未来を見据え半歩先を歩む人々の考え方やサステナブルな取り組みを掘り下げ、読者とともに考えていくオウンドメディアを展開する大和ハウス工業。その狙いは。
※本稿は『広報会議』2025年7月号の特集「オウンドメディア徹底活用」を転載しています。
大和ハウス工業のコーポレートサイトには「サステナビリティ」ページに多様な情報が並ぶ。他のコンテンツと一線を画すのが、ウェブマガジン形式の「Sustainable Journey(サステナブルジャーニー)」。未来を見据えて半歩先を歩む人やサステナブルなプロジェクトを紹介するウェブメディアだ。読者層は幅広く、その中には中高生も含まれる。コンテンツは、特集と連載の2部構成としている。
未来社会を紐解き、関心引く
特集では、旬な話題や少し先の未来にキーワードとなり得る話題を先取りする。例えば「改めて考える。多様性、なぜ大事なの?」特集は、米企業におけるDEI施策廃止の流れを受け、揺れ動く多様性について改めて考える内容だ。「『働き方』のウェルビーイングを考える」特集では、大学教授が「年齢と幸福度の関係」についての研究結果を解説し、社会全体の幸福度を上げるための提言を行っている。一貫しているのは、特集記事の主語が「大和ハウス工業」ではなく、「生活者」視点であること。これからの社会を読み解く内容で、読者の関心を引き寄せている。
特集:「『働き方』のウェルビーイングを考える」。ウェルビーイングな状態で働くために、個人・組織でできることを探った。「ウェルビーイング」は、読者から人気の高いテーマのひとつ。各特集では大学教授のインタビューなど、アカデミックで説得力のある切り口の記事も入れており、社内の朝礼で話題になることも。
連載は、特集と異なる役割を担う。サステナビリティ領域の先駆者の“頭の中”を覗く連載「未来の旅人」や、起業家や有識者が未来予想図を語る連載「みんなの未来マップ」は、読者の思考転換や気づきを促し、未来へのワクワク感を醸成する。
連載:未来の旅人「アメリカでの成功が、日本の地方創生につながる。“海藻”を世界に発信する三木アリッサの挑戦」。ワクワクするような事業を展開するサステナビリティ領域のリーダーにインタビューする連載「未来の旅人」。和菓子ブランドが話題となり、海藻テックへとビジネスを広げる三木アリッサ氏の記事はPV数を伸ばした。
「企業」主語の連載もある。「5分でわかる!サステナブルニュース」は、大和ハウスグループが取り組むプロジェクトをコンパクトに伝える。大阪・関西万博開幕のタイミングでは、同グループが設計や企画に携わった「クラゲ館」についての記事を公開した。そのほか、なぜ「ミニ胡蝶蘭」栽培事業を行っているのかを紐解く記事など、意外性のある事業の紹介も載る。特集と連載ともに、記事の末尾では、内容に関連した大和ハウスグループの取り組みを簡潔に紹介し、詳細が読めるコンテンツへのリンクを張っている。
すべての記事の末尾で、記事の内容と関連する大和ハウスグループの取り組みについて簡潔に紹介し、詳細が分かるコーポレートサイトのページへのリンクを張っている。「大和ハウスグループも『生きる歓びを、分かち合える世界』の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます」という言葉も添え、企業ブランディングにつなげている。
「企業を主語にしたメディアを好んで見に来る人はいないという前提に立ち、常に生活者視点でメディアをつくっています。トレンドを踏まえた記事にしつつ、読後に『大和ハウスグループはこんなことに取り組んでいるんだ』と気づいてもらう。そうした中長期のリレーションを図り、最終的には企業のファンになってもらうことを目指しています」。「サステナブルジャーニー」の運営を担うコーポレートブランド部の青木美奈氏はこう話す。
生活者が住宅購入を検討する時、求職者が就職先を考える時、企業がビジネスの共創相手を探す時─。多様なステークホルダーが同社を想起しやすくなるよう、中長期でリレーションを構築する場として、このオウンドメディアを位置づけている。
読者ターゲットは幅広い。大和ハウスグループは、ハウスメーカーのイメージが強いが、実は戸建住宅事業の売り上げは全体の2割で、商業施設の建設・運営や都市開発、環境エネルギーなど多角的に事業を展開する。「サステナブルジャーニー」の読者ターゲットも、一般消費者だけでなく、企業や行政、そして求職者や社員、未来のステークホルダーとなり得る若年層も含め全方位だ。「記事のテーマや取材先を選ぶ際に大切にしているのは、社員の目線ではなく、一人の生活者として『続きが読みたくなるか』という感覚です。その直感を信じてコンテンツづくりに向き合っています」と青木氏は話す。
パーパスとの連携
大和ハウス工業が、サステナビリティにフォーカスを当て自社メディアを運営し始めたのは、今から10年以上前のこと。当時は紙媒体で「環境」をテーマにした機関誌を発行していたが、その後、紙からウェブサイトへ移行し、扱うテーマも環境だけでなくサステナビリティへと領域を拡大。2024年のリニューアルで、現在公開している「サステナブルジャーニー」の形に至った。
リニューアルの際、メディアのコンセプトを再定義するにあたっては、2021年に策定した大和ハウスグループのパーパス「生きる歓びを、未来の景色に。」との連携もなされている。このパーパスに示された「生きる歓びを分かち合える世界の実現に向けて、再生と循環の社会インフラと生活文化を創造する。」には、「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」という創業者の精神も息づいている。
「『生きる歓びを分かち合える世界』は当社だけで実現できるものではありません。関わるステークホルダーは多岐にわたり、それぞれに思い描く未来の景色があります。そこで『サステナブルジャーニー』では、自社目線にとどまらず、第三者目線での情報を積極的に発信し、読者の皆さんとともに学び、考えながら、より良い未来社会を築いていきたいと考えています」とコーポレートブランド部の西村淳氏。リニューアル後の「サステナブルジャーニー」のコンセプトは「未来の景色を、ともに」としている。
効果測定、制作体制は?
