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合成音声で花開くデジタル音声広告 D2C Rらが拓くフロンティア

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NTTテクノクロス、アクロスエンタテインメントが協力

デジタルマーケティングの専門会社D2C Rは、NTTテクノクロスやGADGET、アクロスエンタテインメントと共同で、声優の声をもとにした合成音声のマーケティング活用に乗り出す。ターゲットや時間帯、エリアなどで訴求内容を変えるデジタル音声広告で、D2C Rは「プロ声優の魅力的な声を使ったクリエイティブをスピーディかつ大量に生成できるようになり、企業の音声マーケティングを強力に推進できる」と期待を高める。日本声優事業社協議会など関連団体と協力してルール整備なども進める。

市場調査会社デジタルインファクトの推計では、国内のデジタル音声広告市場は2022年に急伸し、2021年の50億円から2.9倍の145億円規模に。25年までに420億円へ拡大する見通しを示している。

電通発表の「2020年 日本の広告費」では、20年のラジオデジタル広告費は前年比110.0%の11億円となった。コロナ禍による外出自粛やリモートワーク実施を背景に、民放ラジオ局がネット配信する「radiko(ラジコ)」の聴取率が伸び、デジタルラジオでの運用型広告が注目された格好。

グローバルでは先行してデジタル音声広告が活性化している。音楽配信サービス世界最大手のSpotify(スポティファイ)では、広告による無料版からの収入が、21年第3四半期は前年比75%増の21億7800万ユーロ(約2846億円)と急伸。米インタラクティブ広告協会(IAB)の統計でも、米国ではデジタル音声広告が19年は21億6600万ドルから、20年は14.9%増の24億8900万ドルと拡大している。

D2C Rの貴志和也・取締役

「デジタル音声広告はまさに黎明期。現在は、デジタル動画広告が登場した当初と近い状況にあり、それゆえここからデジタル動画広告と同様に一気にコミュニケーション手法が進化すると思われます」と指摘するのは、D2C Rの貴志和也・取締役だ。

「初期のデジタル動画広告は、テレビCMなどありものの動画をそのまま転用するといったケースが多く見られました。しかし、さほど間を置かずして、デジタルならではの、メディア接触・視聴のされ方、表現方法の研究が進みました。そうしてデジタルに最適化した動画コミュニケーションが生まれた結果、デジタル動画広告は飛躍的に浸透しました。現在のデジタル音声広告は、動画広告の音声をそのまま利用したり、ラジオCMと同様の構成で作られていたりするものも多く、まだまだ発展余地を残しています。2022年はデジタルに最適化した音声コミュニケーションの進化が求められていると考えています」(貴志氏)

NTTテクノクロス、GADGET、アクロスエンタテインメントが提供する合成音声サービス「FutureVoice Actors(フューチャーボイス・アクターズ)」は、従来と異なり、(1)声優事務所との権利調整にかかる手間と時間を大幅に削減できる (2)別の表現をしたいときに再録する必要がない (3)物理的に収録するのは困難な数のバリエーションでも制作できる といったメリットがある。

 
細分化したターゲットセグメントごとに表現を変えたり、同じターゲットでもより有効な表現を検証、制作したりといったことが実現できるほか、デジタルサイネージや店頭アナウンスで季節・曜日・時間帯・エリア……などより多くの条件に基づいて、音声を用意するといった活用も想定される。

想定を超える要望

「FutureVoice Actors」は2020年11月の公開だが、そのベースとなるサービスの開発は、2017年にまで遡る。プロジェクトの肝いり役を務めるGADGETの浅見敬・代表取締役が、スマートスピーカーの発売を機に着想した。

GADGETの浅見敬・代表取締役

「当時、スマートスピーカーが話す声というのは、いわば〈無名〉の声。これが声優さんなどの著名人で、つまり名のある声でできたら、というのが原点です。それをNTTドコモへ提案し、NTTテクノクロスを紹介いただくことになりました」と浅見氏は振り返る。

