※本記事では5月1日発売の『広報会議』2025年6月号の特集企画「取材が集まる広報のアプローチ」に掲載している内容をお届けします。
PR活動におけるひとつの強力な武器として認識されているのがパブリシティです。
これまでは自社情報がいかに新聞やテレビといった「マスメディア」にとり上げられ、広く世間や生活者に認知されるかという「接点の拡張」がメディアリレーションの命題となっていました。またその前提には、そもそも大多数の読者・視聴者を持つ有力メディアにニュースが掲載されれば、その先に紐付く人々の塊に効率良くアプローチできるという認識があってのことかと思います。
しかし現代において、その頼りとするマスメディアの存在感は大きく変化しているのはご存じの通りです。生活者との情報の架け橋という意味では、現在ではその趨勢は様変わりしています。
例えば様々なメディアのコンテンツを一カ所に集約して見せるウェブ上のキュレーションメディアや、誰もが自由にそして無限に情報発信できる動画プラットフォームがその接点づくりでは優位に立っていると言わざるを得ません。そんな状況下で我々は生活者との接点をどう紡いでいくべきなのか。
前例踏襲ではなく、これまでの慣習を飛び越え、新たなやり口を採用する覚悟が必要かもしれません。
デジタル世代が望む情報の沼
新興のソーシャルメディアの勢いは凄まじく、また発信主体の一翼を成すインフルエンサーたちの際立つ個性によって、かつてのマスメディアを超える読者・視聴者(ここではフォロワー)を獲得している事例には事欠きません。
「推し文化」が定着し、狭い領域ながらも濃厚に結びついた情報発信者とその受信者たちは、精神的にも一体化し、フィルターバブルの中に居心地の良さを求め、またそれに満足する傾向にあります。
以前は常に新しい情報への貪欲さもあり、半ば受動的にすべての情報を受け入れており、提供される情報はもれなく歓迎ムードで受け止められていたようにも思います。また「興味ある記事の、その横に位置する情報も併せ読むことに意味がある」など新聞購読の価値に重ね合わせ、ジェネラルな知識習得の重要性がまことしやかに語られていました。しかし情報氾濫の時代に入ると、その情報処理は追いつかなくなり、やがて疲弊することとなります。
それはデジタルネイティブなZ世代やアルファ世代においても同様で、動画の2倍速再生やAIの要約機能を使ったとしても、ちまたの情報を消化しきれない状態に多くの人々が晒されました。
さらにはタイパ重視のデジタル世代は、ここで接触メディアを敢えて絞り込む意向を強めてしまったようにも思えます。かつて百花繚乱だった雑誌コンテンツを隅から隅まで読みあさっていた自分自身とは異なり、現代では様々な要因が重なり合い、逆に向き合うメディアの一本化が進んでいるようにも感じます。他方、世間では今や多くの情報を広く持ち合わせる「博識」であることよりも、ある領域に“沼った” 知識を持つ存在の方が重宝されているようにも感じられ、それはそれで時代にマッチしていると言えるかもしれません。
「マステーマ」への意識転換
併せて理解しておきたいのが、それらフォロワーは、これまでのようなメディアと一体化した単一のデモグラフィックでは捉えることができないということです。
趣味嗜好は同じでも、その性別や年齢、職業、居住エリアはバラバラで、単純に一平面では語れない玉虫色のグループ、すなわちクラスター(同じ特性や行動パターンを持つグループ)と呼ばれる存在になっているのです。以前は、「この雑誌を購読している人たちは、こんな人たちなんだろうな」と想像しながらメディアプランを考えていましたが、そのような単純な思考は通用しません(図1)。
図1 生活者の情報接点の変化
そんなメディア基点でも括れない、いわば散在する生活者に対して、我々はどのようにアプローチしていくべきなのでしょうか。
もちろんインフルエンサーたちの投稿も含め、個々のメディアの特徴を理解しつつ、そこに紐付く生活者向けに個別丁寧に接点を紡ぎ出していくのが王道のやり方なのかもしれません。しかし一本釣りではなく、もう少し広く投網的に生活者の関心を獲得しようとするならば、ひとつ試してみてほしい発想があります。それが、生活者が紐付く個々のメディア特性を飛び越えて、より高いレイヤーで関心や共感という繋がりを持てるであろう「マステーマ」という考え方です。
冒頭にお伝えした通り、人々の関心を束ね、それに応える情報提供をしてきたマスメディアをハブにして、多くの関心を獲得しようという物理的な手法から脱皮するということ。これまでのように、個別メディアの既存の力に頼らない、個々の生活者の日頃の意識に引っ掛かりのあるテーマを高く掲げることによってメディアの壁を超え、より広範な関心を獲得していこうということです。
それは、特に世の中の大義に近いテーマ、すなわちこれが「マステーマ」であり、世の中の老若男女問わず共感度が高く、各々が自分の考え方を伝えたい、語りたくなる類いのもの。その関心をうまく喚起し、その会話の中で自社情報を併せ伝えていくというやり方です。これは昨今のパーパス経営や、ソーシャルバリューブランディングといった企業価値向上のための思考にも実は沿ったやり方とも言えるでしょう(図2)。
メディアに向き合う工程が価値に
ここまでは自らの情報発信機会におけるメディアとの向き合い方の変化について語ってきました。ただ、メディアリレーションは先述のパブリシティ露出といった目的以外の価値にも注目すべきと考えています。
――本記事の続きは5月1日発売の『広報会議』2025年6月号に掲載しています。

『広報会議』2025年6月号
「取材が集まる広報のアプローチ」
〇現代にメディアリレーションはなぜ必要?
あらためて考える、メディア露出の価値
田尻有賀里(リストグループ)
〇新任広報担当者が押さえておきたい
メディアリレーションのポイント【入門編】
千田絵美(フロントステージ)
〇リレーションづくりから協働・共創レイヤーへ
より深い関係構築は仲間意識から生まれる
井口 理(電通PRコンサルティング)
〇CASE STUDY
伊藤園、味の素、パナソニック くらしアプライアンス社、サンスター、アカマイ・テクノロジーズ、TENTIAL
〇メディアが取り上げたくなる情報とは?
取材先の選び方、注目テーマを探る
『TBS NEWS DIG Powered by JNN』、『東洋経済オンライン』、『日経トレンディ』
〇有事に問われる記者との信頼構築
変わる緊急記者会見のあり方
大森朝日(広報・危機管理コンサルタント)
〇メディア露出の価値を最大化するには?
SNS連動で話題を増幅させる次世代PR
高橋 遼(トライバルメディアハウス)
〇メディアリレーション実態調査