イケメン俳優5人のCM起用に見る、洗濯への認識アップデートへの強い意志/花王

かつての家庭用日用品のイメージといえば……

この5人のタレントは、アタックブランドとしては6年ほど続いていて、どちらかと言えば既にロングラン広告の部類に入るCMになっていると思われます。

今でこそ、男性が洗濯をごく普通にする。洗濯物を干す……その行為も、ありふれた日常の風景として見るコトができるようになっています(彼らのおかげ?)。昔の男性の洗濯といえば、コインランドリーで嫌々しているイメージが強かったかな、と思います。

さらに、昭和の時代の洗濯洗剤のCMは、エプロンをしたお母さんが大型洗剤を洗濯機にバサバサと入れるCMの印象が強く、また午前・午後のワイドショーでは、今は見なくなった生コマーシャルで洗剤の機能などフリップを活用し女性アナウンサーが説明するCMであふれていました。食品系広告と同様に女性を中心としたタレント構成が普通のことであり、それが家庭の日用品としての位置づけを表わしていたと考えられます。

時代が動き多様性がうたわれるようになり、トイレタリー領域も食品領域と同様にジェンダーに対する意識の高まりは、CMの内容に変化を迫ったのだと思います。

しかも、トイレタリー領域は巨大な外資系企業が複数存在し、同カテゴリーで多量のCM出稿する競合ともなれば、それ以上の強力なブランドイメージ・生活提案ブランドとして存在感・共感性を高める必要に迫られたのではないでしょうか?

進化し続ける「洗濯」を提案することの必要性

また、花王といえば理系の色が強く、CMでも商品の機能を細かく説明する広告が主流であった印象があります。以前であれば、元々洗浄力の強いパウダーを技術革新により、さらに溶けやすくしたシン・パウダーでお客様の洗濯課題のシン解決!といったコトをメインに伝えがちなるのですが(自分だったら表現するかも……)。

でも、最近あらためて感じるのは、その色を感じにくいのです。

“洗濯愛してる会”に代表される、広告の主たる役割である商品の販売競争のためだけでなく、洗濯という行為そのものを、清潔・健康といった側面から生活の中に再設定させる文化的な意識を感じさせます。そのためにも5人必要であり、人それぞれ様々な洗濯を描き出したのでしょう。日本企業として従来のイメージは脱ぎ去り、進化し続ける新たな洗濯のありようを提案する、その必要を感じ取ったのだと予測します。

さらに老舗ならではの、こんなことも気が付きました。

花王も私の卒業した企業も、タレントを起用するとそれなりに長く起用し続けています。それは、お客様の生活の中に根付く商品なために、安定感としての定番感、いつもの〇〇と言った商品ブランドを前面に出しながら花王としてのコーポレートブランドマネジメントもその根底にあるのだと思います。

ブランドを活かし続ける。100年を越える老舗、花王、軸がしっかりしています。

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名久井貴詞

なくい・たかのぶ/1958年青森県八戸市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、1983年味の素入社。企業内クリエイターとして、パッケージデザインの開発やテレビCM・新聞・Webなどの広告全般の企画・制作に携わる。2017 年、クリエイティブ統括部⾧として味の素のグローバルコーポレートロゴデザインを制作し、世界一斉に改定を実施した。2021年に退社。現在はクリエイティブディレクターとして、また大学での講師活動も行っているほか、2023年から日本広告制作協会(OAC)理事長を務める。

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