広告・メディアビジネスのDXの進捗は何点?「Advertising Week Asia2021」登壇者への一問一答➁

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ニューヨーク、ロンドンをはじめとした世界6大陸で開催されているマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベント 「Advertising Week(アドバタイジング・ウィーク)」のアジア版である「Advertising Week Asia(アドバタイジング・ウイーク・アジア)」が5月27日にオンラインで開催された(5月27日開催のイベントは6月25日までオンデマンド視聴が可能)。9月1日、2日は東京ミッドタウンでのリアル・イベントとオンラインの組み合わせによるハイブリッドでの開催も予定している。
2004年に米国・ニューヨークで始まった「Advertising Week」は、2016年から東京を舞台に「Advertising Week Asia」が開催され、今回は連続6回目の開催にあたる。「Advertising Week Asia」に登壇したスピーカー5名に「広告ビジネスにおけるイノベーション」をテーマに、4つの質問を投げかける。

Advertising Week Asia(アドバタイジング・ウイーク・アジア)」は5月27日にオンラインで開催(6月25日までオンデマンド視聴が可能)。

あらゆる産業において、顧客の変化に合わせて、ビジネスの形自体を大きく変えざるを得ない状況が生まれています。 そのひとつの活動がDXの推進ですが、目指すべきゴールが見えなければ、デジタルのような手段は活用ができません。それでは、「広告・メディア」ビジネスは、いったい何をゴールに時代に合わせた進化を遂げればいいのでしょうか。広告ビジネスのど真ん中にいる方、テクノロジーの力をもって新しく広告ビジネスに参入してくるプレイヤーなど「Advertising Week Asia」に参加するメンバーに一問一答形式で回答してもらいました。

ひとつ目の質問は「日本の広告メディアビジネスの最大の課題は何だと思いますか?

今回の質問は「現在、あなたがいる業種において、(広告・メディアビジネスの)デジタルトランスフォーメーションは進んでいると思う?進捗を点数で表現したら何点だと思いますか?」です。

Question「現在、あなたがいる業種において、(広告・メディアビジネスの)デジタル・トランスフォーメーションは進んでいると思う?進捗を点数で表現したら何点?」

【安藤氏のAnswer】

博報堂DYホールディングス/博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 
常務執行役員
安藤元博氏

何を100点と置くかで、どうとでもいえるので点数そのものにあまり意味はありませんが、あえていえば業界全体では20点くらいでしょうか。広告・メディア領域のデジタルトランスフォーメーションは緒についたばかりだと思います。

デジタル広告の拡大そのものがDXではないのは当然として、ではこの産業を革新することの本質は何でしょうか。私は、マーケティングの一環である広告コミュニケーションの目的は、企業と生活者の創発による「価値創造」にあると考えています。どのようなターゲットに何が到達しているのか?その反応が見えにくい一方的な広告出稿、目的にストレートに答えることができないプラニングやバイイングがあるならば、変えていかなければなりません。

あらゆる広告メディアを通して「誰にどのような」伝達・提起をするのかを一元的に自由に選択でき、生活者の反応が統合的に可視化され、それを踏まえて新たな広告をしていく。その連続の結果として、企業と生活者の双方で「価値」がつくられていく。こうした、広告を通じて生活者と企業が「対話」(*比喩です)するための十全な仕組みをつくらなければなりません。マーケティングにおける価値創造はコミュニケーションのみでおこなわれるわけではありませんが、しかしその重要な要素となるのです。

博報堂DYグループが提唱するAaaS(Advertising as a Service)は、広告メディアビジネスのDX、ビジネスの主軸をモノ的な「枠」から「サービス」に変えていくことを目指しています。そのためにまず、2年間をかけてこれまで分断していたテレビとデジタルの膨大な取引データを一元化して扱うことのできる独自のDWH(データウェアハウス)を構築しました。さらに統計的に生活者データを掛け合わせAIを活用することにより、その目的を果たし始めています。今後、扱えるメディアも拡充し、アルゴリズムを充実させ、UIを工夫し誰にでも扱いやすい形にしていきます。

加えて、これは誤解されやすいので強調したいのですが、データの蓄積とAIを活用した高度な処理、「装置」の進化が重要な一方で、それを使うのは「人間の意思と創造力」です。自動化できる要素が増え処理が高度になることと、すべてが機械化されることとはまったく別のことで「データ・AI・人」の「組み合わせ」が答えであることなど議論するのも馬鹿馬鹿しい程に自明です(10年も前に上梓されたブリニョルフソンとマカフィーの印象的な書『機械との競争』にもそのことは明記されています)。DXに際し、広告会社をはじめ業界にかかわる我々には強い力をもつ「人」を育てることが不可欠であることは言っておきたいと思います。

個人的な経験から振り返りますと、2010年代は「データドリブンマーケティング」が定着していく10年だったな、と思います。6兆円の広告産業のDXも一朝一夕に達成されるものではありません。2020年代を通じて、広告メディアビジネスのDXは(「DX」という流行り言葉は仮に廃れたとしてもコトバを変えて)この業界に携わる私たちみんなが取り組み続ける課題になるでしょう。しかしだからといって、ゆったり構えてはいけません。待ったなしの、未曾有の変化が加速していきます。

