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コラム

元経済誌編集長の人生マルチステージ化計画~50代からのライフシフト

メディアも企業広報も「フェアであること」を忘れてはいけない

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取材もせず、新興勢力という「出る杭」を打つ報道姿勢

メディアは不偏不党・公平公正であるべきだといっても、あらゆる論点において書き手の価値判断は働く。その中で、既得権益側や抵抗勢力側の論理に乗っかるメディアがあるのは理解できる。既得権益側が巧みに誘導し「書かせる」こともあるだろうし、メディア側が率先して既得権者擁護と取れる主張をすることもあるのが現実だ。

ただし、私は30年以上のメディア経験において、そういう報道姿勢には与しないという思いでやってきたと前回書いた。そして、メディアからTBMの広報に立場が変わり、TBMやLIMEX(TBMが開発・製造・販売する石灰石を主原料とする新素材)の過去報道を見たとき、ごく一部ではあるが、「裏」を感じる記事が見受けられるという話をした。

というのも、LIMEXはプラスチックや紙を代替する素材だ。既存市場のプレイヤーからすると、邪魔な新参者である。新しいことをやろうとするとそれに反対する勢力が必ず存在し、中にはメディアを使って批判的な論陣を張るというケースもある。

外部からの中立的な視点、忖度なしの率直な意見は、自分たちを客観視するために役立つことも多い。しかし、残念ながら支離滅裂な論旨に基づく批判もある。新興勢力という「出る杭」を打つことのみを目的としたような報道姿勢には疑問を感じる。

例えば、LIMEXの主原料である石灰石は、日本国内はもちろん世界中に豊富に存在するとはいえ、限りある資源であることに変わりはない。なので、LIMEXは水資源と森林資源の保全に貢献するとうたいながら、別の資源の無駄遣いに加担しているのではないかという指摘がある。

石灰石を主原料とする新素材「LIMEX」。紙とプラスチックの代替としてすでに8000を超える企業で採用中

「地球上の石灰岩がすべて熱分解したと仮定すると、気温が300度上昇するといわれる」という、およそ現実的でないデータでLIMEXを批判する記事もあった。「もちろん石灰石ペーパー類だけでそのような状況になることは考えられないが……」という留保付きであったが、そんな極論を持ち出せば、どんな素材も存在意義を失ってしまう。

しかも、LIMEX製造による石灰石の使用量は年間約1.9万トンで、国内の石灰石総使用量の約0.02%に過ぎない。仮に日本国内で生産される全ての印刷・情報用紙がLIMEXに置き換わったとしても、見込まれる石灰石使用量は全体の約3.6%にとどまる。

ちなみに、国内での石灰石の用途としてはセメントが最も多く全体の47.1%、次いで骨材(23.0%)、鉄鋼(12.7%)と続く。その大半が「まちづくり」に使われている。また、従来の紙の製造工程にも白色度を高めるための塗工剤や透け防止のために、現状のLIMEX製造の数十倍の量の石灰石(軽質炭酸カルシウム)が使用されている。

少なくともLIMEXが石灰石資源を浪費する張本人であるかのように吊るし上げるのは、明らかに的外れだし、過度な印象操作だと言わざるをえない。そして、それらの一方的な記事は、当社への取材なしに書かれることが多い。ジャーナリズムの世界に身を置いた経験からすると、理解し難い報道姿勢である。

実際に取材に来れば、排出されたCO2を回収して炭酸カルシウム(CaCO₃)にリサイクルし、石灰石の代わりに用いる技術や、生分解性や海洋分解性LIMEXなど、未来に向けた研究開発の話だってできたのに。

紙でもプラスチックでもない“第3極”の素材として

また、消費者がLIMEXを紙と間違えて古紙回収に出してしまうと、再生紙の製造工程に重大な障害が生じる危険性があるという記事も見かける。確かにLIMEXは紙として再生することはできない。そのため「使用済みのLIMEX製品は古紙回収には混ぜないでください」と、折りに触れアナウンスしている。

LIMEXの使用イメージ

しかし、そもそも紙のリサイクルにおいて「禁忌品」とされているのはLIMEXだけではない。マスクに使われている不織布も紙と間違えられやすいが紙ではない。紙おむつも紙ではないので未使用も含めて古紙回収に出してはならない。アイロンプリント紙のような昇華転写紙も再生紙の原料にはならない。カバンや靴などの詰物に使われている紙は使用済み昇華転写紙が再利用されていることが多いので禁忌品だ。他にも、食品残渣や油のついた紙は当然ダメだし、洗剤・石鹸・線香など匂いのついた包装紙や紙箱も紙製品ではあるが製紙原料とならない。

さらに「製紙原料に混入することは好ましくない」というレベルの禁忌品まで加えると、防水加工された紙容器、感熱紙、ラミネート紙、宅配便の伝票などのカーボン紙、圧着シール付きはがき、写真等の印画紙……と多く存在する。また、革表紙の手帳や、リングで綴じられたノートなど、紙以外の素材と組み合わせた商品も、世の中には数多い。こんな中でLIMEXがことさらやり玉に挙がるのは、「紙に似すぎている」せいもあるのかもしれない。

