従業員エンゲージメントを高めるために広報ができることとは?

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リモートワークが常態化する中、改めて注目が集まる従業員エンゲージメント。その向上のために広報は何ができるのか?「従業員エンゲージメント向上プロジェクト」第1回では、4社の広報担当者と専門家3名が集まり意見交換を行いました。

広報の視点から、従業員エンゲージメントについて意見交換。

宣伝会議は6月1日、従業員エンゲージメント向上に貢献する広報活動について議論するプロジェクトを発足しました。さまざまな立場の広報担当者と意見交換を行い、誌面で活動報告していきます。

第1回は、アドビ、オムロン、スクウェア・エニックス、スマイルズの広報関連部門の担当者が参加(五十音順)。さらに『エンゲージメント経営』著者の柴田彰氏(コーン・フェリー・ジャパン)をゲストに迎え、ボードメンバーとして、ブランディング支援を行うクリエイティブエージェンシーCINRA、メッセージの共感度を可視化する共感モニタリングサービスを提供する日立製作所が参加しました。

重要性が増す理由

なぜ今、従業員エンゲージメントが大事なのでしょうか。その理由について柴田氏はこう指摘します。「会社の戦略+従業員エンゲージメント+従業員を活かす環境、この3要素がそろうと会社の業績は向上します。調査でも従業員エンゲージメントの高さが、中長期の会社の業績を左右することが分かっています。コロナ禍でエンゲージメントを維持する企業は、社員や家族の安全が第一と真っ先に伝え、いち早くリモートワークの環境を整備しました。継続するコロナ禍では従業員の関心が『会社は生き残っていけるのか』に移っています。新しい環境での存在価値を効果的に伝えなければ、エンゲージメントは損なわれてしまいます」。ここで注目したいのは、従業員エンゲージメントと相関の高い項目が「顧客に対しどんな価値を提供しているかに、社員が自信を持っている」である点。

「福利厚生ではエンゲージメントは高まりません。従業員がなぜ会社が存在するか腹落ちしている状態が、エンゲージメント向上に最も効く。にもかかわらず、それを実現できている会社は多くありません」と柴田氏は言います。

まずは自社の水準を知る

では、エンゲージメントを高めるために、広報が担うべき役割は何でしょうか。柴田氏は ①従業員エンゲージメントのモニタリングをして自社のレベルを正しく知る ②経営からのメッセージ(自社の存在意義や価値)の浸透に関してコミュニケーションのプロとして支援する ③非対面をベースとしたインターナル・コミュニケーション基盤を確立する、の3つを挙げました。

出所/コーン・フェリー

参加者の関心が集まったのは1のモニタリングでした(表参照)。

「これまで経営企画や人事が担当するケースが多かったモニタリングですが、海外や日本の先進企業では広報部門が主導するケースが増えています。インターナル・コミュニケーションや経営トップの意思決定がエンゲージメントに大きく影響するからです。人事部門だけだと最終的な打ち手が人事制度になりがちです。モニタリングでは、まず全社員対象のアンケートで自社のエンゲージメントレベルを知り、低下しているなら原因のありかを探る。健康診断と一緒です。その仮説をもとに、次は個別・グループインタビューで具体的な原因を把握し改善の指針を得る。望ましいのはアンケートとインタビューの組み合わせです。調査で上がってきた課題については、まず経営陣が優先順位を決め、個別のアクションについては広報部が管理し、数年単位で効果測定しPDCAを回すといいでしょう」(柴田氏)。

求心力を保つ、各社の取り組み

リモートワークにより各社が直面しているのがコミュニケーション量の不足です。広報部門はどんな工夫で会社への求心力を保っているのでしょうか。

2020年3 月から全社員リモートワーク体制をとるアドビでは、コミュニケーションの活性のため、米本社から毎週5分間のニュース番組をグルーバル社員に向け配信。CEOが登壇する全社ミーティングはオンライン化し、アメリカ時間・ヨーロッパ時間・アジア時間と分け数カ月に1回行っています。国内向け社内報もデジタルに切り替えました。ランチタイムには1時間、オンラインで事業部の部門紹介を行い、人事部門や社長室と連携しながら、新入社員の企業理解促進や部門のサイロ化解消に取り組んでいます。

アドビ
情報を共有し、社員同士の意見を語り合える環境をつくるため、毎週5分間のニュース番組をグローバルで配信。

京都で創業し創業88年を迎えるオムロンは、3万人弱のグループ社員のうち約6割が海外社員。企業理念の浸透を図るため、日々の仕事や職場で「いかに理念を実践しているか」をチームごとにプレゼンテーションし表彰するプログラム「TOGA(The OMRONGlobal Awards)」を、1年を通じて行っています。各エリアから勝ち上がったメンバーは京都に集まり役員らの前でプレゼン、褒め称え合います。コロナ禍でも継続し、サステナビリティにつながるテーマも多数出てきました。