これからは、現在の規模の大小やこれまで業界の中心にいたかどうかは関係なく、慣習にとらわれるプレイヤーは脱落していきます。同時に、目新しくても短期で自社の利益だけを得ようとするプレイヤーも長続きはしないでしょう。この産業のエコシステム全体を本気で進化させようとする力と意思をもつものが主役になります。私個人も、所属企業を超えて意を同じくする皆さんと一緒に、その変革に貢献していきたいと思っています。

【笠松氏のAnswer】

イグナイト
代表取締役社長
Executive Producer
笠松良彦氏

デジタルトランスフォーメーションは手段なので、ここではビジネストランスフォーメーション(BX)として回答しますと、その進捗状況は、10点くらいだと思います。

その理由は前回の質問Q-1と同じです。カスタマイズが必要なフルオーダーなプランニング・バイイングと、誰でも簡単にプランニング・バイイングが可能なイージーオーダーの両方の仕組みが存在していないこと、もしくはまだ行き届いていないこと、そしてメディア投資の効果を可視化できる高度なMarketing Mix Modelingのデータ解析手法とシステムを持つ会社が限定的である、からです。

【沢目氏のAnswer】

アクセンチュア
インタラクティブ本部 プリンシパル・ディレクター
沢目宗明氏

点数で表現すれば30点、まだまだDX(デジタルトランスフォーメーション)は進んでいないと感じています。DXを成功させるための要素として、戦略、人材、データ、プラットフォーム、等があると思いますが、広告・メディアビジネスで大きく遅れているのが、戦略と人材ではないかと考えています。

デジタル人材不足は広告・メディアビジネス業界に限らず、全ての業界で起こっている問題ですが、戦略不足も大きいのではないでしょうか。具体的には、DXで何を達成したいのかという目的・ビジョンがあいまいのような気がしております。様々なデータを収集・蓄積し、複雑なプラットフォームを構築しても、活用する目的・ビジョンがあいまいなためにDXの進捗が遅れているのではないか、言い換えるとDXの効果を享受できていないのではないかと感じております。

広告主サイドから見ると、広告領域のデータの活用は、業種や商品・サービスの特性ごと、あるいは顧客タイプごとにカスマイズして設計しないと十分な成果を出すことは難しいと考えられます。また、データの収集・加工から分析・可視化、様々なタッチポイント(チャネル)での活用まで一貫して最適化する設計が必要ですが、広告・メディアビジネス側のデータプラットフォームとシームレスにつなぐ仕組みなどが不備であったり、非常に手間やコストの掛かる作業になっているため、上手く対応しきれていないというのが現状ではないかと考えております。

メディア、広告会社、広告主のそれぞれの立場で、保有するデータの種類や活用目的が異なるのは避けられませんが、3方良しの成果を上げていくためには、三位一体でデータを活用するエコシステム作りなどの戦略を検討する必要があるのではないかと感じています。

【塚本氏のAnswer】

アマゾンジャパン
アマゾン アドバタイジング ジャパン カントリーマネージャー
塚本信二氏

日本におけるデジタルトランスフォーメーションは進みつつあると感じていますが、広告業界全体のデジタルトランスフォーメーションの進捗を表現することは非常に難しいと考えています。近年、インターネット広告費がテレビメディアの広告費を上回り、日本のお客様のオンラインでの滞在時間が増加するなどの変化が起こるなかで、私たちが最も重要視すべきことは、常にお客様に優れたブランド体験を提供し続けることだと考えています。Amazonはお客様を起点に考え行動します。お客様が最終的にどこで商品を購入するかにかかわらず、常に変化するお客様の行動やニーズを理解し、良質なブランド体験を提供し続けることが重要です。

Amazonは地球上で最もお客様を大切にする企業になることを目指しており、このミッションは決して終わることはありません。私たちは、日々変化するお客様、ブランドや広告主様、代理店様のニーズにお応えできるよう、努めてまいります。私たちの取り組みの現在地を示すとすれば、Amazonは常に「Day One(デイ・ワン)」にいると考えています。

【長崎氏のAnswer】

講談社
ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 IT戦略企画室 室次長
長崎亘宏氏

自らを省みるという意味でも、50点ではないでしょうか?そもそも、出版社のビジネスは、電波系、通信系のメディアとは異なり、広告収入と販売収入で成り立っています。2020年の紙+電子の推定販売金額は、前年比4.8%増の1兆6168億円。紙の小幅な減少に対し、電子が大きく伸長した結果、2年連続のプラス成長となりました。コロナ禍における「巣ごもり需要」も後押ししています。

