はじめまして、蓮村俊彰です。私は大学卒業後、電通へJoin。大手クライアントのマーケティング・コミュニケーション全般に携わりました。その後、新規事業開発畑へ転向し、特にAdd TechやMarketing Techが盛り上がる最中、隣接領域であるFinTechにマーケティング高度化の可能性を見出しました。三菱地所、電通総研(旧ISID)と共にThe FinTech Center of Tokyo, FINOLABという日本初・最大規模のFinTech産業拠点を東京大手町に設立するなど、日本のFinTech産業の興隆にかかわりました。
2019年より、住友商事にJoin。ハードウェア・ロボティクス系スタートアップへの支援プロジェクトとして世界最大のHAXの日本版「HAX Tokyo」の立ち上げや、量子コンピューターを用いた次世代事業開発「Quantum Transformation “QX” Project」の立ち上げにおいて事業開発、広い意味でのマーケティングを担当してきました。現在は諸外国での自動車流通販売事業におけるマーケティングの高度化、デジタル化を推進しています。
本コラムでは、総合広告会社を経て総合商社にジョブチェンジをした私が感じる、事業会社がマーケティングやその関連業務をマーケティング関連の外注業者ないしパートナーへアウトソースするためのTIPsについて解説をしていきたいと考えています。広告会社やITベンダー、コンサル会社にとっての「クライアント」企業にお勤めの方が、「事業経営や事業運営におけるマーケティングやマーケティング関連IT/DX」の全体像を把握しつつ、業務をアウトソースする際、発注主として全体をしっかりインテグレートできるようになることを目指しています。
さて、初回のテーマは「マーケティングの全体像を把握することの難しさ」についてです。
突然ですが、私はかれこれ10年以上ダイエットに励んでいます。その間、次々と現れる最新のダイエットメソッド、最新科学技術などなど、耳触りの良い目新しいバズワードに出会っては試してきました。「最新の科学的メソッド」などの謳い文句を駆使する“ダイエット村”のマーケティング・コミュニケーションに唆されて、大枚をはたいてダイエット食品やグッズを購入した経験がある人は私だけではないはずです。
しかし、「10年以上ダイエットに励んでいる」とは、要は効果が出ていないということです。私のように最新の流行りやハイプ、バズワードないしニューテクノロジーに騙され易い人には本質が見えていないことが多々あるのだろうと存じます。
では、ダイエットにおける本質とは何でしょうか。それはつまり下記の数式です。
【体重変化量】=【摂取カロリー】-【消費カロリー】
実に美しい、シンプルなフォーミュラです。食べた量を上回るエネルギーを消費すれば、貯蓄が切り崩されて脂肪が減るという普遍の法則を示しています。どんな美辞麗句で飾り立てても、ダイエット食品やサプリメントは摂取カロリーの抑制に、ダイエットグッズや脂肪燃焼サプリは消費カロリーの増大に寄与しているだけです。それ以上でもそれ以外でもありません。
こうやって理屈を知ると、摂取カロリーの抑制や消費カロリーの増大に大金を投じるのが果たして正しいのか疑問が湧いてきます。お金を使わずとも、食べなければ痩せ、運動すれば痩せるわけですから…。
なぜ冒頭からダイエットの話をしているかと申し上げますと、マーケティング村もダイエット村と同じように、次々と新しい「●●マーケティング」というバズワードを生みだしがちだからです。結果、マーケティングの本質がなんだか良く分からなくなっています。そしてもちろん、ダイエットのフォーミュラを意識せずにダイエットをするかのように、マーケティングも本質を理解せずに枝葉末節を追いかけると、パフォーマンスは上がりません。お金も無駄にかかるだけです。
それでは、マーケティングにも原理原則を貫く黄金律とも言える数式があるのかと言えば、おそらくあります。下記の数式です。
これは、本邦における当代一のマーケターと名高い森岡毅氏の著書『確率思考の戦略論』からの引用です。アドタイ読者の皆様におかれてはご理解の通りと存じます。各項目の詳細は当該書籍をご参照ください。
ダイエット産業も驚くほどの、夥しい数の手法や仕組みが存在するマーケティング業界ですが、およそすべて、上記の数式の説明変数のどれか、ないしはすべてに影響を与えるために存在していると言えます。言い換えれば、マーケティングとは、あの手この手で最終的には上記数式の変数のどれか、またはすべてを触ろうとしているにすぎません。(ちなみに目的変数はKGI、説明変数はKPIと言い換えられます)。
「マスマーケティング」、「ソーシャルマーケティング」、「データ(ベース)マーケティング」、「One to Oneマーケティング」、「O2Oマーケティング」、「ロイヤリティ マーケティング」、「デジタルマーケティング」、「インバウンドマーケティング」、「オウンドメディアマーケティング」、「コンテンツマーケティング」、「バイラルマーケティング」、「インフルエンサーマーケティング」、「コミュニティマーケティング」、「ファンマーケティング」、「マルチレベルマーケティング」、「マーケティング・オートメーション」、「カスタマーリレーションマネジメント」、「カスタマーデータプラットフォーム」、「データマネジメントプラットフォーム」、「サプライサイドプラットフォーム」、「デマンドサイドプラットフォーム」、「グロースハック」、「戦略PR」……
私が瞬時に思いつくだけでも、マーケティングにまつわるキーワードはこれほどたくさんあります。これは、(私も含めて)マーケティングを生業とする人間が、自分自身の業務自体をマーケティングしていることもひとつの原因です。目新しいキャッチーなコピーライティングで、自身の専門分野を分かりやすく親しみやすくしたり、さも最新かつ高度かのように魅せたりします。特にマーケティングの専門家が多いマーケ村はこの傾向が顕著なため、新しいバズワードが次々と生み出される温床にもなります。
裏を返せば、マーケティングの数式や自分の扱うビジネスのファネル構造をざっくりでも知っておくと、小難しい横文字だらけで煙に巻くようなマーケティング企画の提案をされた際でも、「要は、この人は●●の数値を上げるために■■しましょう、と提案しているのだな」、と極めてシンプルに理解できるようになります。
シンプルに理解できると、その数値が首尾よく上がったところで、ではビジネスにどの程度のインパクトがあるのか、その為に費やすべきリーズナブルな金額は幾らなのか、より有利な代替手段はないのか、他に優先して伸ばすべき数値はないのかといった、生産的な検討や議論を始めることが可能になります。
ものによって測定し易い、し難いといった差はあれど、「どこ」の「何」の数値へインパクトを与えることを目的としたマーケティング施策なのかが明確でない活動は、なんだか良く分からない脂肪燃焼サプリに大金を支払っている状況とさほど変わりません。そんなことなら、高価なダイエットサプリに頼らず、毎日スクワットと食事制限を行った方が、安くて効果的かも知れません。マーケティングでもそれは同じことです。
本コラムでは、このように事業会社の視点から考えるマーケティングのTIPs、特にアウトソースに関わる領域についてお話ししていく予定です。次回は事業会社のマーケティングとマーケティングファームのマーケティングの違いについて徒然とお話できれば、と存じます。
