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徹底した消費者理解なしにマーケティングの設計図はつくれない(鹿毛康司×音部大輔)

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12月に発売された音部大輔氏著の近刊『The Art of Marketing マーケティングの技法』は、あらゆるブランドや組織で使えるマーケティング活動の全体設計図「パーセプションフロー®・モデル」のつくり方、使い方を記した書籍。併せて、基本用語の解説や市場創造の瞬間を追体験できるケーススタディを収録するなど、マーケティングマネジメントの要所が記されています。

このほど、パーセプションフロー・モデルの使い方・つくり方をテーマに、著者の音部氏に元エステー執行役の鹿毛康司氏が対談。会場のマーケターからの質問にも答えました。

鹿毛康司氏(左)と音部大輔氏

マーケティングとは「市場創造」

音部:マーケティングの定義について、「売れる仕組みをつくること」と理解している人もいるかもしれませんが、日本マーケティング協会などが掲げる「市場創造のための総合的活動」という定義が最も適切だと考えます。

では、市場創造とはどんなときに起きるのかというと、「いい商品の定義が変わったとき」です。

自動車を例に説明します。1990年代は「ステータス性」がいい車の重要属性で、クラウンなどのセダンがよく売れていました。2000年代になると、家族で出かけるために車内空間が広い車、ワンボックスに人気が集まります。2010年代は「燃費」や「環境性能」が重視されEVなどが注目されます。そして今、2020年代は「MaaS(Mobility as a Service)」の時代と言われ、その中で車の価値が再定義されつつあります。

この間、自動車を通して解決したい「問題」は「家族で出かけるいい車が欲しい」といったことでずっと変わっていません。その問題を具体的に解決するべく設定する「課題」が、先に挙げたように変わっているのです。課題が変わると重要属性の順位が転換し、いい商品の定義が変わって、市場の首位が入れ替わります。

こうした市場創造は自動車のような耐久財に限らず、多くのカテゴリーでシェアが入れ替わる際には起きています。例外もあるのかもしれませんが、ほとんど見られません。それは消費者の趣味が変わったと説明されることも多いものですが、消費者が主体的に変化したと言うよりも、マーケターの提案が作用しています。わたしたちは、来年欲しいものはよくわかりません。消費者が自発的に課題を変えているのではないのです。

鹿毛:「マーケティング=売れる仕組みづくり」という定義とは、考え方がまったく違いますよね。

音部:反証をしてみれば分かります。「では、ぜんぶ半額にしたら?」と。きっとよく売れるでしょう。それをもって「すばらしいマーケティングだ」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、そうでないかたも多そうです。

たぶん、そもそも「売る」「売れる」という動詞が不適当であるようにも思います。「売るためにどうすべきか」ではなく、「いかに消費者が欲しくなり、満足するか」と考えるべきではないかと思います。

また「欲しい理由と買う理由は異なる」ということにも注意しなければなりません。欲しい理由というのは動機の創出であり、ニーズの創出であり、市場創造につながっています。一方で買う理由というのは「きっかけ」や「口実」の提供です。いわゆる「刈り取り系」の広告が狙うのは後者の買う理由の提供です。ここに特化する戦い方もありますが、長期的なブランドの存続を企図するブランドマネジメントの根幹をなすものではないと思います。

鹿毛:音部さんはP&Gのころからずっと、消費者の「欲しい理由」をずっとつくってきましたね。一方で、マーケティングと言って「買う理由」の話ばかりしている、ということはよくあります。

「買わない理由」を聞くことに意味はない

音部:消費者調査で、「なぜこれを買わないんですか」って質問したことある人、この中にいませんか。これは最悪ですね。

一同:(笑)。

音部:買わない理由は一つです。それは「買う理由がないから」。とんちみたいですが、皆さんも実際そうでしょう。

でも「買う理由がないから」と答える人はごく一部で、「高い」とか「色がヘン」とか「おいしくない」とか、それらしい理由を述べるわけです。では、それらが解消されたら好きになるでしょうか。仮に好きではない理由を100聞いて、それをすべて解消しても、好きになるとも限りません。

鹿毛:買わない理由は「無関心」ということですよね。

音部:無関心ゆえに答えられないんです。だから適当にそれっぽく答える。聞いても意味がない。

にもかかわらず、「消費者が大事」と掲げている会社ほど、「高いと言われました」「よし、価格を下げよう」といった決断がなされ、筋違いのところにリソースが投入されてしまいます。だから最悪だと言ったのです。

ノンユーザー(商品・サービスを購入したことがない人)の理解をすすめたいのであれば、自ブランドを買わない理由ではなく、むしろ競合の商品を使っている理由を聞くほうが実践的で有意義な消費者理解につながります。
 


 

次ページ 「利益やシェアだけでは存在理由にはなりにくい」へ続く