一方の広告収入は、雑誌+デジタル合計で前年比19.7%減の1669億円。雑誌27%の大幅な減少を、二桁成長のデジタルがリカバーできませんでした。いわば、B2Cビジネス(課金)のDXは進み、B2Bビジネスのそれは発展途上にあります。それでも、マス四媒体由来のデジタル広告市場803億円の過半数である446億円が雑誌由来であり、レガシーメディアのトップランナーであるという見方もできます。

ところで、60億5500万という数字。これは日本ABC協会が査定した出版社28社/122メディアの月間PV数です。私がメディアプランナーの皆様に問いたいのは、スケールとともに、その定義です。変なたとえで恐縮ですが、鉄道業界には路線の乗客数と、駅の乗降客数があります。デジタルプラットフォーマーによるトラフィックは前者、コンテンツメディアのそれは後者に近いのではないか、と私は考えています。いわば、「運ぶ力」と「留める力」。雑誌由来のデジタルメディアは今後、ステーションパワーとしての価値を証明し、磨いていくべきではないでしょうか?そして、こちらにおいても広告主の事業成長との関りは重要となり、そのためのメジャメントが必要になるのはいうまでもありません。

■回答者5人のプロフィール

博報堂DYホールディングス/博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 
常務執行役員
安藤元博氏

1988年博報堂入社。以来、主にマーケティングセレクションに在籍し、数多くの企業の事業/商品開発、統合コミュニケーション開発、グローバルブランディングに従事。現在、博報堂DYグループの“生活者データ・ドリブン”マーケティングの中核推進組織を率いるとともに、広告メディアビジネスの次世代型モデルAaaS(Advertising as a Service)の推進責任者をつとめる。ACC(グランプリ)、Asian Marketing Effectiveness(Best Integrated Marketing Campaign)他受賞多数。ACCマーケティングエフェクティブネス/カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル等の審査員を歴任。著書『マーケティング立国ニッポンへ-デジタル時代、再生のカギはCMO機能』(共著)等。

 

イグナイト
代表取締役社長
Executive Producer
笠松良彦氏

1992年博報堂入社。営業職として、媒体・制作・PR・イベント等、コミュニケーション戦略全体を統括。2001年電通入社。メディアマーケティング局チーフ・ストラジテストとして生活者データや実際のキャンペーン事例に基づくプランニング手法を中心に、クリエーティブやプロモーションとのシナジーを考慮した統合プランニングなど、データドリブンなメディアプランニングの手法やデータベース構築に尽力。2005年10月~、電通とリクルートのジョイントベンチャーであるMedia Shakers代表取締役社長に就任。R25を中心とした新しいクロスメディアのビジネスプラットフォーム事業を推進。電通コミュニケーションデザイン・センターを経て、2010年7月にignite(イグナイト) 設立。クライアント社内の「事業開発」「課題解決」のためのプロジェクトマネジメント実績多数。

 

アクセンチュア
インタラクティブ本部 プリンシパル・ディレクター
沢目宗明氏

外資系広告会社のメディア部門で、25年以上に渡り、メディアプランニング、リサーチ、広告の費用対効果コンサルティングを経験。 2016年よりアクセンチュアに参画し、インタラクティブ本部でメディア・マネジメント及びマーケティングROI分析をリード。グローバルクライアントはもちろん、日本の大手クライアントの日本国内における広告プロモーションのメディアプランニングから効果測定・改善アドバイスを数多く経験。30年に渡ってマス・デジタルのメディアプランニングから効果測定まで一貫したサービスを提供。

 

アマゾンジャパン
アマゾン アドバタイジング ジャパン カントリーマネージャー
塚本信二氏

三井物産入社後、米クリティカルパス バイスプレジデント、マイクロソフト アドバタイジング シニアディレクター、ライムライト・ネットワークス・ジャパン株式会社代表取締役社長を歴任。その後2012年より、アマゾンジャパンの広告事業の統括事業本部長兼ディレクターとして広告事業の本格的な立ち上げに参画。2019年よりアマゾンアドバタイジング ジャパン カントリーマネージャーに就任し現在に至る。

 

講談社
ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 IT戦略企画室 室次長
長崎亘宏氏

広告会社でのメディアプランニング職を経て、2006年 講談社に入社。広告営業と企画開発を担当。2010年より、雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」設立・運営に従事。2014年より、JIAAネイティブ広告部会座長として、ガイドラインや広告効果指標を整備。2017年より、日本ABC協会雑誌ブランド指標ワーキンググループのリーダーとしてメディアデータの再編に従事。

 

■広告ビジネスにイノベーションを起こすのは誰?(4つの質問)

Q1:日本の広告メディアビジネスの最大の課題は何だと思いますか?
Q2:現在、あなたが所属している業種において、広告・メディアビジネスの)デジタルトランスフォーメーションは進んでいると思いますか?進捗を点数で表現したら何点でしょう?(本記事です)
Q3:広告・メディアビジネスの目指すゴールと、DXの果たす役割は何ですか?
Q4:10年後も生き残る「アドパーソン」にはどのような(広告・メディアビジネスの)スキルが求められると思いますか?

※随時、各質問に対する皆さんの回答を掲載していきます。

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