ジン市場に本格参入したキリン、競合目立つ中でどうヒットに導いたのか

2023年8月に発売されたキリンの新ブランド「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」は、ジュニパーベリー100%ジンを使用したジンソーダで、糖類ゼロ、プリン体ゼロでスッキリ甘くないお酒の新たな選択肢として注目を集めている。発売後わずか1週間で年間売上目標の30%を達成。さらにジンRTDの飲用経験がない飲用者が6割に達するなど、市場の裾野を広げている。この成果の裏には、どのような工夫や戦略があったのか。
※本記事は『販促会議』2025年3月号連載「ヒットの仕掛け人に聞く」への掲載内容から抜粋してお届けします。
写真 商品・製品

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原田桃子氏

キリンビール
マーケティング部
RTD・スピリッツカテゴリー戦略

2016年にマーケティング部に着任。2023年5月新ブランド開発担当として杜の香ブランド担当に着任。

ターゲットは、従来のジン製品よりも若い層

━━キリンでは、2024年8月に新ブランド「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」を発売しています。

「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」は、スッキリ甘くないお酒で心身ともにリフレッシュしたいというニーズに応えた商品です。従来の50代男性を主な客層である既存のジンRTDに対し、30代から40代も含めた幅広い層にも手に取っていただけるようにターゲットを設定しています。スッキリとした味わいと飲みやすさを重視し、ジンのお酒としての余韻を感じながらも甘くない設計で既存のチューハイとも差別化を図っています。

開発の背景にあるのは、家庭での飲酒ニーズと健康を意識しながらもおいしいお酒を楽しみたいという生活者の声です。コロナ禍が明けて外食需要は復活したものの、自宅でお酒を楽しむという方々もまだ多数いらっしゃると感じています。

さらに、コロナは健康志向の高まりも増長させましたよね。このような時代の流れやニーズを捉え、「スッキリ甘くなく、心身ともにリフレッシュできるお酒」という新しい価値観を市場に提案できればと考え、開発に至りました。

写真 商品・製品 KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香

2024年8月に発売した「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」。ジュニパーベリーを100%使用。ジンRTD市場の裾野を広げることを目指す。

競合の参入も目立つジン市場 なぜ今発売したのか

━━ジンRTDは競合他社でも販売されている印象があります。なぜ今、ジン市場に参入したのでしょうか。

たしかに、ジンRTDは市場の中でも盛り上がっているカテゴリだと言えます。そんな中で他社製品のイメージが強い人もいるかもしれません。

ですが、ジンRTD市場はまだ確立されたカテゴリだとは言い難いと考えています。これからさらに成長が見込まれる市場であると判断し、ジンに着眼しました。すでに知名度の高いブランドが市場にあるから出さないという考え方ではなく、他社製品とともに市場全体を活性化させられる可能性に価値を感じましたね。

例えば、缶ハイボールは各社から発売されています。新たな製品が発売されたとしても、違和感はないですよね。生活者にとっては選択肢も多くなり、自身の好みに応じた商品を選ぶことができます。これは缶ハイボール市場が活性化しているからこそ、起きていることだと思うのです。

これはきっとジン市場も同じ。市場が活性化してたくさんのブランドがお店の棚に並べば、生活者の選択肢の中にジンが自然と定着していくはずだと思います。ジンが飲酒文化に根付いていく土壌を育てるという意味でも、ジン市場に参入する意味は大きいと考えています。

写真 「杜の香」では、2024年11月にジントニックも期間限定発売

「杜の香」では、2024年11月にジントニックも期間限定発売。「KIRIN Premium ジントニック 杜の香」として販売した。写真左の青い缶が「KIRIN Premium ジントニック 杜の香」。

スッキリ甘くなく、心身ともにリフレッシュできるお酒でヒット

━━発売後1週間で年間目標の3割を達成したという情報もありました。ヒットの要因をどう捉えていますか。

「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」がヒットした背景には、冒頭で述べたような健康志向の高まりと、先ほど話したジンRTD市場が国内外で注目を集めていることが要因とだと考えています。とくに日本市場では、ウイスキーをはじめとした蒸留酒の人気が高まっていますが、ウイスキーは製造として出荷できるまでに時間がかかってしまうのが少し難点です。

その点ジンは比較的製造化までのリードタイムが短いという特徴もあります。活況となっているのは、これも理由の1つだと思いますね。「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」だけではなく、ジンに関連した商品が売り場に増えているからこそ、物珍しさが薄れ、生活者も手に取りやすくなっているのではないかと感じます。

また「スッキリ甘くなく、心身ともにリフレッシュできるお酒」として商品設計したことも、多くのユーザーに受け入れられた要因だと考えています。お酒好きの生活者は、「年を重ねてもお酒を楽しみ続けたい」という想いから、健康に配慮してお酒を飲みたいというニーズを持つ人が多い傾向にあります。そのニーズにも「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」は合ったのだと思いますね。

現に、ジンはもともと薬用酒として飲用されていたものですし、歴史的背景も含めて現代の“良いお酒を健康に配慮して楽しみたいという志向”にもマッチしたと捉えています。

初速の好調は、生活者のニーズや市場の盛り上がりがマッチしたことで達成できたと考えていますね。売上は期待通りでしたが、認知の課題は依然としてあります。2025年には製品改良や新たなプロモーションを通じて、さらなる認知拡大を目指す方針です。

テレビCMに、巨大水槽「見過ごせないプロモーション」

━━初速が好調だったということですが、プロモーションはどのようなことをしたのでしょうか。

テレビCMとデジタル広告を組み合わせ、ターゲット層に効率よくリーチすることを意識していました。やはり発売直後に広く認知を獲得するためにも、テレビCMは欠かせないコミュニケーション手法とし位置づけていました。

また、ジントニックを期間限定で販売した際には新宿の地下道に巨大水槽を設置し、インパクトある広告展開を行うとともに、SNSキャンペーンと連動させて話題化も図りましたね。広告は生活者の記憶に残ることが重要です。一度見たら忘れられない工夫を施すことで、店頭で商品を手に取る動機をつくることを意識しました。

写真 掲載風景

「KIRIN Premium ジントニック 杜の香」の期間限定発売を記念して実施されたアクアリウム広告。掲出場所は東京メトロ新宿駅のメトロプロムナード。CMにも登場する、気泡のあがる美しい森を再現した。

マス向けのコミュニケーションだけではなく、ジンソーダ杜の香では店頭販促にも注力したのも特徴的だと思います。具体的には――

本記事の全文は、月刊『販促会議』3月号本誌、もしくはデジタル版(ご購読が必要です)にてお読みいただけます。

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