企業理念の浸透に向けた、インターナルコミュニケーションの具体的手法

ブランディングの重要性が高まる近年、各企業は試行錯誤しながらインターナルコミュニケーションを加速している。本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。エターナルホスピタリティグループの中西秀仁氏は従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを、産業編集センターの相山大輔氏はインターナルブランディングの注力ポイントを、具体事例を交えて紹介した。

複数のツールを活用して理念の浸透を図る

鳥貴族ホールディングスという旧社名から、2024年5月に社名変更したエターナルホスピタリティグループ。グループの総店舗数は1144、東アジアやアメリカなど海外にも出店している。同社では「永遠の理念・使命・目的」の3つを掲げている。永遠の理念「うぬぼれ」には、「真心を込めて焼き鳥を提供することで笑顔にしたい」、「心と心のふれあいで世の中を明るくしたい」という想いが込められ、永遠の使命「外食産業の社会的価値向上」は、創業当時の長時間労働等、従業員に過度な負担を強いることが前提となっている外食産業の構造を是正したいという決意の表れだ。

写真 人物 個人 中西秀仁氏

永遠の目的「永遠の会社」は、「会社は成長以上に永続が必要だ」という、会社設立の目的や会社の存在意義を表現。また「Grobal YAKITORI Family」というグループビジョンには、さまざまな焼鳥ブランドを展開するパートナーと共に日本の焼鳥文化を世界に広めたいという未来を描いている。

共通価値観を記載した小冊子「TORIKIWAY∞」は、社員全員に配布される。人生哲学を中心とした「自己開発」や、社長の経営哲学を記した「経営戦略」、「経営者開発」、「組織開発」、「仕組み開発」の5項目で構成されているが、志というキーワードが多く登場する。志とは「自分の目指す夢や目標と社会貢献が結び付いている状態」とTORIKIWAY∞では定義されている。

さらに同社では、理念に関する情報発信により組織や個人への浸透を図っている。その一つの施策が、2013年に創刊した社内報「トリキLOVE」だ。「鳥貴族に関わる多くの人たちにもっと鳥貴族を知ってもらい、ますます好きになってもらいたいという想いを元に作られた」と中西氏は振り返る。

写真 人物 個人 中西秀仁氏

多数の支店を展開する同社では、通常本部スタッフや支店スタッフ同士が顔を合わせることは稀であることから、働いている人を知ってもらうことを当初の目的とした。創刊当初は社員には1人1冊配布し、パート・アルバイトスタッフ用として店舗に1冊設置した。2020年からウェブ化し、スマホからも閲覧できるようにした。

3カ月に1度の頻度で特集記事を組み、海外1号店の様子や部署の仕事を紹介。また「お褒メン」というコンテンツでは、お客さまから直接お礼の言葉をもらった社員へインタビューを行い、成功事例の共有を図っている。また「鳥辞苑」はアルバイト含む全スタッフに配布し。ブランドを知ってもらう教育ツールとして機能している。

写真 人物 個人 中西秀仁氏

「まだまだ理念の浸透が足りていない」と、今後の課題を口にする中西氏。縦横の理念浸透やブランド間を超えたコミュニケーションや、海外スタッフへの理念伝道師も必要だ。「理念浸透には社風が大事。自社の社長のイメージを従業員に聞くと、誠実・謙虚・ユーモアという回答が多く、社長の想いを素直に受け止めてくれる人は多い」と総括した。

双方向のコミュニケーションによりブランディングを図る

インターナルコミュニケーションに特化した産業編集センターでは、クライアントへのアンケートから、多くの企業がインターナルコミュニケーションを重要視する理由が浮かび上がってきたという。最も大きな理由は「エンゲージメント向上」であり、とくにミレニアル世代のエンゲージに課題感を抱く企業は多いという。

写真 人物 個人 相山大輔氏

「今はコミュニケーションのターニングポイント」と語る相山氏。社会課題や通勤の有無、心理的安全性など、かつての価値観とは大きく異なる、新しい価値観に基づいた企業姿勢が問われる時代となった。その背景にあるのは、市場特性の変化だ。現代では拡大志向から共感志向に変わりつつあり、利益最優先から目的(パーパス)優先へと変化している。そのため、従業員それぞれがリソースを持ち寄り、新たな価値を作っていく必要がある。そこで必要なコミュニケーションは、かつてのトップダウンではなく、双方向であることだ。

写真 人物 個人 相山大輔氏

インターナルコミュニケーションも、ブランディングのメカニズムに立脚したコミュニケーション戦略を取る必要がある。まず企業理念、パーパスがあり、そこから人事制度を含むブランドを定義していく。それを受けた従業員にブランドが共通認識として広がり、製品やサービスへと反映されていくというメカニズムだ。さらにその外郭をグループや家族、顧客、株主、生活者や社会といったエクスターナルが取り囲むが、「企業の姿勢や存在理由を全てのステークホルダーに一貫して波及させることで、企業価値の最大化につながる」と相山氏は説明。従業員・企業・顧客による三位一体のブランディングにより、ブランド求心力がより高まっていくという。

続いて相山氏は、インターナルコミュニケーションの実践ポイントを紹介。基本的なフレームワークとして、調査→社長メッセージを伴うキックオフ→特設サイトによる社員への浸透→従業員によるワークショップ→企業スローガン作成→社員向け説明会→e-ラーニングによる社員理解の浸透→コーポレートサイトやCMなどの作成というステップを踏む必要があると説明した。

写真 人物 個人 相山大輔氏

最初の調査段階では、データ分析、インタビュー、ワークショップなどにより、経営陣や従業員のインサイトを探り会社の実情を把握する。次に行うべきは、インターナルコミュニケーションの目的と体制整備を行う運用設計だ。現場目線でコミットできるブランドアンバサダーを拠点、グループ、部署ごとに設置し、事務局とすることで継続的なインプットが可能になる。次は、ターゲット選定や媒体選択を行う接点開発である。ターゲットそれぞれに刺さるコンテンツをそれぞれ見やすいメディアで提供することが必要だ。その後、コンセプト定義やコンテンツ制作などクリエイティブ制作のフェーズに入る。ここでは社員自ら表現する機会を設けることが肝要だ。「従業員に当事者意識を植え付けるためには、アウトプットさせる機会を設ける必要がある」と相山氏は指摘。最後に各コミュニケーション機会と効果の相関分析をする効果測定を行い、「インターナルブランディングをより高めるために循環させていく」と相山氏は解説した。

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