【前回コラム】
大型プロジェクトで最も求められるスキル
プロジェクトが大きくなるほど、クリエイティブ・ディレクターに求められる役割はデザインやアイデアという「発想力」よりも、それらをいかに実装するかという「実現力」になってきます。提案するという行為の先には必ず、それらを実現するというフェーズが待っています。
大きなプロジェクトでは、クライアントと制作会社の担当者だけで仕事を進めていくことはできません。クライアント側だけでも複数の部門と予算が介在し、制作側にも各領域を担当する複数の会社が存在することもあります。
このようなプロジェクトでは、クリエイターが提案した当初の理想案をそのまま実装することは難しく、理想案を北極星としながらクライアント内の各部門の意思をマージし、複数の社外制作チームをマネジメントしながら、いかに北極星に近づいていくかというアプローチが必要になってきます。
特に、クライアント側の組織の一部門でも異なる意見が出た場合には、各部門が納得できる最適解を探りながら進めていくことになります。
このような場合に、プロジェクトのクリティカルポイントをクリアにしながら進行していく力、つまりファシリテーション力が問われるのです。
空間デザインだけで4つの組織が存在した日産パビリオン
2020年に開催された日産パビリオンの制作プロセスを例に挙げたいと思います。
数十億円を要したこの大規模なプロジェクトにおいて、僕は企画デザイン監修という立場で、プロジェクト全ての要素に横断的に関わっていました。
このプロジェクトでは、空間のデザインを担当する組織だけでも4つの組織が存在しました。
デザインの基本戦略から基本デザインは、日産自動車のグローバルデザイン本部の建築デザインチームが、建築の設計には太陽工業およびその設計パートナーが、内装の総合的なデザイン設計には乃村工藝社が、インスタレーションなどの個別の展示を博展が担当していました。
各社がデザインをする空間が完全に区切られた別々の場所であった場合は、複数の組織が複数のデザインを進行することが可能です。しかし、本プロジェクトのように各組織のデザインが全て同じ空間に存在する際は、全てのデザインチームが同じ価値観と感性を共有しながらプロジェクトを進行していく必要があります。