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「地域を安売りするな」市民PRチームが活動する生駒市の発想転換

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脱「ベッドタウン」を目指し、人のつながり創出や、まちのファンを増やすための働きかけを行う奈良県生駒市。2015年から市民PRチーム「いこまち宣伝部」が市のSNSで発信するなどしている。こうしたシティプロモーション活動が生まれるには、発想の転換が必要だったという。生駒市広報広聴課 課長の大垣弥生氏が解説する。
※本稿は『広報会議』2023年11月号の連載「地域活性のプロが指南」をダイジェストでお届けします。

実データ 「いこまち宣伝部」が
18~49歳の市民が、生駒で暮らす中で発見した魅力を、市SNSで発信する「いこまち宣伝部」。任期は1年間。写真家や編集者の講座受講、デジタル一眼カメラの貸し出しつき。8年で100人以上が参加。毎年定員を大幅に超える応募がある。

2022年、奈良県生駒市の市民PRチーム「いこまち宣伝部」がグッドデザイン賞を受賞しました。審査員の皆さんから「ひとりひとりの好奇心や感受性を活かした広報活動は、部員自身にとっても楽しみながらシビックプライドが醸成される仕組みとなっている」と評価を受けた取り組みは、2015年から続く本市シティプロモーション施策の中核事業です。

市民の皆さんが市の魅力を見つけてSNSで発信する宣伝部の活動が象徴するように、私たちは「まちのファンづくり」をキーワードに、生駒で暮らす人々の関係性をデザインし、「暮らす価値のあるまち」という都市ブランドをつくるという方針でシティプロモーションを推進しています。しかし、ここに至るまでの道のりは試行錯誤の連続でした。本稿では、プロモーションの方向性が決まるまでのことを紹介します。

生駒市は、奈良県の北西部に位置する住宅都市です。大阪までのアクセスの良さと、緑豊かな環境を活かし、大規模な新興住宅地が開発され発展を遂げました。県外就業率は全国第4位とまさに大阪のベッドタウンです。

2013年、「シティプロモーションに取り組みましょう」と当時の市長に指示を受けました。ちょうど市の人口がピークを迎えた時から始まったのは、大型開発が落ち着いて急激な少子高齢化を迎えることが予想されていたからなのかもしれません。

しかし、自治体プロモーションといえば「観光プロモーション」が主流の時代。ゆるキャラやB級グルメといったツールを使った「まちおこし」に取り組んだり、認知を拡大するためにバズる動画をつくったりする自治体も増えてはいましたが、住宅都市の生駒市が予算や人材を投じて取り組むべきことではありませんでした。

それに、生駒市には隣接する奈良市のような世界的な観光資源もなく、住む人以外にとっては「通過するまち」。新しい住宅地が開発されるたびに事業者がPRをされてきたので、行政には市外に向けて市を発信する意識も知見もありません。「シティプロモーション=市外への売り込み」と捉える人が多い中、まずは子育て世代の転入を目的にした情報発信に取り組むことになりました。

当時のアピールポイントといえば「大阪へのアクセスの良さ」「豊かな自然」「子育て・教育環境の良さ」の3つ。中でも「子育て・教育環境の良さ」を伝えるには、周辺の自治体に比較して優位であった「中学生まで学校給食があること」「希望者は全員学童保育を利用できること」いった行政サービスの発信が全てだと信じきっていました。不動産事業者の皆さんと一緒に生駒の暮らしやすさを伝えるバスツアーを実施したり、子育て世代に生駒の利便性を語ってもらうPRサイトをつくったり、各地のマラソンに出場する市民の皆さんに「住むなら生駒でしょ」と書いたゼッケンを配布したこともありました。

ある時、市内にできる新築マンションの広告代理店の方が「生駒の魅力」をヒアリングしに来られました。いつものような説明をしたら、「子育て・教育施策に取り組んでいない自治体なんてありません。大阪までの時間は、調べたら誰でも分かります。市が伝えるべきことは、そんなことではないと思いますよ」と言われ、衝撃を受けました。

別の人からは「転入したら祝い金を渡すとか、医療費を高校生まで無料にするとか、金銭的サービスだけしか考えられないのは、行政職員に知恵がないということです。安売りせずとも支持される地域をつくるのが本来の仕事ですよね」と言われたことも印象に残っています。

行政施策を中心にした発信を続けても人の心は動かないことに気づかされ、地域を見つめ直しました。すると、地域では小さくても新しい動きがたくさん起きていたのです。リノベーションして暮らす人、自宅で働く人、ゲストハウスや子どもの創造性を育むアトリエを開く人……。こういった新しい動きが、生駒の未来をつくるのではないかと気づいた瞬間でした。

地域に思い入れのある方々が自分達の日常や未来をより良くしようと主体的に取り組まれる多彩な活動を編集して発信することと、そういった活動が次々と起こるような土台をつくっていくことによって「暮らす価値のあるまち」という都市ブランドを構築することがシティプロモーションだと気づき、その後方向性を大きく変えることになりました。

企業がリピーターや顧客を増やそうとされるのと同様に、自治体もただ住む人ではなく、生駒に主体的に参画する人や薦めてくださる人を増やすことで持続的な発展が見込めるのではないか。私たちはこうした仮説を立てました。市外に住む人の転入をゴールにするのではなく、その先の「ファンを増やすこと」をゴールに設定し、まちのファンが生駒を知らない人や生駒に興味・関心を持つ人の心を動かしてくださる状態を目指し、いこまち宣伝部のような取り組みを始めることにしたのです。

※本稿の全文を読みたい方は、広報会議デジタル版にてご覧いただけます。

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生駒市広報広聴課 課長
大垣弥生(おおがき・やよい)氏

百貨店で勤務後、2008年生駒市に入庁。市民PRチーム「いこまち宣伝部」やプロモーションサイト「good cycle ikoma」など、生駒の魅力を伝えながら、人が出会い、緩やかにつながる場をつくる。