※本記事では5月1日発売、『広報会議』2025年6月号の特集企画「取材が集まる広報のアプローチ」に掲載している内容をお届けします。
食品メーカーやレシピ動画メディア運営会社など、食にかかわる15社が参画する「ツジツマシアワセ」プロジェクトは、3 月18日に「『ツジツマシアワセ』プロジェクトメディア向け発表会」を実施した。
3月18日に実施した「『ツジツマシアワセ』プロジェクトメディア向け発表会」には参画企業に加え、Well-being for Planet Earth代表理事の石川善樹氏、管理栄養士のおすぎ、俳優の速水もこみち、モデルの近藤千尋が登壇した。
PRイベント開催の理由
「ツジツマシアワセ」とは、1食で栄養バランスを完璧にするのではなく、その前や後の食事でゆるやかにツジツマをあわせればよいという日々の食事に対する新しい考え方。プロジェクトでは、楽しく簡単に栄養バランスを改善するような手法を広めるべく、発信を行っている。
複数社による共同プロジェクトの形をとった理由について、事務局メンバーである味の素の山口卓也氏は、「生活者の“食・栄養” は1社から成り立っているのではありません。当社が販売する調味料や加工食品、生鮮食品などもあれば、飲食店、レシピサイトなどもあります。多くの要素が関連する食・栄養の新しい手法を浸透させるには、業界横断で実施する必要があると考えました」と話す。
プロジェクトは2023年11月に神奈川県川崎市を中心に交通広告やウェブ広告にて発信することからスタート。2024年7月に全国展開を行い、ポータルサイトを公開して本格始動した。
広告宣伝やインフルエンサーを起用した発信を行ってきた同プロジェクトであったが、活動を進める中で広報・PRの手法が有効なのではと考えるようになったという。その理由は大きく
2つあると山口氏は話す。
「ひとつは『ツジツマシアワセ』は商品を販売するのではなく、手法・考え方の普及を目指すプロジェクトだからです。生活者の方々には元々それぞれの食に対する考え方があります。既に何かしらの考えを持っているものに対して、新しい手法や考え方を普及するには、人々の実生活に寄り添ったコミュニケーションを通して“共感” してもらうことが重要だと考えました。これは広報・PRの得意とするところだと考えています。また、2つめの理由は、メディアを通して発信することの意義があるプロジェクトだと考えているからです」。
メディアはひとつの事象を社会全体のストーリーと紐づけて可視化する役割を担うことも多く、その手法に長けている記者や番組の担当者も多い。
「ツジツマシアワセ」の考え方の重要性が現代の社会的文脈で語られることは、生活者の共感を生むことにつながると仮説を立てた。また、“食・栄養” は健康にかかわるものであることから、第三者視点で発信されることによる信頼性が重要だとも考えた。
「味の素の広報・PRとしても、第三者が語ることによる信頼性は重要だととらえており、Earned Media(パブリシティ)、Shared Media(生活者のSNSやブログ)でのコミュニケーションに注力しているところです」と味の素でPRを担当する山﨑誠也氏は話す。
このような背景から、プロジェクトでは3月に「メディア向け発表会」を実施するに至った。
「読者・視聴者の実利」を意識
PRイベントを開催するにあたり、事務局はPR会社のビルコムと連携。議論を重ねて重点媒体やプログラムの内容などを決めていった。
「発表会の記事を見た生活者に、ウェブ上で検索をかけ『ツジツマシアワセ』のサイトに訪れていただきたいと考えたため、今回は特にウェブメディアを重点媒体としました」と山﨑氏。メディアに発表会実施の案内をする際は、ライフスタイル系のメディアには「生活者の食生活に対してどのような良い点があるのか」、ビジネス系のメディアには「食にかかわる15社が共同で取り組む社会的意義」など、メディアのカテゴリに沿った切り口を提示して当日の参加を誘致した。
メディア向け発表会には参画企業の担当者のほか、プロジェクトのアンバサダーである速水もこみち、ゲストの近藤千尋も登壇。「7歳、5歳、0歳という3人の子どもを育てており、食については悩みがつきない」という近藤に対し、悩みを解決するための各社の「ツジツマシアワセ」メニューを紹介するプレゼンマッチを行った。
「発表会の内容を検討するにあたり、『ツジツマシアワセ』の考え方や手法を一方的に紹介するだけでは、生活者にとって、実践するモチベーションにはつながりません。来場するメディアが知りたいのも、『読者や視聴者の生活がどのように良くなるのか=読者・視聴者の実利となる情報』です。そのため、『ツジツマシアワセ』を実践すれば、簡単に楽しく食生活が豊かになり、健康にもつながるということを実感してもらい、共感につながる企画にしたいとビルコムさんに伝え、プログラムを検討していきました」(山口氏)。
近藤の私生活での食の悩みをヒアリングし、その悩みを解決するための提案をするという生活者が自分ごと化しやすいプログラムを用意することで、一方的な発信にならないよう工夫したという。
また、参画企業がただ登壇するだけではなく、おすすめ「ツジツマシアワセ」メニューを用意し発表したことで、各社が真剣に向き合っているプロジェクトであることも訴求した。さらに、各社のおすすめメニュー紹介により、プロジェクトのポータルサイトへの流入も狙ったという。
施策の軸に触れた露出が多数
発表会には40名以上のメディア関係者が来場。メディア掲載数は200を超えた(2025年4月11日時点)。掲載の内容に関しても、事務局側が当初想定していた以上に、プロジェクトの内容に踏み込んだ記事が多く見られたという。
「速水さんと近藤さんにも登壇していただいたので、開催前はおふたりの発言にのみフォーカスがあたってしまうのではないか?という懸念もありました。しかし、実際の掲載では速水さん、近藤さんの発言をフックに『ツジツマシアワセ』の考え方や、生活にもたらす価値について言及してくださっているメディアが多くあり、参画企業からも驚きの声がありました。『近藤さんの食に関する悩みを解決する』というプログラムにより、近藤さんの発言とプロジェクトのストーリーがつながりやすかったのではないかと考えています」と山口氏は振り返る。
今後も「ツジツマシアワセ」プロジェクトでは、共同する企業を増やして活動を盛り上げていくほか、生活者が「ツジツマシアワセ」の価値を実感できるような、体験型の施策にも挑戦したいと構想を語った。
『広報会議』2025年6月号
「取材が集まる広報のアプローチ」
〇現代にメディアリレーションはなぜ必要?
あらためて考える、メディア露出の価値
田尻有賀里(リストグループ)
〇新任広報担当者が押さえておきたい
メディアリレーションのポイント【入門編】
千田絵美(フロントステージ)
〇リレーションづくりから協働・共創レイヤーへ
より深い関係構築は仲間意識から生まれる
井口 理(電通PRコンサルティング)
〇CASE STUDY
伊藤園、味の素、パナソニック くらしアプライアンス社、サンスター、アカマイ・テクノロジーズ、TENTIAL
〇メディアが取り上げたくなる情報とは?
取材先の選び方、注目テーマを探る
『TBS NEWS DIG Powered by JNN』、『東洋経済オンライン』、『日経トレンディ』
〇有事に問われる記者との信頼構築
変わる緊急記者会見のあり方
大森朝日(広報・危機管理コンサルタント)
〇メディア露出の価値を最大化するには?
SNS連動で話題を増幅させる次世代PR
高橋 遼(トライバルメディアハウス)
〇メディアリレーション実態調査