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徹底した消費者理解なしにマーケティングの設計図はつくれない(鹿毛康司×音部大輔)

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徹底した消費者理解のうえでつくり上げる

Cさん:パーセプションフロー・モデルを描いて、施策を実行する前に、「これでやってみよう」との判断に踏み切る基準は何でしょうか。

音部:「自分がこれでいけるだろうと思えること」ですね。

Cさん:自分が、ですか。

音部:自分のベストの消費者理解に基づいて、「これで確からしい」と思えるときです。これを持って上司や、営業部門、財務部などを説得して回れるだけの確からしさを持てていれば十分です。自分で好きに決めていいというのとは違います。

消費者理解のない状態で適当に描いて「よし、これでいくぞ」というのは感心しません。物理の諸法則をまるで無視した建築設計図みたいで、危険極まりない。

鹿毛:この本を読んで「チャートを埋めたらそれらしい答えが出る」と思っている人たちは結構いるかもしれません。でも音部さん、パーセプションフロー・モデルをつくるのに、ものすごい手間をかけるでしょう?

音部:かけますね。パーセプションフロー・モデルは「マーケティング活動の全体設計図」と表現していますが、建築物の設計図を基準にすると、建築費の3%が設計費らしいので、全マーケティング予算の3%ぶんぐらいの費用や時間を投入していいと思いますよ。それほど重要なことです。

鹿毛:1億円をマーケティングに投資しようとしたときに、3%だと300万円でしょ。10億円なら3000万円。

音部:3000万円なら相当ですね。

鹿毛:今は費用の話ですが、それくらい徹底的に考えてから「これだ」と思っていますよね?

音部:そうです。消費者理解に基づき、徹底的に考える。

鹿毛:チャート式とは違うということです。

Cさん:消費者理解を深める。それは、自分も消費者として考えてもいいんですか。

音部:自分を消費者として考えてもいいですよ。

鹿毛:音部さんは今は豊富な経験を持っていますが、若いころ、まだお客さまの気持ちが分からないときはどうしていましたか。

音部:それは消費者調査ですよ。ひたすら調査を繰り返します。ただ、消費者調査で「理解する」のと「言いなりになる」のは少し異なります。人間洞察を頑張ってみるということかもしれません。

「パーセプションフロー・モデルで自分の購買方法を書いてみる」というのは、本の中にも書きましたけど、練習としてはとてもいいと思います。

鹿毛:自分の消費行動が描けない人は人の行動を描けと言っても難しい。自分のことを分かってないマーケターは結構いると思います。まずは自分のことを描いてみるのがいいですね。

パーセプションフロー・モデルはつくり分けるべきか?

Dさん:パーセプションフロー・モデルはブランドに対してひとつずつつくり上げるのですか。取り組みやターゲットごとにつくり分けるものでしょうか。

音部:いい質問ですね。ずるい答えですが、それは「いろいろ」です。

誰をターゲット消費者とし、何をベネフィットとするか。この2つでブランドの方向性がおおむね決まります。「ターゲットが一緒でベネフィットが一緒」なら変えなくてもいいことが多い。ただ、3カ月に1回ぐらいは直近の目的が変わっていたりするので、大きい予算でオペレーションしているブランドは、3カ月に1回変えたりすることは珍しくないです。

鹿毛:その企業がまだ参入当初のケースで、カテゴリー全体で進めるのか、ブランドごとに施策を分けるのか、もっと細分化しなきゃいけないのか、といった判断はケースバイケース?

音部:ケースバイケースです。ただ、ゆっくり、5年に1回しか変わらないもので、ゆっくり変化していくカテゴリーの場合は、例えば電力会社であれば、毎年変える必要はないかもしれません。アリエールは3カ月に1回見直していました。ファブリーズは2年くらい同じものを使いました。ただし、ファブリーズの車用の商品は別途作成したと思います。既存商品とはベネフィットがちょっと違うからです。

ノンユーザーを研究するのはNG

Eさん:書籍を読んで、「ファネルか、エレベーターか」(本書66ページに掲載)のところでハッとしました。ファネル型で落ちていく考え方ではなくて、エレベーター型でブランドを再購入してくれるかを重視すべきとのくだりです。

そこで質問です。パーセプションフロー・モデルをつくるときには、再購入を促すという点で「推奨してくれる方がどなたか」というのが大事なのでしょうか。

音部:すでに市場に長く存在しているブランドで、ロイヤルユーザーが分かっているなら、最初にロイヤルユーザーをよく見ていくのが正しいと思います。

トライアルを取りに行くときなど、逆にノンユーザーを研究するチームが多いですが、研究すべきはロイヤルユーザーだと考えます。かなり大きなブランドでも、ユーザーが1000万人を超えている、というブランドはあまりないと思います。それほど大きなブランドでも、ノンユーザーは日本に1億人以上いるんです。十把一絡げにできるわけがありません。

鹿毛:しかも使ってない人だから、単なる妄想にならないですか。

音部:なりそうですね。現在300万人ユーザーがいるブランドが、10%の成長を期待して、次に使ってもらうべき30万人を探しているとしましょう。「ノンユーザーを理解して、30万人を確保しよう」よりも、「現在の300万人のユーザーによく似ているけど、まだ使ってない30万人を探そう」のほうが、効果的で効率的ではないかと思います。

鹿毛:ロイヤルユーザーからヒントを得るべき理由はそこですよね。

※本記事での議論は、ほぼ本書に収録されています。詳しくはこちらをご覧ください。

 

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定価:2,640円(本体2,400円+税) A5判 304ページ

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