企業の広報活動の手法のひとつに、メディア向けセミナーの開催がある。記者が「もっと知りたい」「情報収集のために参加したい」と思うようなテーマ設定が重要となる。どのような工夫が記者の心を動かすのか。
※本稿は広報会議2025年6月号「取材が集まる広報のアプローチ特集」の記事を転載しています
「お口の健康を守ること、日々のオーラルケアが、将来の全身の健康につながります。事業において大切にしているこのメッセージを、どうやってお伝えすればより広まるのかと考え、メディア向けセミナーを開催することにしました」。こう話すのは、サンスターグループの広報グループ長一坂理絵氏。サンスターでは社是で「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」を掲げ、「100年mouth100年health」のコピーで企業広告を展開するなど、口の健康が全身の健康維持に欠かせないことを啓発してきた。そうした中、2023年に一坂氏が立ち上げたのが、メディア向け勉強会の「Mouth&Bodyメディアセミナー」だ。
Mouth&Bodyメディアセミナーの様子。記事執筆の参考情報となる、学びが得られるコンテンツを発信する。妊娠期のオーラルケアの回は、サンスター財団の歯科衛生士が解説。防災がテーマの回では、防災対策の専門家である国崎信江氏が登壇した。
これまで3回実施しており、第1回は妊娠期の歯周病予防やオーラルケアの重要性、第2回は防災時のオーラルケア、第3回は40代から始めるオーラルフレイル(口の機能の衰え)予防、と多様な切り口を設け、メディア向けに情報を提供してきた。参加したメディア関係者からは「学びが多く、次回も期待している」といった反響が寄せられている。
「多くのメディアの方と直接お会いして接点を持つ場として、新製品発表会がありますが、その開催時期は広報がコントロールしにくいものです。メディアセミナーであれば製品の発売がない時期でも広報主導で実施できます。お互いに顔が見える状態を定期的につくるという目的もあって、メディアセミナーを実施しています」と一坂氏は話す。
新聞媒体での記事化率は、製品発表会よりも実はメディアセミナーのほうが高く、セミナーで紹介したオーラルケアに関するノウハウが生活面で掲載されることも多いという。
テーマ設定の工夫
セミナーのテーマ設定のベースとなるのが、同社の研究結果や得意分野が活かせるかどうか、という点だ。セミナー後すぐに記事化につながらなくても、「この内容ならサンスターに聞いてみよう」と後の問い合わせにつなげたい狙いがある。
「時節」も重要なポイントだ。2023年3月1日に開催した、妊娠期のオーラルケアに焦点を当てた「女性ホルモンの変化と口腔環境の変化」の回は、毎年3月1日~8日に定められた「女性の健康週間」を意識。同年5月30日に開催した「防災の専門家から学ぶ、最新のサステナブルな防災対策誰にでも起こりうる在宅避難と災害時のオーラルケア」の回は、同年9月1日に関東大震災100年の節目があり、防災関連の報道が増えることを見据えていた。
さらに一坂氏は、「もっと知りたい」と記者の好奇心を刺激するような新しい視点や話題を、各セミナーに欠かさず入れている。具体的には、「女性の健康と口腔に関する調査」の結果を発表する、防災関連のスペシャリストに登壇してもらい第三者の意見としてオーラルケアの重要性を発信してもらう、といったことだ。ゲストスピーカーがいるセミナーの場合は、そのコメントが記事化され、セミナー後にインタビュー取材につながるケースもあったという。
また2024年に開催した「誰もがなりうるオーラルフレイル 40代から始めるオーラルフレイル予防のススメ」の回では、「40代」とタイトルに入れ意外性を打ち出した。「フレイル予防というと、シニア向けと思われがちですが、実はオーラルフレイルのチェックは40代から始めるのがいい。シニア向け媒体以外にも、幅広く関心を持ってもらう工夫をしました」(一坂氏)。
啓発と企業情報のバランス
セミナーの内容は、記者にとって記事執筆の参考になる情報かどうかを重視するため、啓発コンテンツがメインで商品情報は入りにくい。だがメディアの視聴者にとっても有益な関連情報は提示していく。例えば、長期保存できる防災用品としてデンタルリンスをセミナー会場に展示する、オーラルフレイルをチェックできる無料アプリの体験ブースを用意する、といった具合だ。社内の他部門からも、メディアセミナー開催のメリットを感じてもらいやすくするために、こうしたバランスをとるように心がけているという。
会場内にはセミナー内容に関連する商品の設置もしている。
聞き手の関心に寄り添う
「セミナーでは、『何それ?』と思えるようなフックを設け、様々な切り口を提案していますが、最終的に伝えたいのは、お口と全身の健康です」と一坂氏。聞き手の関心に合わせて情報を提示し、そこから企業のファンを増やしていく。こうした広報活動の考え方は、社員向け福利厚生施設へのメディア誘致にも表れている。
社員の健康を維持するための福利厚生施設「サンスター心身健康道場」。「健康経営」を象徴する施設としてメディアを招待している。
健康産業に従事する社員は心身ともに健康であるべきとの考えから、40年前に生まれたのが社員福利厚生施設「サンスター心身健康道場」だ。健康診断の結果、保健指導が必要と認定された社員は、平日業務の一環として道場に宿泊し講習などを受け、食事や生活習慣を見直す機会を得ている。
「当社の健康経営の考え方、『サンスターで働くとはどういうことか』をお伝えするには欠かせない施設です。興味を持った記者を招待し、実際に体験してもらっています。百聞は一見に如かずで、現地に来ていただくと関心を持ってもらいやすい。単に『サンスターの社是はこうです』と説明するよりも、『なぜこの施設が生まれたのか』からお話するほうが、より伝わると考えています」(一坂氏)。
広報会議2025年6月号
【特集】
取材が集まる広報のアプローチ
GUIDE
現代にメディアリレーションはなぜ必要?
あらためて考える、メディア露出の価値
田尻有賀里(リストグループ)
新任広報担当者が押さえておきたい
メディアリレーションのポイント【入門編】
千田絵美(フロントステージ)
リレーションづくりから協働・共創レイヤーへ
より深い関係構築は仲間意識から生まれる
井口 理(電通PRコンサルティング)
【CASE】
日本開催のPRイベントで海外での露出も多数
「お~いお茶」のグローバル戦略
伊藤園
15社共同の「ツジツマシアワセ」プロジェクト
生活者の“共感”を獲得すべくメディア発表会
味の素
「ナノイー」出荷1億台突破の節目に
工場見学会、歴代製品の展示やデモも
パナソニック くらしアプライアンス社
「オーラルケア」×「妊娠期」「防災」「フレイル予防」
多様な切り口で理解を促すメディアセミナー
サンスター
「今さら聞けない基本」「最新動向」を解説
記者の疑問に答える、Akamaiの勉強会
アカマイ・テクノロジーズ
課題や情報を共有し合い、一緒に市場をつくる
これからの記者と広報の新しい関係
TENTIAL
入社式は企業の姿勢を示すチャンス?
メディア露出を意識したプログラムも
【INTERVIEW】
メディアが取り上げたくなる情報とは?
取材先の選び方、注目テーマを探る
『TBS NEWS DIG Powered by JNN』/
『東洋経済オンライン』/『日経トレンディ』
【COLUMN】
有事に問われる記者との信頼構築
変わる緊急記者会見のあり方
大森朝日(広報・危機管理コンサルタント)
【GUIDE】
メディア露出の価値を最大化するには?
SNS連動で話題を増幅させる次世代PR
高橋 遼(トライバルメディアハウス)
メディアリレーション実態調査
