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ネット炎上、情報流出、フェイクニュース…広報におけるウェブリスク再考

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2012年11月号から『広報会議』にて連載する「ウェブリスク24時」。2022年2月号で通算100回を迎えた。これまでの象徴的な事例やトレンドの変化を振り返りながら、より長期的な視点に立った「ウェブリスク」の今後を展望していく。

まずは大きな流れを振り返ることにしよう。本連載「ウェブリスク24時」は、広報部門が、2012年当時急拡大していたSNSにどのように向き合い活用法を検討するか、また頻発するネット炎上の動向を踏まえてどう対策を立てるかを最新の事例をもとにまとめるコラムとしてスタートした。

2012年11月号の第1回は、大学4年の学生が電車内で寝ている老人を「盗撮」し、「歯がありませんw」などと笑いものにするコメントを付けてTwitterに投稿したことで炎上、内定先の会社名を含む個人情報がネットに広まった事例を紹介した。

SNSに投稿された情報が拡散して炎上という流れは、その後も今日に至るまで繰り返し起きている。そしてこの流れは、それまでの「広報」とは異なる対応を迫られるきっかけにもなった。

「個人の問題」が「組織の問題」に

「個人が起こした問題」で、所属組織が注目され、見解を問われたり対応を迫られたりする事件が急増した。それまでの「広報」では、問題の行為が業務に関連するか否かで大きく対応を分けていた。ところが、ネット炎上では、業務に関連するかどうかよりも、所属組織のその問題に対するスタンスが焦点になることが多くなった。

とりわけヘイト投稿(第78回2019年12月号など)は、匿名アカウントであっても本人が特定され、組織が謝罪し、本人を厳しく処分するケースが増えている。「あくまで個人の行為」という姿勢は、解決に後ろ向きというメッセージになってしまう難しさがあり、場合によっては、組織として正確な情報をつかむ前に、メッセージを発する決断を下したり、流れ出た情報がネットに残り続けるという性質を理解した上で対応するようになったのは、この約10年での大きな変化だろう。

無視できなくなったSNS

SNSの不適切な利用を防ぐため、社内のルールづくりや研修教育も一般化した。第72回(2019年6月号)では、入社予定の内定者によるツイートを不適切と見た就職先の研修担当者が、会社の公式アカウントから注意を促したところ、公開説教だなどと注目を集めた事例を取り上げた。

SNSは注意が必要である一方で、積極的なコミュニケーションにも有効だという認識も広まった。第5回(2013年3月号)には猪瀬直樹氏が東京都知事に就任直後に庁舎内全局にTwitter開始を指示した事例を扱った。

新たなツールへの対応は、必ずしもスムーズに進んだわけではなかった。都庁の場合、アカウント開設までは早かったが、同じアドレスから同時に多数の登録をしてスパム行為と判断されたためか直後に使用不能になるなど混乱も少なからず起きていた。


反応を知る手掛かりに

マスメディアが「ネットで話題」という方向からSNSをネタ探しの場として積極活用するようになったのも、大きな変化のひとつだ。

炎上はもちろん、ネットで盛り上がるテーマはマスメディアのコンテンツとしてもウケやすいという認識が一般的になった。そのため、SNSでの反応・反響の大きさが、次のニュースを生むきっかけのひとつと考えられるようになった。

第49回(2017年5月号)で、全日空が「重要な経営課題」について社長出席で緊急の記者会見を開催すると発表し、ネット上で評価を落とした事例を取り上げた。世の中は不祥事による謝罪会見が続いていたタイミング。ネット上では何事かと憶測が飛び交い、株価は下落。実際の会見は社長交代のお知らせで、慌てて株を売った人たちから「人騒がせ」といった声がネット上に寄せられた。

社長交代は企業としては確かに「重要な」問題だが、世の中の反応も意識した表現選びの必要性を考えるきっかけになった大きな出来事だった。

フェイクとAIへの対応を

偽サイト、偽アカウント、フェイクニュースなど「嘘」の情報の取り扱いも何度も取り上げた。2017年のトランプ大統領就任時には「オルタナファクト(もうひとつの事実)」という言葉が飛び出すなど情報の信頼性をめぐる問題は、広報部門にとって真剣に向き合うべき時に来ている。

その一方で、情報がいち早く駆け巡るSNSを追い続けるリソースがない、という声も聞く。組織によってデジタルの位置付けも様々だが、すべてに人員を配置するのではなく、AI活用も含めた新しい広報の業務フローを考えていく段階になってきたのかもしれない。

鶴野充茂(つるの・みつしげ)
ビーンスター 代表取締役/社会情報大学院大学 特任教授

日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイト

 
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