メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

菅田将暉、有村架純主演 映画『花束みたいな恋をした』の監督が明かす作品づくりのコツ(ゲスト:土井裕泰)【後編】

share

観ている人にあまり寄り添い過ぎない——土井さん流ドラマづくりとは?

中村:すみません、本当に学校の生徒みたいなことを聞いてもいいですか?

土井:はい。

中村:WEB野郎中村は、デジタル広告をたくさんつくっているんですけど、世の中の人たちに表現を見せるものでもありながら、短尺でもあったりデジタルでもあったりするんで、なかなか物語をつくる、ストーリーテリングができないことをすごくコンプレックスを感じているんですよね。そこで、ヒットを飛ばしまくれている土井さんから改めて、面白いドラマとは何なのか。土井さんなりのコツ、レシピみたいなものを教えていただきたいなと。

土井:なんですかね。今、「バズる」っていう言葉があるじゃないですか。だから、ドラマもリアルタイムにバズらせようって仕掛けをしたり、つくり手は色んなことを考えているし、実際に話題になっていいんだと思います。

ただ、むしろそういうことをあんまり考えないでつくったものの方が、いいんじゃないかなとは、すごく思っていて。そういう当たる要素を並べると、ある程度の結果は出るんですけど、まったく違う発想というか、誰も思ってなかったことをやったときの方が、ズドーンって突破する何かが生まれるんじゃないかとは、常に思っていて。だから、観ている人にあまり寄り添い過ぎないものをつくることは意識しています。

基本的には、人を描いているのがドラマかなと思っていて。ドラマをやっていると、ラブストーリーをやったり、サスペンスをやったりと、1年の間で色んなものをやったりするんですけど、基本的に人間の話じゃないかって。だから、自分の半径何メートルのなかの話の方が好きで、やりたいことではあるんですけども。今回の映画もそうだと思うんですけど、ある個人を描いていくと、何か色んなものが実は同時に描けているんじゃないのとは、思っていますね。

澤本:今回僕が観たときは、意外と発見に近くて。僕らがただすれ違ったりする人も、実はものすごくキャラクターがあるし、その人の人生を紡いでいくだけでも、随分とストーリーができる。だけど、どうしても僕たちって、そこに色を付け過ぎちゃうというか……。設定として、かなり派手にして分かりやすくしようとしちゃうじゃない。僕なんか自分で書くときに、1回見ただけでも、はっきり「こういうシーンです」って分かるように“しちゃいたくなる”というか。“しちゃわないといけないんじゃないか”って強迫観念があるんだよね。

中村:人間に対しての解像度が高い、想像力があるということなんですかね。

土井:僕たちのような、ものをつくっている人たちのなかには、澤本さんの言っているように、どこか強迫観念みたいなものがあります。だから、そこに分かりやすいスパイスや、甘いシーンはもっとお砂糖を足しましょう!みたいにしがちなんですけれども……。あえてそういうことをしないで、本当に素材と素材がかけ合わさったときに、何か違う味が生まれるみたいな。もうそれだけで、十分美味しいんじゃないの、とは思いますね。

だから、今回は坂元さんの脚本があって、菅田くんと有村さんがかけ合わさっただけで生まれるものを、ちゃんとすくい取るというか。本当にそれに徹する仕事だったと思いますね。

澤本:印象の押し付けがないんですよね。今回の映画って。例えば僕らもやってしまいがちなのは、緊張するシーンだから緊張する音楽をつけて、みんな緊張してねって記号をバンバン発しちゃうことがあるんですけど。音楽のつけ方で、今回はあんまりそういうのがないような気がしていて。観た人の気持ちや流れを大事にして、解釈はみなさんに委ねていますし。演じてくれている人の言葉で、すべて語りつくしていますよ、という感じを観ていてすごく受けました。音楽って、そういうのを意識されていたんですか。今回は。

土井:前半は2人の関係ができていく話でもありますし、ある種のモンタージュ(視点の異なる複数のカットを組み合わせて用いる技法)というか。本当に1、2行のシーンの積み重ねと、そのモノローグ(感情や場面に対する感想を観客にも分かるように述べるという演出技法)の積み重ねでできていて、前半は音楽をつけるというイメージがありましたけど。音楽は大友(良英)さんにつくって頂いたんですけど、実際に最終的な段階では後半は音楽をほぼ省いた結果になっていて。

澤本:はいはい。

土井:むしろ音楽をつけられない、音楽をつけたことによって、本当に大事なものが、ちょっと遠くなってしまうイメージがあって。結果的に後半はほとんど音楽がついていないんですよね。

澤本:ですよね。そういう印象がすごい強いですね。

土井:だから、最後の最後、ファミリーレストランの長い長いシーンの本当に一番最後になって、やっと何か流れるというか。

澤本:うん。

土井:変な話、つけられなかった。

澤本:なるほど。

中村:へ~。

土井:麦と絹の2人を観ているだけで、何も足したりしない方がいいなっていう気持ちにさせられたので。

次ページ 「監督の仕事は場の空気づくりが8割」へ続く