広報活動の目的は、発信をすること、メディアに取り上げられることではありません。本稿では経営と密接に結びついた戦略的なPRの考え方、そしてそのためのパートナー選定について、令和PR 代表取締役の小澤美佳氏が解説します。
※本記事は『広報会議』2025年5月号 の特集「進化する広報のこれから」に掲載している内容をお届けします。
広報という仕事の醍醐味
広報の最大の魅力は「経営をPRで加速させる」ことができる点にあります。広報は単なる情報発信ではなく、企業の成長戦略と直結する重要な機能です。
企業の広報活動を「リンゴの木」に例えると、まず根っこの部分には理念、ビジョン、経営戦略、組織、サービスといった「企業の根幹」があります。これがしっかりしていなければ、どれだけ発信を強化しても成果にはつながりません。次に幹の部分が「第一想起」、つまり「◯◯といえばこの会社」と認知されるためのブランディングの軸です。
そして、そこから枝として、創業者のストーリー、開発背景、お客さまの声、イベントなど、広報が発信する「ネタ」が生まれます。最後に、葉っぱの部分で「発信ツール」を検討し、メディア露出、SNS運用、自社サイト運営などを通じて外部へ発信されます(図)。
図 広報活動をリンゴの木に例えた概念図
このように根から葉まで丁寧に育てていくことで、最終的にリンゴの実として、①売上向上、②顧客からの問い合わせ増加、③採用力の強化、④社員のエンゲージメント向上、⑤資金調達力の向上、⑥事業提携機会の増加、⑦メディアからの出演依頼獲得といった成果につながっていきます。
ところが、ありがちな落とし穴としてあるのが、「葉っぱ」の発信ツールから考えてしまうことです。「みんなSNSをやっているから、当社でもやろう」といった具合に、手段が先行し、「有名なメディアに取り上げてもらうこと」などがゴールになってしまうケースも少なくありません。手段が目的化してしまうと、何のために広報をやっているのかが分からず、迷子になってしまいます。だからこそ、会社の「根っこ」をしっかり固め、幹を育て、それに合った、枝や葉を設計することが重要です。
私自身、オンラインアウトソーシングサービスを運営するニットの広報担当者として「新しい働き方といえば、ニット」という第一想起を確立するための広報活動を行ってきました。その結果、「その思想に共感した」と応募してくれる求職者の増加や、「この考え方の企業だからこそ依頼したい」と問い合わせが増えました。
さらに、新聞やテレビなどのメディアに掲載されることで企業の信頼性が向上し、資金調達や事業提携の機会も広がりました。
この経験から、「PRは経営・事業を前へ進められる」という確信を持ち、より多くの企業で、経営課題を広報で解決する総量を増やしていきたいと考え、令和PRを設立。現在は、多様な業界の広報支援をしています。その際にも大事にしているのは、経営陣と徹底的に「幹」となる「第一想起」の言語化を行い、その第一想起を見失わないように目標を設計し、またお客さまとの会話の中でも意識的に伝えるようにしていて、一緒にその会社の第一想起を創っている形になります。
こうした経験から、広報の力は単なる露出獲得にとどまらず、企業経営そのものを加速させていくものだと改めて思います。
PR会社に依頼する際の心得
読者の方の中には広報業務の一部をPR会社に委託している、もしくはこれから委託を検討している人もいると思います。
PR会社を選ぶ際に最も重要なのは、企業のブランドや課題を深く理解し、共に価値を創り上げるパートナーとなれるかどうかです。
前述のように、単なる露出獲得を目的とする広報活動では、思うような成果にはつながりません。広報は「第一想起」を確立し、企業のブランディングや競争優位性を築くための、経営に直結する戦略的な活動であるべきだからです。
そのため、PR会社がクライアントの業界構造や競合環境を理解し、3C分析(自社・競合・市場)を踏まえたうえで、「どのようなポジショニングを取るべきか」を共に考えられるかが伴になると考えています。
PR会社には、メディア露出に強い会社、SNS運用に特化した会社、BtoBの経験値が豊かな会社、採用広報が得意な会社など、さまざまな特徴があります。しかし、広報活動が企業のブランディングと一致していなければ、一過性の話題に終わってしまいます。広報の成果は一夜にしてならず。中長期的な視点で企業価値を高めるためには、PR会社を単なるアウトソース先として捉えるのではなく、「一緒に価値を創り上げるパートナー」として選定することが重要です。
私自身、これまで多くの企業の広報・PRを支援してきましたが、常に心がけているのは、「単なる広報代行」ではなく、企業の経営戦略の一環として広報を設計するというアプローチです。従来のPR会社の概念に捉われることなく、「もしも私が御社の広報担当者だったら」という視点で定期的に「もしも会議」を開催して提案を行い、企業の経営課題を解決するための広報戦略を共に考える場を設けることを大切にしています。
また、広報活動を効果的に進めるためには、KPI(重要業績評価指標)を適切に設定することも欠かせません。例えば、単なるメディア掲載件数ではなく、「第一想起を確立するための施策実行ができているのか」「ターゲットとする媒体にどのような文脈で掲載されたか」など、広報の成果を可視化し、経営に活かせる指標を設定することも求められます。
したがって、PR会社に依頼する際には、「ただ露出を増やす」のではなく、「企業ブランドの幹を共に創り、戦略的に広報活動を推進できるか」を基準に選ぶことが成功の伴となります。
相談できる先輩がいないあなたへ
PR支援会社には大きく分けて「PRの代行」と「PRのコンサルティング」という2つの役割があります。
前者は、メディアアプローチ、プレスリリース作成、SNS運用代行など、広報業務を代行してくれる会社です。一方、後者は広報戦略を考えたり、広報担当者の壁打ち相手となったりする役割を担います。
もし、あなたが「ひとり広報」で相談できる先輩がいない場合は、広報関連の書籍や他社の広報担当者との交流を通じて情報収集により学ぶのも良いですが、成長を早めたいのであれば、一定期間(半年~1年)PRコンサルティングを受けることをおすすめします。週に一度でも壁打ちの機会を設けることで、自身の考えを客観的に整理できたり、プロの視点から新たなヒントを得られたりします。また、進捗管理のペースメーカーとしての役割も期待できるため、より戦略的に広報活動を進めることが可能になります。
また、近年ではオンラインコミュニティを活用して、他社の広報担当者と情報交換を行うケースも増えています。SlackやFacebookグループなどのプラットフォームを活用し、最新の広報トレンドや成功事例を学ぶのも有効な手段です。
最後に、広報の仕事で最も大切なのは「企業を好きでいること」だと思っています。心から「この会社の良さを伝えたい」と思えるからこそ、熱量を持って発信でき、その情熱は必ず伝わります。
しかし、一方的に情報を押し付けるのではなく、世の中のトレンドや受け手のニーズを冷静に分析し、「どのように伝えれば共感を得られるか」を考えることも重要です。
広報は社外と社内をつなぐ「架け橋」としての役割を担います。この仕事を通じて、ぜひ企業の成長を加速させてください。
