不透明な時代を切り開く ビジネスの新潮流を捉えた一冊
「SBNR(Spiritual But Not Religious)」とは、「宗教的ではないがスピリチュアル」という意味を持つ。日本古来のカルチャーとも親和性が高く、日本における「無宗教型スピリチュアル」層は43%を占め、世界的にもトップクラスの高さであるという。この考え方にはビジネスの現場からも共感する点が多く、不透明な時代を切り開き未来に向かう潮流を見事に捉えていると感じる。「SBNR」は未来からバックキャストした経営戦略やマーケティング企画をつくるためのフレームであり、わたしたちが数値化や言語化できていないが確実に生まれつつあるユーザーの志向を見事に定義している。
データが駆動しあらゆるものがエビデンスに基づいて語られているこの時代に、スピリチュアルという目に見えないものの価値に見事に切り込んでいる点も称賛したい。「SBNR」を企業のマーケティングに留まらず、経営戦略の新潮流として広げていきたい!と思える良書だ。
博報堂ストラテジックプラニング局、SIGNING著『SBNRエコノミー「心の豊かさ」の探求から生まれる新たなマーケット』
「こころもからだも整えたい」
現場で日々感じるニーズの高まりに合致
2030年に向けて「ウェルビーイングの時代」の到来がよく語られる。政府や一部企業でも経済的な豊かさの指標であるGDP(国内総生産)に代わり、国民の幸福や生活の質を重視したGDW(グロース・ドメスティック・ウェルビーイング=国内総充実)という新たな指標を検討している。その中で、ウェルネス市場はその高い成長率から世界的にも注目されている。日本では2025年から超高齢化時代に突入するが、平均寿命と健康寿命に10年ものGAPがあるゆえ、豊かに生活が送れる健康寿命延伸に向けた課題解決が急がれている。
当社CCCグループでは、「こころの豊さ」を書店事業(TSUTAYA/蔦屋書店)で、そして日常的に「からだを整える」体験をヨガ・ピラティス事業(TSUTAYA Conditioning)で、さらに「スイングも整える」インドアゴルフ事業も展開している。ウェルビーイングの時代に向け、これらの事業を軸にサウナブームで沸き起こった「ととのえる」概念をもっと拡張できないか?と考えていたところ、本書は、「SBNR」という概念を「Soulこころ」「Bodyからだ」「Natureしぜん」「Relationshipつながり」という新機軸で整理してくれた。
マシンピラティス専門スタジオ「TSUTAYA Conditioning」
図 SBNR層が大切にする4つの要素「S・B・N・R」
『SBNRエコノミー』より (c)Getty Images
メンタルからフィジカルまで、自分と他者の関係性で、そして世界の領域の中で、「こころ」「あたま」「からだ」の豊かさを求める新たなユーザーニーズは、現場でも日々その熱狂を感じているところだった。ちょうどその中で本書を読み、「ととのえる」ためのサウナやピラティスに留まらず、推し活から働き方まで、あらゆる昨今台頭するライフスタイルが「SBNR」だったのか!と気づかされた。
「SBNR」の観点が、新たな事業アイデアのヒントに
また、本書の「SBNR層4つのタイプ分類」で登場する「Nature Lover ネイチャー・ラバー」は盲点だった。ここから、わたしたちの旗艦店舗「代官山 蔦屋書店」のアウトドア版「TSUTAYA PARK」=「公園のSBNR化」ができたらおもしろいのでは?などなど、企画の種がどんどん湧いてくる。また、新たなカルチャーの浸透のために、過去において宗教的なイメージがあった事象—例えばヨガを「脱・宗教化」のアプローチで広めたり、サウナや推し活を「転・精神文化」のアプローチでブーム化する、といった「シン(心・信)消費」への進化の重要性も共感するところが大きかった。
図 SBNR層4つのタイプ分類
『SBNRエコノミー』より (c)Getty Images
「SBNR」を自社の事業や自身の行動とシンクロしてフォーカスし直せば、新たな事業やサービスの源泉が見えてくる。ぜひ、書店からもこの考え方を広げていきたい。

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『SBNRエコノミー「心の豊かさ」の探求から生まれる新たなマーケット』
株式会社博報堂ストラテジックプラニング局、株式会社SIGNING著/定価:2,200円
SBNR層の拡大に注目し、精神的な豊かさや幸せを求める同層の拡大の理由、そしてビジネスへの応用可能性を論じる日本初の書籍です。日本人は43%がSBNRに該当すると言われ、その価値観を理解することはマーケティングや経営にも有効です。本書では、彼らの価値観やライフスタイルを分析するとともに、マーケティング・組織デザインにSBNRの考え方を応用していく具体的な方法を提案します。