NTTテクノクロス側では、音声合成における最先端の技術開発を進めていた。鍵となるのは、合成のベースとなる声優の「音声データ」だ。そこで手を取り合うことになったのが、声優事務所のアクロスエンタテインメントだった。

アクロスエンタテインメントが擁するのは、出世作となったアニメ『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎役の花江夏樹さんやアニメ『ラブライブ!』南ことり役などに加えアーティスト活動でも知られる内田彩さん、アニメ『おしりかじり虫』のほかタレント活動でも知られる金田朋子さんなど。花江さん、内田さん、金田さんは、「FutureVoice Actors」にも音声を提供している。

NTTテクノクロスの鳥居崇・カスタマーエクスペリエンス事業部 マネージャー

NTTテクノクロスが17年末に国内で初めてAI(深層学習)を適用した合成音声サービスの提供を発表した。

このサービスでは、声優やキャラクターの声を数時間の収録で合成音声による再現が可能になり、「声優さんの声を使いたい」という引き合いが立て続けに来るように。
20年11月に「FutureVoice Actors」を正式ローンチすると、その熱はさらに高まった。「量、内容ともに想定を超えるご要望がありました。それだけに合成音声というものの価値をきちんと明確にし、企業活動で活用する際の整備が喫緊の課題です」(NTTテクノクロスの鳥居崇氏)

「声」の新たなビジネスを整備

ともすれば、声優自体の仕事を奪うことにもなるのではないか――。合成音声にそんな懸念を抱く向きはけして少なくはないだろう。しかし、アクロスエンタテインメントの松木靖卓氏は、「それは、声優業界における新しいビジネス分野を創出する機会でもある」と話す。

アクロスエンタテインメントの松木靖卓・制作部 部長(営業部 マネージャー兼務)

「声優本人の、いわゆる生声の仕事を毀損するものであってはならない、というのは大前提です。一方で、ただ抵抗するというのでは、新しいものは生まれていきません。むしろ未開拓の分野だからこそ、初期から参画して、環境整備や制度設計にも携わっていくほうが建設的です」(松木氏)

実演だけにとどまらない、『声』そのものにも価値が見いだされつつある。しかし知的財産のように、法的な根拠を持つには至ってはいない。しかし技術が先行すれば、声優の財産とも言える「声」が機械的に再現されてしまうことも考えられる。たとえば著名人の肖像の再現はその境地に至っているが、肖像権を主張することができる。しかし、「声」はまだだ。

「FutureVoice Actors」では、第一歩目として、「DiVo」という表記の提唱を始めた。

「アニメなどで声の出演者を表示する場合、CV(Character Voiceの頭文字)という表記を用います。たとえば花江さんならCV:花江夏樹などです。合成音声の場合もまずはベースとなった声優を記載し、しかし本人ではないことを示すために、CV:花江夏樹DiVoと表示する。DiVoはDigital Voiceの略記です」(浅見氏)

DiVoは環境整備のまだまだ一端ではある。「FutureVoice Actors」のマーケティング活用を模索する傍ら、日本声優事業社協議会、日本芸能マネージメント事業者協会、日本音声製作者連盟、協同組合日本俳優連合など、業界団体とも連携し、合成音声の健全な発展を目指した具体的なルール作りの協議がスタートした。

「こうした整備が進むに伴い、声優として活躍されるみなさんがもっと関わりやすくなると思います。しかし、合成音声が開く扉は、それだけではありません」と、D2C Rの貴志氏は語る。

「有名声優を起用する予算のある大手企業やその商品・サービスだけではなく、中小規模の事業や企業にとっても、自社の商品・サービスに合った魅力的な声を活用できるようになる。そうすることで広告表現の幅、質、量を広げ、より多くのファンを創出するための大きな武器の一つになります。デジタルは、これまでも企業と生活者を円滑に結びつける様々な手段を提供し、そのたびにコミュニケーションを進化させてきました。いま、「音声」にその大きな波が来ているということです」(貴志氏)

いち早く取り組んで、広告表現を開拓するか。それとも普及してから対応に追われるか。デジタル広告にくり返し訪れてきた転機が、再び目の前に現れようとしている。

 




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株式会社D2C R 広報
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