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コラム

ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論

実務家はまず自社ブランドが消費者の「想起集合」に入ることを目指そう

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アドタイのコラムから生まれた書籍『実務家ブランド論』が発売されて1年が経ちます。実務家ならではのわかりやすく実用的な方法論に多くの賛同の声が寄せられる一方、思わぬ反響もあったようで……。本書で紹介しているブランド論の要旨を、著者の片山義丈氏がまったく別の切り口から2回にわたって紹介します。

ブランドは「カテゴリー化」によって生まれる

前編では、『実務家ブランド論』発刊後の皆様からの反響を紹介しつつ、本書も理論に基づいて書かれていること、またその内容は脳の働きで説明できることについてご説明しました。後編では、具体的に解説していきます。

『実務家ブランド論』
片山義丈著
定価:1980円(本体+税10%)

 

認知言語学や心理学によると、「人間は、様々なモノやコトを脳の中で、分類したりまとめたりしている」とされています。この分類されたひとかたまり、分類されたグループをカテゴリーと呼ぶそうです。

たとえば、ある動物の写真を見せられたとします。どんな名前かわからないけれど、それが鳥類であることは間違いないとわかる。スズメでも鳩でもないし見たこともない動物、なのになぜか「鳥」だとは判断できます。よく考えると不思議です。

これは、頭の中に「鳥というカテゴリー」がすでにできていて「羽があって」「足が二本」「くちばしがある」ものは、「鳥のカテゴリー」のメンバーであると整理し分類するようになっているからなのです。

ブランドとは、この頭の中でのカテゴリー化によって生まれます。

カテゴリーが変われば、知名度も戦い方も変わる

「ブランドカテゴライゼーション」という、よく知られているブランドの『理論』があります。これは脳の中にできた「あるカテゴリーに含まれるメンバーの全体は、消費者による知名度、情報量や種類、態度などにより分類」されているとする『理論』です。

ブランドカテゴライゼーション

ここからは、スニーカーというカテゴリーを例にこのブランドカテゴライゼーションを説明します。ネットで調べるとスニーカー人気ランキングトップ10は以下のブランドでした(正しいかどうかは知らんけど)。

その10のブランドとは
ニューバランス(New Balance)/ナイキ(NIKE)/アディダス(adidas)/バンズ(VANS)/コンバース(CONVERSE)/リーボック(Reebok)/無印良品/ディアドラヘリテージ/プーマ(PUMA)/ラコステ(LACOSTE)

これらを以下の5つの切り口で分類していきます。

①入手可能性
まず入手可能性、つまり買いたいと思ったら買えるかどうかです。今やECサイトもありますから、この10のブランドはいつでも買えるとします。つまり、入手可能集合には10のブランドが入ります。

②知名段階
次に知っているかどうかです。私は、「ディアドラヘリテージ」は聞いたことありませんでした。非知名集合にまず「ディアドラヘリテージ」が入ります。

そして非知名集合には無印良品も入ります。私は、無印良品というブランドはもちろん知っています。ただスニーカーというカテゴリーにおいては無印良品が頭の中に浮かんできません。

ここでは「一般的」なブランドの知名度と「あるカテゴリー」におけるブランドの知名度は違うことは重要なポイントです。例えば、ケンタッキーフライドチキンの一般的なブランドの知名度は100%。おそらくケンタッキーフライドチキンを知らない人はいません。ただケンタッキーはクリスマスやお祝い事など特別な日に行くところ、日常気軽に利用するものでは思われていました。

「今日、ケンタッキーにしない?」の広告はケンタッキーフライドチキンの知名度を上げるためではなく、カテゴリーの中に新しく存在をつくり、カテゴリーのメンバーであることを知ってもらうためです。「おひるごはん」「ドライブの時に車の中で食べるもの」のカテゴリーの中を探したときに知名集合に入ることがこの広告の狙いだと考えています。

