど、色んなことが実は違いますし。もちろん名前も違います。
中村:あっ、そうなんですね。
土井:最初の形と今の形では、かなり違うんですよ。ただ、芯の部分というか、恋愛がどうやってはじまって、どういう風に終わっていくのかを、ただ観察するような作品にしたいっていうのはブレていないです。そこに装飾されている周りのものに関しては、本当に変わりました。だから、固有名詞も、最初の方に出て来たものと最後のものはかなり違いますしね。
澤本:公開前のチラシは、ほぼ演劇のチラシだったじゃないですか。僕は試写で見せていただいたんですけど……。
土井:はい。
澤本:そのチラシの感じが映画の内容とものすごく似ているというんですかね。演劇感があるというとちょっと問題かも知れないけど、演劇で見ている近場の人のリアルな話が、まんま映画として生きている感じがあって。チラシと映画の内容は、まさにある種の広告展開になっているなとは思いました。
土井:澤本さんのような、広告のプロの方に言っていただけると、関わっていた人間はみんな嬉しいと思います。麦と絹という2人の主人公がそうですけど、どこかメインストリームじゃない人。よくアングラって言いますけど、どちらかというとそういう匂いの、例えば10人のうち8人が好きなものではないものを愛している人たちの話でもあって。
だから、メインカルチャーの線とはちょっと違う空気が全体としては通っているんじゃないかなと思います。でも、それをやりながらも、誰が観ても、「あっ、コレ自分の話かも」「今起きたこの瞬間、この空気なにか知っている、俺は」っていう気持ちになるところが、この映画の面白いところだなと思いますよ。
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