2008年の冬。当時勤めていた会社(電通)のビルの地下にあった小さな本屋さん(今はもうない)でこの赤と青の2冊の本を新刊平積みのコーナーで見つけた僕は即購入。上の階のデスクに戻って(まだ一人に一つ机があった時代)一気読み。その日は仕事がまるで手につきませんでした。赤い方の本『みんなに好かれようとして、みんなに嫌われる。(勝つ広告のぜんぶ)』の255頁、タイトルは朝までにコピー500本。このタイトルを見ただけで脈拍が上がり手から汗が出ました。
あれはもう30年以上前。世の中はバブルがはじけ始めた頃、僕は仲畑広告制作所で仲畑さんの弟子としての日々。ふだんはニコニコ楽しいのですが、一ヶ月に一度か二度その日がやって来ます。夕方に「明日の朝までにこのコピー書いておいて」と仲畑さんから言われます。時間はもうそんなにありません。
ほか弁屋さんで唐揚げ弁当の大盛りを購入。大急ぎで食べてから書き始めます。最初はとにかく思い付いたことを片っ端から。続いて主語を変えたり語尾を変えたり過去形にしたりするのですがなかなかうまく書けません。真夜中に会社の資料室に行って、過去のコピー年鑑やADC年鑑を見ながら何かヒントを得ようとしますが、全く思い浮かびません。
眠気も襲ってきます。こんなことなら昼寝しておけばよかったと午後の自分の行動を恨みます。栄養ドリンクと缶コーヒーで何とか正気を取り戻す頃、外が明るくなってきます。まずい、まだほとんど書けていません。仲畑さんは500本くらい書いていないと鬼になります。100本以下だと見てもくれません。あ~~、もうすぐ仲畑さんが来てしまいます。
あの頃、仲畑さんからコピーの技術を習ったことは一度もありません。ただ飲んで話すなかで色んなことを教わりました。「ムリはするな、好きでもないのに難しい本を読んだり、よくわからん外国映画見ても意味ない。それより好きなことを徹底する方がいい。アレが好きならとことんやりまくるでもいいんだ」と、きっと今の時代ならアウトなことを言われてました(※ほんとに今はアウトらしく校正でアレに直しました苦笑)。
赤い本には同様な話が沢山書いてあります。青い本を全部覚えればコピーライティングの基礎は完璧。2冊読めばコピーのフィジカルとメンタルが共に鍛えられます。
……ところでこの書評のような文章、仲畑さんにも読まれるのかと思うとまた久々に脈が上がり手汗をかいています。

書籍の情報
仲畑貴志さんの名著2冊がキンドル版になりました!
『みんなに好かれようとして、みんなに嫌われる。勝つ広告のぜんぶ』(キンドル版)
定価:1980円(本体価格1800円+税)
『宣伝会議』に3年半にわたって掲載された人気連載「仲畑貴志の勝つ広告」全82話を完全収録。筆者の経験を通じて語られる本書は、広告の仕事について語りながらも、全てのビジネスに通じる心構えを力強く読者に訴えかけ、広告界にとどまらず全てのビジネスパーソンの心を揺り動かす。
『ホントのことを言うと、よく、しかられる。勝つコピーのぜんぶ 』(キンドル版)
定価:1980円(本体価格1800円+税)
数十年にわたって時代を象徴するコピーを生み出してきたコピーライター・仲畑貴志の全仕事集。これまで手掛けたコピーの中から1,412本を収録した前著『コピーのぜんぶ』の改訂増補版として、更に6年分の新コピーを100本以上追加している。