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SNSの「話題」から読み解く最新トレンド Vol.1 若者にもしっかり届いた、ポカリスエット「でも君が見えた」篇

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SNS時代のブランドコミュニケーションのあり方

実は、今回のポカリスエットのCMのようなブランド広告(ブランディング広告)と、SNSは、必ずしも親和性が高いとは限りません。

広告に限らず、「ブランド」にとって、SNSは敵にもなれば、味方にもなりうる存在です。SNSはあくまでもユーザー(利用者)主体のメディアで、企業側が情報を管理することはできません。「ブランド」側が望んでいるような情報をSNSユーザーが発信したり、拡散したりしてくれるとは限りません。むしろ、そうでないことの方が圧倒的に多いのです。

「高嶺の花」の憧れの人よりも、面白い親しみのある友人の方が、仲間の間で話題になりやすいものですが、SNSにおいても同様で、洗練されたブランドや作り込まれた映像よりも、突っ込みどころのある身近なネタの方が、概して話題は広がりやすいものです。

そうした中、ポカリスエットのCMが話題になったのは、映像の美しさや、新型コロナ禍にある若者を元気づけるようなメッセージ性が大きく貢献したことは間違いありませんが、「しくみ」の部分も大きいと思います。

テレビCMでも、この「でも君が見えた」篇の15秒版、30秒版は流れていましたが、ブランドのメッセージと世界観をしっかり伝えているのは、60秒の「完全版」です。ネット上においては、この60秒版のCM動画へと誘導する動線が、自社メディアや関係者、外部メディアから複数作られています。

映像の話題に戻りましょう。CM動画は、あまり考えずに視聴しても、強く心が動かされる作りになっていますが、波打つ廊下、吹き付ける風、タイトルの「でも君が見えた」など、パッと見では理解できない「深み」も兼ね備えています。

動画を視聴して感動した人、興味を持った人、ディテールに気になった人が、より深く理解するための情報も、しっかりと用意されています。メイキング映像もそのひとつですが、実はポカリスエットの公式ツイッターアカウント、公式サイト、ニュースリリースなどでも、映像の世界を読み解く「ヒント」が散りばめられています。
つまり、ブランド側が用意してくれた情報にアクセスしてヒントを得て、改めて映像を視聴すると、ディテールに込められたメッセージが理解できる……という作りになっているのです。

新ヒロインの中島セナさんは知る人ぞ知る的な存在でしたし、BGMを担当しているミュージシャンの「A_o(エーオー)」も、当初は「謎の二人組」とされていました(監督の柳沢翔さんがヒントになるようなツイートをされていたり、後でネタバレがありましたが)。

こうした「情報不足」の状態は、SNSでの話題化という点では、阻害要因になりがちなのですが、今回の新CMに関しては、ブランド側がうまくコントロールしながら情報を出していくことで、人々の興味、関心を維持、広げていくことに成功していると言えるでしょう。

ポカリスエットの「でも君が見えた」篇は、その作り込まれた映像美から、ひとつの「映像作品」として話題化し、その内容が論じられがちですが、ブランドの世界観を伝えるための「しくみ」という点においても、多くの示唆に富んでいます。

ブランドコミュニケーションにおけるデジタルメディアの活用は、多くの可能性とともに、大きな課題も抱えています。特に、「デジタルネイティブ」である若年層に対して、ブランドをいかに浸透させていくのか? について、多くの企業が頭を悩ましています。

そうした点からも、本CMのデジタル上の「しくみ」から学ぶべき点が、多々あると思います。

西山守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント/桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

1998年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(物理学専攻)、同年4月電通総研入社。2016年12月電通を退社、2017年5月西山コミュニケーション研究所代表。2021年4月に桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授就任(主に、広告・マーケティングを教える)。

電通総研においては、主に、情報メディア関連、地域開発関連のリサーチ、コンサルティング業務に従事。電通では、主にマーケティングメソッド、ツールの開発やソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングの業務に従事。ソーシャルメディア、戦略PR等を活用した、リスクマネジメント、レピュテーションマネジメントに多数の実績あり。大手企業のソーシャルリスニング、およびマーケティング支援業務、官公庁や大手メディア等のリスクモニタリング、リスクコンサルティング実績もあり。

独立後は、電通グループを中心に、ソーシャルリスニングやSNSマーケティングをはじめとするコンサルティング業務や人材育成を行う。

これまでの著書(共著含む)に、『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)の企画・編集・執筆、『クロスイッチ -電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)の企画・執筆、『リッスンファースト!』(翔泳社)の翻訳出版を監修、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(フィギュール彩)の執筆(共著)。