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広告効果の測定で起こりがちな「因果の逆転」 見せかけの効果に騙されないために

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データ解析の対象となるカテゴリーは産業界に様々存在するが、そのなかでも、広告・マーケティングという領域においてはどのような活用可能性があるのだろうか。また、広告の効果予測に際して、適切な示唆を得るために気を付けるべきこととは何か。マスマーケティングとOne to Oneマーケティング、それぞれの現状について、データサイエンティストの西内啓氏が解説する。

(本記事は月刊『宣伝会議』6月号巻頭特集に掲載されているものです)

西内 啓氏

東京大学助教等を経て、2010年より企業と行政のデータ活用プロジェクト支援に多数従事。著書に『統計学が最強の学問である』シリーズなど。

因果の逆転に注意!投資効果の予測と検証

データに基づき広告やマーケティング投資の効果を明らかにしようという取り組みについて、技術的にはずいぶん前から可能だった。しかし導入コストやマネジメント、データ基盤の整備といった課題を背景に、実際に取り組んだ日本企業はそれほど多くなかったように思う。

まずは技術的にどうすれば可能になるか、という点について述べよう。統計学の一分野に統計的因果推論というものがあり、例えば今回のテーマで言えば「広告に接触した」という原因によって、どれだけ購買行動という結果が変わりうるかという因果推論をデータから明らかにしようとするものである。

最も簡単な統計的因果推論は、ランダム化比較実験あるいはA/Bテストと呼ばれる手法によって可能になる。典型的な例はダイレクトメールやオンラインクーポンなど、顧客に対しOne to Oneで働きかけられる媒体を用いたマーケティング活動である。ランダムな一部の顧客に対してはOne to Oneマーケティングを行い、残りのランダムな一部の顧客に対しては行わない、といった状況であればその投資効果は正確に検証できる。

ランダムに選ばれているということは、メッセージを送られたグループとそうでないグループの間には性別も年代も居住地域も、その他ありとあらゆる条件がほぼ均等と見なしてよいという状況であり、この時にもし、このグループ間に自社製品の購買金額に関する、「たまたま出てくるようなレベルではない顕著な差」という結果が生じたのであれば、グループ間のたったひとつの違いであるOne to Oneマーケティング活動が原因になったのではないかと考えられる。

また、ここで得られる投資効果が例えば1億円の投資を行った結果5億円分の粗利につながった、といったように十分なリターンが見込めるようであれば大胆にマーケティング投資を行った方がよいし、リターンが不十分であれば狙うセグメントや媒体、あるいはクリエイティブを見直した方がよいということになる。

この手法を マスマーケティングに応用するとなると、One to Oneマーケティングほどには単純にはいかない。しかし「可能な限り同様な条件でマーケティング活動に接触した消費者とそうでない消費者の間の購買を比較する」という基本は同様である。

ただし難しいのは「接触した消費者とそうでない消費者」をランダムに決めることができない以上、両者の間には何かしらの偏りが存在しうる可能性があるため、データの取り方と分析のそれぞれでの対処が必要になる、ということだ。

例えば、新しい広告キャンペーンを行った後、「その内容を認知していた者と、していなかった者の間で、どの程度購買に差があったか」といった報告を目にした方もいらっしゃるかもしれない。その結果、認知者においては一人あたりの購買金額が何円高く、その結果を認知者数にかけ合わせるとトータルで何円分の広告効果になったというロジックが展開されるのだが、これは実は危険な考え方である。

例えば「キャンペーンを認知している人」は単に元々ブランドへのロイヤルティが高く、たまたま見かけた広告をよく覚えている、というだけかもしれない。あるいはキャンペーンのために使った媒体は、元々商品をよく購買するセグメントに向けたものだったのかもしれない。いずれにせよ、広告を見たという原因によって商品を買うようになったという結果が生じたのではなく、単に元々ほっておいても商品を購買しそうな顧客にキャンペーンがよく認知されていた、という因果の逆転が生じてしまっている可能性があるからだ。

このような状況で見せかけ上の広告効果に騙されてしまっていては、広告投資がムダになってしまうだろう。仮にパネル調査などで広告効果を検証するのであれば、キャンペーン開始前のロイヤルティや購買の状況と、性、年代、家庭環境や価値観といった消費行動を左右しうる様々な条件を統計的に補正した上で本当に「広告キャンペーンに接触した人とそうでない人の間に購買の差があるのか」を検証しなければいけない。

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