現在のマーケティングにおいては、新しいカテゴリーをつくることや、自らの企業や商品が獲得できるカテゴリーを増やしていくことが極めて重要なことになのです。

話をもとにもどします。
「ディアドラヘリテージ」「無印良品」の2つが私にとっては非知名集合のため、知名集合に残る8つのブランドが入ります。

③処理段階
次の段階は、処理です。それは非処理集合と処理集合に分かれます。

非処理集合と処理集合との違いは、
・非処理集合が「名前だけ知っていてあとはよくわからない(聞いたことはあるが無色透明のイメージ)」」
・処理集合は「名前は知っていて、そして名前以外の何かを知っている」
となります。

残る8つ、
ニューバランス(New Balance)/ナイキ(NIKE)/アディダス(adidas)/バンズ(VANS)/コンバース(CONVERSE)/リーボック(Reebok)/プーマ(PUMA)/ラコステ(LACOSTE)

の中でバンズ(VANS)は名前だけしかしらないので、私にとっては非処理集合に入り、残りの7つが処理集合に入ります。

④考慮段階
そして処理集合は想起集合、保留集合、拒否集合の3つに分けられます。

・想起集合は「名前だけでなく何らかの情報を知っていて、かつ購買時の候補として想起される」もの
・保留集合は「名前だけでなく何らかの情報を知っていながら、購入時の、購入時の候補には入れなかった」もの
・そして拒否集合は「名前だけでなく何らかの情報を知っているがために絶対に買わないと思われている候補」
となります。

もう少し詳しく説明します。

【想起集合】とは、「購入(選択)における好意的な選択肢の集合体」といわれています。つまり「名前だけでなく何らかの情報を知っていて、その結果何となく好きなので、購買時の候補として思いつく」ものです。

そしてこの想起集合にはそんなにたくさん入ることはできません。商品カテゴリーによって異なりますが、通常1~2、多くても3つまでしか入らないのです。

【保留集合】は、想起集合(1~3位)に入っていないもの。「商品のことは知っているが自分の好みではない」「品質の割に価格が割高」「商品のことは知っているが購入の検討をして上位になるほどのたくさんの情報を持っていない」などが理由となります。知られているのに何らかの理由で想起集合に入れない、惜しい商品といえます。

【拒否集合】は、「名前だけでなく何らかの情報を知っているがために絶対に買わないと思われている候補」です。「過去に買ったときに期待外れだった」「知り合いが使ってひどい目にあった」「ネット上で評判がわるい」など理由はさまざまですが、とにかく買ってもらってもらえません。絶望的な商品です。

私の場合、処理集合には7つ残りましたが、想起集合は以下3つ、
・ニューバランス(New Balance)
・ナイキ(NIKE)
・アディダス(adidas)

保留集合も3つ、
・コンバース(CONVERSE)…あまり情報がない
・リーボック(Reebok)…なぜかわからないが好みではない
・プーマ(PUMA)…中学校の頃に履いていたから今更あえて選ぶ理由もない

拒否集合は1つ
・ラコステ(LACOSTE)…過去に買ったことあるが「あなたには似合わない」と酷評されたのでトラウマがあり、もう買わないと誓っている

スーパースターは、「第一想起」される一握りのブランド

そしてここから『実務家ブランド論』ともっとも関連する部分となります。

⑤選考段階
想起集合はさらに、「第一想起」と「その他の想起」に分かれます。

「第一想起」は、想起集合(Evoked Set)の中で一番にでてくる商品です。私の場合は、スマートフォンといえば、iPhone。コーヒーショップといえば、スターバックス。醤油といえば、キッコーマンがでてきます。

「その他の想起」は、2番目以降に思いつく商品です。私はスマートフォンといえば、galaxy。コーヒーショップといえば、ドトール。醤油といえば、ヤマサ、ほかにはヒガシマルがでてきます。

想起集合の中で、第一想起に入ると商品は買ってもらいやすくなります。そのため、第一想起の商品はすばらしいブランドだといえる存在です。

スニーカーの例では、私の「第一想起」は、ニューバランス(New Balance)でした。

ここでブランド論をブランドカテゴライゼーション(理論)の関係でみてみましょう。ブランドの教科書の定義、「約束」や「差別化」では、せいぜい想起集合、そして無意識に第一想起を念頭にブランドを定義しているのです。

