
浅生 鴨(あそう・かも)
作家、広告プランナー。1971年、神戸市生まれ。たいていのことは苦手。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛けている。主な著書に、『中の人などいない』『アグニオン』『二・二六』(新潮社)、『猫たちの色メガネ』(KADOKAWA)、『伴走者』(講談社)、『どこでもない場所』(左右社)、『だから僕は、ググらない』(大和出版)、『雑文御免』『うっかり失敬』(ネコノス)、近年、同人活動もはじめ『『異人と同人』『雨は五分後にやんで』などを展開中。座右の銘は「棚からぼた餅」。最新作は『あざらしのひと』(ネコノス)
短い言葉が、僕の人生の一部をつくってきた
言葉は思考そのものだから、僕たちは言葉を使わずにものを考えることはできない。言葉になる前のモヤモヤとしたイメージは、それだけではどうすることもできなくて。言葉にして初めて自分の考えを自分で理解できるようになるし、他人に伝えられるものにもなる。
そうやって伝える言葉で、僕たちは人を笑わせることも泣かせることもできるし、悲しませることや怒らせることもできる。その場にいない人たちへ気持ちを届けることもできるし、時代を超えて情報を伝えることもできる。そんなふうにして、人の心に働きかける力が言葉にはある。
たった一行の短い言葉が誰かの人生をガラリと変えてしまえるかどうかはわからないけれども、少なくともその後の人生に多少の影響を与えることはできる。
「あんたは優しい子だからね」
10代のころに祖母から言われたこの言葉は、その後、僕が何かを決めるときには必ず頭に浮かぶようになった。優しさを捨てて厳しい選択をしなければならないときにもこの言葉が浮かんで、本当は僕にだってかなり冷たい面があるのに、どうも冷酷に徹し切れなくなるからなかなかやっかいだし、その意味で、この短い言葉はまちがいなく僕の人生の一部をつくってきたように感じている。