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徹底した消費者理解なしにマーケティングの設計図はつくれない(鹿毛康司×音部大輔)

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利益やシェアだけでは存在理由にはなりにくい

鹿毛:「パーセプションフロー・モデル」にはラーニング(学び)目的を記す欄がありますが、ここには毎回違うことを記すのですか。

パーセプションフロー・モデルのテンプレート。ラーニング目的は右上に記す。

音部:プロジェクトの都度変えてもいいし、同じでもいいと思います。例えば、「営業とのやり取りがうまくいかない」ということなら、「営業との連携を強められるようになる」ということをラーニング目的にすればいいのです。その組織がプロジェクトを通して、利益やシェア以外に何を得たいのか。得たい経験値をここに書いておきましょう。

鹿毛:「利益とシェア以外に」が重要ですね。(会場へ)皆さん、利益やシェアや売り上げが目的になってないですか。

音部:売り上げや利益はとても大切です。生きていくためには食わねばなりません。でも、われわれは食うためだけに生きているのではありません。「利益を出し続けることで何を実現したいのか」が、ブランドの存在理由になるはずです。これがブランドの大義であるパーパスだ、と理解できます。

仮に自分が現役を引退して、命が尽きるときにも、かつて手がけたブランドが元気で世の中に愛されている状態を目指すのは「ブランドマネジャーの矜持」だと思います。そのためには、利益を出し続けなければいけません。さもないと、ブランドは終焉を迎えてしまうかもしれない。ブランドは概念の存在ですから、うまく管理すればマーケターよりも長生きできます。そのために、利益はむしろ手段であって目的ではないように思います。

鹿毛:いまの話は重要ですね。もしかすると、ブランドを売上利益のひとつの手法だと思っている人がいるかもしれません。このことが分からないと、パーセプションフロー・モデルはおろか、ブランドマネジメントがうまく理解できないと思います。

誰のパーセプションを描くのか?

会場からの質問に答える音部氏

――では、会場から質問を伺います。

(会場より)Aさん:さきほど大人用紙おむつの話がありましたが、関連してお伺いします。介護する側とされる側、つまり実際おむつを使う人がいますが、パーセプションフロー・モデルではどちらをメインで描くのでしょうか。

音部:介護する側とされる側、どちらかだけを幸せに、という状況がありうるかというと、たぶんありません。両方を幸せにするような将来像を描くべきです。ただ、パーセプションフロー・モデルで描くのは、介護する側の人のパーセプションです。

鹿毛:買う人と使う人の、どっちに照準当てればいいですかって話は……。

音部:買う人のパーセプションフローを描きます。ただし、使う人が不幸なのに買う人だけハッピーになるという状況は生まれにくいので、パーセプションフローの知覚刺激の中に「使う人がありがとうと言う」といったことが用意されるでしょう。介護者が幸せになるためには、被介護者も幸せじゃないといけないんですよ。

鹿毛:両方が幸せにならないといけない。あらゆる商品がそうですよ。例えば塾だって。

音部:そうそう。塾に通っている学生が不幸なのに、親だけ幸せなんてことが成立するわけはありません。

ペルソナ設定はブランド定義の段階で済ませておく

Bさん:パーセプションフロー・モデルの中に、ペルソナは描かれるのでしょうか。

音部:ペルソナは、実はパーセプションフロー・モデルを描く前の前の段階で設定します。

手順としてはこうです。まずブランドの設計図をつくります。その設計図を実現するために戦略を立てます。その戦略を4Pを使って最適に、すなわち最も高い効率で実現するために描く「マーケティング活動の全体設計図」がパーセプションフロー・モデルです。

最初のブランド設計では、書籍でも記した「ブランドホロタイプ®・モデル」などを使います。その段階で「ベネフィットは何か」「ターゲット消費者は誰か」といったことを記していく。ターゲット消費者はペルソナに通じる記述です。

ブランドホロタイプ・モデルのテンプレート。パーセプションフロー・モデルとともに、書籍読者はテンプレートをダウンロードできる。

鹿毛:「ペルソナを置くのは当たり前」と言ってもいいですよね。そして、「ペルソナ」は易しいようで、実は十分理解されてない言葉です。

音部:「ペルソナ」という単語で、消費者を描くときと、ブランドを描くときがあります。外資系企業では「ペルソナ」というのが対象とすべき消費者を描いたもので、「パーソナリティ」はブランドの人格であることが多いですね。

ペルソナには消費者の代表的な存在として、架空の人を描いたりするわけです。これは何のためにあるのかというと、コミュニケーションの整合性を高めるためにあります。「同じ人に向かって語るからバラバラになりにくい」という意味です。「(ペルソナ設定した)その人以外にも使う人いますよね」という声を聞くことがありますが、もちろんそういう人がたくさんいます。でも、ブランドを使ってくれる人と、ブランドが話しかける人は、必ずしも同じではありません。ペルソナは、ブランドが話しかける人の代表です。

鹿毛:焦点があったほうがいいですからね。

ペルソナとよく口にしますが、思っているのとちょっと違うのでは。ぜひ正しく理解することをお勧めします。

次ページ 「徹底した消費者理解のうえでつくり上げる」へ続く