『実務家ブランド論』では、知っているものはすべてブランド

前編で、「ブランドと聞いて真っ先に思い浮かぶのはAppleやスターバックスになります。まさにスーパースターといえるブランドです。この場合は、ブランドは差別化、約束というブランドの定義こそふさわしく、違和感を覚えることはありません」と書きました。「ブランド」がこのように使われる場合は、この「第一想起」をさしています。

では『実務家ブランド論』にあてはめるとどうなるのでしょう?
『実務家ブランド論』ではブランドの階層が以下の5つに分かれるとしています。

① 約束・絆・大好きレベル(絶対選択してもらえる・スーパースターブランド)
② 何となく好きレベル(選択時に有利・優秀なブランド)
③ 嫌いではないレベル(選択肢には入る・凡人のブランド)
④ 知っているレベル(知らないよりはまし・赤ちゃんブランド)
⑤ 知らないレベル(この状態では妄想がない=ブランドではない)

そして『実務家ブランド論』では、知っているものはすべて「ブランド」であるとしています。

これをブランドカテゴライゼーションで説明します。
知っている段階ですべて「ブランド」であるということです。

この実務家ブランド論のブランドの定義であれば「あのブランドは絶対に買わない」とか「最近うちのブランドの存在感がない」といった場合も説明がつきます。

つまり「あのブランドは絶対に買わない」の場合のブランドは「拒否集合」の商品を意味して使っているのです。「最近うちのブランドの存在感がない」の場合は、昔は想起集合にいた商品が、保留集合に変わってしまったのかもしれません。

ひどい場合は、非処理集合にまで没落している可能性もあります。実務の現場で使われるブランドという言葉は幅広く、『実務家ブランド論』の定義が使いやすいことがわかっていただけたでしょうか。

改めて、「何となく好き」を目指すのはなぜか

長くなりましたが、最後にブランドの階層図とブランドカテゴライゼーションの関係を粗くまとめてみました

あるカテゴリーにおいて、知っているという存在(知名集合)はすでにブランドであり、名前が知られていることにはすでに価値があります。そして単に名前を知っている(非処理集合)よりは、名前だけでなく何らかの情報で嫌いではない(保留集合)の方が価値が上がるのです。さらには「名前だけでなく何らかの情報を知っていて、その結果ざっくりと一言でいうと『何となく好き』という「妄想」ができることで、購買時の候補として思いついてもらうこと(想起集合)を目指すのが実務家のブランドづくりです。

理論を説明しようとすると、どうしても長くなりしかも難しくなってしいましたが、実務家ブランド論と『理論』の関係がおわかりいただけたでしょうか?

日本には、素晴らしい企業・良い商品やサービスがあるのに、いまだに「機能的価値」のみを追い求めていることが多い。そのことが残念でなりません。企業や商品、サービスが「本来持っている価値」を「情緒的な価値」として生活者に認識してもらう「本当のブランドづくり」は、重要かつ必要な、本当に価値ある仕事だと私は確信しています。

まだ、実務家ブランド論を読んだことがないという方が、このコラムをきっかけにぜひ読んでいただいて「本当のブランドづくり」に取り組んでいただきたいと願っております。

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【9/15片山氏講演】開催中!:アドタイ・デイズ2022秋(オンライン配信)

企業の広告・マーケティング・DX・CXなどに携わるリーダーが登壇する「アドタイ・デイズ2022秋」(9/12~9/16開催)に片山義丈氏が登壇し、本コラムのテーマについても講演します。 
 

 
【9月15日(木)12:15~12:45】
発売から1年が経った今、改めて考える。アップデート版「実務家ブランド論」
 

もし、あなたが「ブランドは差別化」とか、「約束」だと信じていたのなら、絶対にブランドはつくれません。まして「ブランドは第五の経営資源」などと言い出したら末期症状。社内から、ブランドかぶれの頭でっかちと言われてしまいます……。片山義丈氏の初の著書『実務家ブランド論』が発刊されてから1年が経ち、読者から様々な反響が寄せられました。それらを振り返り、書籍で伝えきれなかったこと、改めて強調したいブランドづくりの考え方を紹介します。今だから話せる、実務家ならではのブランド論の最新版です。
 
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