しかし、そもそも古紙回収後の分別・再生工程の中では、LIMEXに限らず少量の異物なら除去される仕組みが機能している。当社でも研究機関の協力を得て、もし古紙回収時に混ざったとしても効率良くLIMEXのみを除去できることを実証している。

また何よりTBM自身が、紙でもプラスチックでもない“第3極”の素材としてLIMEXを普及させるからには、その回収・リサイクルの仕組みをつくり上げる挑戦をしている。その一環として2022年秋には自らリサイクル工場の運営・管理に乗り出す。工場が立地する神奈川県横須賀市とは、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラ新法)の対象となる容器包装プラスチック、製品プラスチック、LIMEX製品を回収及び自動選別した上で資源化・再商品化処理する実証実験を計画している。

2022年秋に稼働するリサイクルプラントのイメージ

その挑戦の途中だけを切り取れば、至らない点も出てくることもあるかもしれない。また、その過程で古紙回収業界の皆さんが創り上げてきたエコシステムに迷惑をかけることは不本意極まりないし、いわんや敵対する気など毛頭ない。むしろ同じ資源循環インフラの構築を目指す仲間として、古紙回収業界とも連携していければよいのだが……。

グリーンウォッシュの7つの罪

ところで、昨今のSDGsブームの中で、「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」と呼ばれる、見せかけだけのエコが糾弾され始めている。環境配慮の取り組みをアピールする企業の中に、実態が伴っていないケースが多いというのだ。

米国の第三者安全科学機関であるULソリューション(旧テラチョイス)がまとめた「グリーンウォッシュの7つの罪」という有名な論文がある。

1.トレードオフを隠蔽する罪
他の重要な環境問題に注意を払わずに、狭い属性のみに基づいて環境に配慮していると主張すること。

2.証拠のない罪
環境配慮に関する具体的な証拠がないこと。

3.曖昧さの罪
定義が曖昧な表現で消費者の誤解を招くこと。

4.偽りのラベル表示の罪
第三者機関の認証ラベルなどを偽装すること。

5.無関係の罪
真実ではあっても、消費者にとっては重要でない環境主張をすること。

6.二つの悪のうち小さい方を強調する罪
まだましな方の小さな悪を強調し、より大きな問題から消費者の注意をそらすこと。

7.うそをつく罪
うそをついて、消費者をだますこと。

消費者をごまかすこれらの罪は、確かに糾弾されて当然だ。メディアが持つべき批判精神も、こうした視点に基づき、検証されるべきだろう。

逆に言えば、環境問題に取り組む企業としては、この7つの罪を疑われないようにしなければならないし、実際にこれらはわれわれが広報活動において、日頃から心がけていることでもある。

例えば1のトレードオフについては、製品・サービスのライフサイクル全体における環境影響を科学的かつ定量的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)という手法を用いて、サプライチェーンの上流・下流で生じる環境影響も包括的に分析している。もちろん、2の証拠のない罪に陥らないよう、いずれも具体的な数値で示す。3の曖昧さを指摘されないよう、例えばエビデンスの提示なしに「環境にやさしい」といった具体性を欠く表現は用いないことも徹底している。4や7のような、消費者を騙す行為は言うまでもなくご法度だし、6は少々わかりにくいが、例えば「有機栽培のたばこ」のようなケースを指す。5も含め、消費者を煙に巻く不誠実な主張はすべきではないのも当然だ。

仮に自分が、企業のうそを暴くべく企業内部に潜伏したジャーナリストだったとして、この半年間の調査によるとTBMの企業活動に後ろ暗いところは一切ないと断言できる。「2030年までに、カーボンネガティブの実現と、50カ国で年間100万トンのLIMEXとプラスチックを回収・再資源化し循環させる」という意欲的な目標に、愚直に立ち向かう集団であり、私自身、そこに共感して入社したわけだ。

コミュニケーションの未熟さゆえ誤解されるところがないとは言わないが、環境問題に対しては全社員が真っ正直に向き合っている会社だということは胸を張って言える。

「フェアであること」を大事にしたい

政府や経団連も、今後5年で日本からユニコーン企業を100社輩出するという目標を掲げている。ならば、スタートアップの新しい挑戦を応援するような雰囲気も、合わせて醸成していく必要があるだろう。メディアも、挑戦過程での一時的な失敗や足踏みを必要以上にあげつらって成長の芽を摘むようなことはあってはならない。

もっとも、だからといって、都合のいいことだけを発信し、悪いことを隠す広報マンにはなりたくない。メディア時代、最も忌み嫌っていたタイプの広報姿勢だからだ。この連載の第3回で、客観的なものの見方は忘れず、「常に『会社と社会の間』に立った広報でありたい」と書いた。TBMに入社して6カ月がたったが、その思いは変わらない。

身内に対しても外部に対しても貫いてきた「フェアであること」というモットーは、メディアから事業会社に転じても大事にしていきたいと思う。「人生マルチステージ」「LIFE SHIFT」を標榜してはみたものの、根っこの部分について、昔の仲間たちから「深澤、変わっちまったな」とだけは絶対に言われたくないのである。

さて、TBMに入社して半年が過ぎ、そろそろ新米ぶりをネタにしたり、前職を売りにしたりする時期ではなくなりました。というわけで、今回で本コラムを終了します。これまでお読みいただき、ありがとうございました。