※本記事では5月1日発売の『広報会議』2025年6月号の特集企画「取材が集まる広報のアプローチ」に掲載している内容をお届けします。
近年、広報の環境は目覚ましく変化しています。その背景には、情報の“主導権” が企業から生活者へと移行しつつあるという大きな潮流があります。
従来、企業はプレスリリースや広告を通じてマスメディアに情報を提供し、生活者へ間接的に届けることが主流でした。しかし、現在ではSNSやオウンドメディア、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の普及により、状況は大きく様変わりしています。
生活者は自ら積極的に情報を検索・共有し、さらには発信者にもなれる時代です。企業の情報発信はもはや一方通行ではなく、生活者との双方向のコミュニケーションへと進化しています。
この変化に対応するために、企業の広報活動にも新たな戦略が求められています。
メディアリレーションは必要か?
このような変化の中で、「そもそもメディアリレーションは必要なのか?」という問いが浮かび上がります。
総務省の「令和6年版 情報通信白書」(図1)によると、日本人の多くがオンラインでニュースを得る際、「ニュースサイト・アプリからのおすすめ情報を見る」(65.7%)、「SNSの情報を見る」(44.5%)という行動をとっています。つまり、従来のマスメディアへの依存度は相対的に低下していると言えます。
図1 オンライン上の最新情報の入手方法(日本)
出所/「令和6年版 情報通信白書」(総務省)より一部抜粋(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n21b0000.pdf)
一方で、同白書の「情報発信源の確認頻度に関する調査」(図2)では、情報の真偽を確認する人の割合(「ほぼ全てのニュースについて行う」「よく行
う」の合計)は日本では19.0%と低く、この数値は他国と比べてもかなり低水準です。多くの人が、パーソナライズされたSNSや検索結果に含まれる情報の偏りやフェイクニュースに疑問を持っていないことが分かります。
図2 情報の発信源(組織や人物)の確認頻度(日本)
出所/「令和6年版 情報通信白書」(総務省)より一部抜粋(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n21b0000.pdf)
こうした背景を踏まえると、誰もが情報発信者になれる時代だからこそ、第三者視点で編集されたマスメディアの情報には、客観性と信頼性という価値がより一層高まっていると言えるでしょう。
つまり、メディアリレーションは「不要になった」のではなく、「これまで以上に戦略的に活用すべきもの」へと進化したのです。
マスメディアに期待する価値
マスメディアへの露出は、企業にとって今なお大きな価値を持ちます。その価値とは、第三者機関による客観的な編集と、記者・編集者ならではの視点による情報発信にあります。
フェイクニュースが氾濫するSNS時代において、マスメディアから発信される情報の信頼性はますます重要になっており、その信頼は企業ブランドにとっても大きなメリットとなります。
とりわけ、記者・編集者が持つ専門性と情報編集スキルは、情報発信の「質」に直結します。彼らの力は大きく次の2点に集約できます。
1.多様な「伝え方」のスキル
同じ情報であっても、トレンドや社会課題、人間的なストーリーなど、さまざまな切り口で“伝わる形” に編集することができます。
2.「社会との接続点」を見出す力
企業の情報を、時事性や地域性、社会課題といった“世の中の関心事” に結びつけ、より広い層へ共感と関心を生む形で発信してくれます。
このようなマスメディアの編集力と信頼性は、SNSやオウンドメディアではなかなか再現できない価値であり、広報担当者にとってメディアとの関係構築=メディアリレーションは、企業
のブランド形成や事業推進にとって欠かせない活動と言えるのです。
メディアリレーション5つの要点
現代の広報担当者があらためて意識すべきメディアリレーションのポイントを、以下に5点まとめました。
❶対等なパートナーシップ
記者と広報は、役割は違えど「社会にとって価値ある情報を届けたい」という目的は同じです。「取り上げていただく」「取材してあげる」といった上下関係ではなく、対等な関係性を土台にした信頼構築が重要です。
❷デジタル時代だからこそ重要なリアルなコミュニケーション
オンラインツールが普及した現在だからこそ、直接顔を合わせて話すことの価値は増しています。メールやSNSでのやり取りに加え、時には対面でコミュニケーションを取ることによって、オフラインで“雑談の余白” が生まれたときに相手のことをよく知るチャンスが生まれ、信頼関係ができるきっかけになります。
❸長期的な関係性の構築
メディアとの関係は、一度の記事掲載で終わるものではなく、日々の対話や信頼の積み重ねによって成り立つものです。ネタを渡す相手ではなく、“困った時に頼れる存在” になることが理想です。
❹受信者・発信者両面のメディアリテラシーを持つ
広報担当者には、受信者としても発信者としてもメディアリテラシーが求められます。情報の真偽を見抜く力、誤解なく伝える力、適切なタイミングでの開示判断など、広い視野が必要です。
❺メディアの多様化への対応
新聞、テレビ、ウェブ、専門誌、YouTube、個人ジャーナリストなど、メディアは多様化しています。各媒体の特性を理解し、チャネルごとに最適な関係構築を行うことが求められます。
「共創」の時代へ
これからの時代のメディアリレーションは、これまでの単なる情報提供から、よりメディアと一緒に情報を創っていく「共創」へと進化していくでしょう。従来のメディアリレーションは、属人的な人脈頼りな面や広報側からの一方的な情報提供がベースにありましたが、今後重要となるのは、「この社会課題、一緒に解決策を探り、伝えていきませんか?」という共創・共同企画型の関係構築です。
広報担当者が、「記事や番組の素材」を提供するだけでなく、社会全体の文脈を理解し、「企画のタネ」を提供できるようになるには、広報担当者自身の「編集力」と「共創力」が不可欠です。
「編集力」とは、情報を整理・分析し、メディアのニーズに合わせた形で提供する能力で、「 共創力」とは、メディアと連携し、双方の強みを活かしながら、新たな価値を創造する能力です。
この2つの力を磨くことで、メディアとの関係性はより強固になり、企業としての発信も、より社会にインパクトを持つものとなっていくでしょう。
現代の広報は、“伝える”だけでなく、“共につくる”という視点が求められています。メディアリレーションもまた、時代に合わせて変化し、進化し続けているのです。

『広報会議』2025年6月号
「取材が集まる広報のアプローチ」
〇現代にメディアリレーションはなぜ必要?
あらためて考える、メディア露出の価値
田尻有賀里(リストグループ)
〇新任広報担当者が押さえておきたい
メディアリレーションのポイント【入門編】
千田絵美(フロントステージ)
〇リレーションづくりから協働・共創レイヤーへ
より深い関係構築は仲間意識から生まれる
井口 理(電通PRコンサルティング)
〇CASE STUDY
伊藤園、味の素、パナソニック くらしアプライアンス社、サンスター、アカマイ・テクノロジーズ、TENTIAL
〇メディアが取り上げたくなる情報とは?
取材先の選び方、注目テーマを探る
『TBS NEWS DIG Powered by JNN』、『東洋経済オンライン』、『日経トレンディ』
〇有事に問われる記者との信頼構築
変わる緊急記者会見のあり方
大森朝日(広報・危機管理コンサルタント)
〇メディア露出の価値を最大化するには?
SNS連動で話題を増幅させる次世代PR
高橋 遼(トライバルメディアハウス)
〇メディアリレーション実態調査