オムロン
日々の仕事における企業理念実践を全社員で共有し、讃え合う表彰制度(TOGA)を2012年からグローバルで実施。企業理念の実践度合を評価する。

スクウェア・エニックスは、従業員数の増加に伴い、2019年よりインターナル・コミュニケーションの取り組みを開始。全社員へのアンケート調査で見えてきたのは、一体感の醸成や理念浸透、社内の相互理解に関する課題でした。そこで社内サイトをリニューアルし、2年を経た現在は、業務情報だけでなく広報からのコンテンツを充実させています。リモートワーク導入後のコミュニケーションの希薄化をいかに打破するか。広報、人事、総務の部門での検討を行っています。

スクウェア・エニックス
社内サイトを中心に、社員に対して様々な社内の情報を提供。社員が経営方針や企業価値への理解を深めることで、会社と社員の意識を一致させることを目指している

飲食・小売店の運営などを行うスマイルズ。その事業会社、スープストックトーキョーでは「世の中の体温をあげる」という理念への強い共感を持ち「ファン以上」の存在として自走できる人を採用しています。投稿機能がついたウェブ社内報は、社長が一番乗りでコメントし、アルバイトも参加できる仕組みです。グループ各社に広報が毎週配信するニュースレターでは、業務以外の会話のきっかけになるコンテンツを設計。人事チームと連携し、社員の人柄が分かる情報も配信しながら、コロナ禍でも従業員同士のコミュニケーションを生み出しやすくしています。

スマイルズ
「最近、おすすめの春ソングは?」「祝・ママ社員さん続々復帰!」など開封したくなるニュースレターを毎週配信。会話のきっかけづくりをしている。

意見交換の場では「自社の取り組みがメディアに取り上げられた」「全社ミーティングで顧客にスピーチしてもらった」など、外部からの評価が会社の求心力を高める機会になっていることも確認されました。

コンテンツに落とし込むには

会社の活動に従業員個人が共感し、同じ方向を向く。そんな状態を作り出す広報活動を行うには何がポイントになるのでしょうか。ミッションや理念に基づいたコンテンツ制作を得意とするCINRAの宮崎慎也氏はこう話します。「従業員が会社にかかわる意味を見出せるよう『なぜ会社が存在するのか』を堀り下げ、共有することが重要です。人は何(What)より、なぜ(Why)に心を動かされるという理論があります」。では、Why(なぜこの会社が存在するのか)をどう伝えればいいのでしょう。「例えば社員インタビューをする場合、事例や話し手の人柄を強調しすぎると、面白いだけの記事になってしまいます。Why(なぜやるのか、ミッション)、How(どう実現したのか)、What(具体事例)を偏りなく一気通貫で伝えることがポイントです」。

宮崎氏がWhyを伝える手段は社内向けの記事制作にとどまりません。ミッションを体現しているような社外の人の仕事に光を当てる番組を制作したり、アーティストがミッションを絵で表現したグッズをつくってWhyを深堀りしたり。昨今は、社内カルチャーを言語化するため、創業ストーリーを1冊にまとめた「カルチャーブック」(PDF)の制作も増えていると言います。またウェブ社内報やメルマガなどオンライン施策の場合は、シェア数や読了率など、日々測定できる数値をとりやすく、読み手の行動や理解度の分析やコンテンツ改善にもつながっています。「オウンドメディアの編集部を立ち上げる段階で、メンバーを立候補で募るのもいいですね。自発性も出やすいですし、編集の専門知識がなくても、自走できるようになるまで僕らがサポートしています」(宮崎氏)。

多様性か共感型か

研究会の終盤、柴田氏からはこんな問いかけがありました。「明確な価値基準を持つ企業が同じ価値観の人を集めれば、エンゲージメントは自ずと高まります。一方、様々な入社動機を持つ人たちが集まる、ダイバーシティを許容する企業はエンゲージメントを高める難易度が上がる。どちらの道で行くか、コミュニケーションの前提となる本質も、議論する必要があります」。

企業規模によって理想の状態も醸成のしかたも異なる従業員エンゲージメントの領域。本プロジェクトでさらに議論を深めていきます。次回はコミュニケーションの設計について考えます。


問い合わせ・プロジェクト参加希望の方はこちらから
従業員エンゲージメント 向上プロジェクト事務局(株式会社宣伝会議)
houjin@sendenkaigi.co.jp

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