「有効フリークエンシー3回」というマジックナンバー
なぜ、このコラムで『広告が効くとき』について言及したのか。その理由は、この書籍では当時のテレビスポットのプランニングにおける伝統的な考え方が一部否定されていたからです。それは「有効フリークエンシー」という考え方です。
テレビスポットのメディアプランニングにおける常識のひとつに「リーチ3+」とか「3ヒットセオリー」と言われるものがあります。ターゲットセグメントに対するCMの接触回数、つまりフリークエンシー(広告接触頻度)を3回以上設定すべし、という考えです。つまり効果的な広告効果が発揮されるためには、フリークエンシー3回以上のリーチ(到達人数)であるというものです。
ジョーンズ氏によれば、この有効フリークエンシーの議論は古く、テレビに関しては1960年代からあったようです。ウィキペディアで調べると、1885年にはトーマス・スミス氏が書いた「成功する広告」のガイドラインでは、「20回目の接触でやっと購入する」のように回数が説明されています。19世紀末にはすでに広告によって購買まで結びつくには、どれだけ見てもらう必要があるのか、が課題になっていたことが分かります(ある意味これは広告というよりも商売における「セールス」のノウハウを示しているとも言えます。営業は何度も顧客に商品を買ってもらうように説得する必要があるからです)。
しかしながら、スミス氏の説明は、想像上の広告接触者の反応を記したもので、実証的なデータはありませんでした。
有効フリークエンシー3回というマジックナンバーを生み出したのは、1970年代にゼネラルエレクトリック社で調査担当だったハーバート・E・クラグマン氏で1966年から75年の間に発表した記事で主張したものです。面白いことにクラグマン氏が示した3回とは、スミス氏と同様に、メディア接触のデータというよりも、広告接触をした視聴者の心理学的なステップを示したものでした。
広告接触1回目:未知のものに対する好奇心喚起 「これは何だろう?」
広告接触2回目:認知と評価 「これは何について?」「以前見たことがある」
広告接触3回目:記憶の喚起と行動 「思い出させる」「(評価がポジティブなら)買う」
クラグマン氏自身はメディア接触や購入のような実証的なデータをもとにしたものではありませんでしたが、この見方を積極的に支持する調査結果が1966年にコリン・マクドナルド氏がメディア接触と購入データを結びつけたシングルソース調査によってもたらされました。マクドナルド氏によれば、1回の広告接触では購入に至るには不十分であり、この見解はクラグマン氏の主張とあいまって、効果的な広告を実施するにはある閾値を越えた量が必要であるという常識につながったのです。
ジョーンズ氏は前述の書籍のなかで、最終的にはこの有効フリークエンシーという考え方を、ニールセン社から得られたメディア接触と購入データを結びつけたシングルソースの結果を分析したうえで吟味しています。彼の主張によれば、マクドナルド氏による有効フリークエンシー自体はクラグマン氏の心理学的な解釈を間違って用いたためであり、広告接触は1回でも効果を発揮するというものでした。
広告接触は一回で良いの?
ジョーンズ氏の広告接触は1回で良い、という考えは、彼が設定している期間が短いこと(7日間)も頭に入れる必要があります(もっともマクドナル氏ド氏が唱えた購入前のメディア接触はさらに短く4日前から2日前でした)。購入の直前に広告の1回接触というこの考えは、その後「リーセンシー(直近のこと、購入前の広告接触)」というメディア戦略につながっています。
特にジョーンズ氏が調査データとして活用した生活用品や食品のようなパッケージグッズは繰り返しによる購入頻度が高い商品ですので、ジョーンズ氏が設定した7日間は短かすぎるとはいえないと思います(99年にリーセンシープランニングを主張したアーウィン・エフロン氏は、購入前の広告接触が効果的であるからこそ、その期間のみならず購入への空間的な近さ(近接性)や、購入者が受け取るメッセージの内容の受容性も要因に数えています)。
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