「サステナブルジャーニー」を含むコーポレートサイト全体をコーポレートブランド部の西村氏と青木氏が管轄しており、月2回の定例会議でアクセスログを分析。サイト内の回遊率やSEOの状況などを確認する。年1回の企業イメージ調査では、「コーポレートサイトを見たことで、大和ハウスグループの取り組みについて新たに知ることができたか」「印象がどのように変わったか」といった項目も調査している。
「サステナブルジャーニー」への流入経路は、検索の比重も大きく、取材対象者の人名が検索されているほか、「WELL認証」「サステナブル」「エシカル」といったキーワードに関連する記事は、リニューアル前の記事の蓄積もあり、検索で上位表示されやすく、アクセス数が伸びている。加えて、LINEヤフーが運営するメディア「サストモ」に記事を転載しており、そこからの流入も得られている。記事公開時はイントラネットで社内に通知し、社員からのフィードバックも、効果測定の指標のひとつとなっている。「社員にとってオウンドメディアでの記事発信は、日々取り組んでいる事業について知ってもらえる貴重な機会。モチベーション向上にもつながります」と青木氏。
1カ月に3~5本のペース更新しており、コンテンツ制作は外部のメンバーと共に進めている。
外部との共創を進める上では、パートナー選定も重要なステップとなる。現在、編集・ディレクションを行うメンバーとは、メディアのコンセプトや、トーン&マナー、コンテンツのすみ分け、どのようにメディアを育てていくかなどについて、ディスカッションを重ね、3カ月間でリニューアルを行った。「コンテンツを次々と生み出していくには、スピード感や機動力も重要です。メンバーとは、メディアで大事にしたい価値観を共有できているので、チェックバックも少なく、高速でPDCAを回すことができています」と青木氏は振り返る。
「コンテンツの年間計画を立てるにあたっては、社会の出来事をまとめた年間カレンダーと、社内の出来事をまとめたカレンダーを用意して、テーマや取材先のバランスを調整しています。社内の情報は、プレスリリースやサステナビリティ部門が出すレポートをチェックしているほか、他部門に出向いて情報を集めています。社員を軸にした別のオウンドメディアも担当しているので、そこでヒアリングしたことがきっかけで、記事につながっていくこともあります」(青木氏)。
ファン拡大に向けて
今後の展開として、SNSからの流入を増やすべく、Instagramでのコンテンツの発信や、読者が集えるオフラインでのイベントの開催も構想しているという。
「美味しいものや旅先の様子を友達にシェアする感覚で、サステナブルに関する記事もシェアしてもらえるようにSNSを活用していきたいと考えています。記事には私たちが大事にしている価値観を映し出していますが、それをオンラインだけでなく、オフラインでも共有する場をつくっていくことができれば、コミュニケーションに厚みが生まれ、さらなるファンづくりにつながるのではと考えています」(青木氏)。

広報会議2025年7月号
「オウンドメディア徹底活用&コーポレートサイトリニューアル」特集
CONTENTS
【CASE】
若年層の約半数がバイクメーカーを知らない時代
ヤマハ発動機の「ブランドを語らない」メディア
サステナブルな考え、半歩先の未来に触れる
大和ハウス工業の「ともに考える」メディア
メインターゲットは約15万人の従業員とその家族
セブン&アイHDのオープングループ報
ファッション事業だけではない
AOKIグループの3事業の価値を社内外に届ける
企業が抱えていた4つの課題解決に向け
サッポログループが公式noteを始動
動画制作には地元インフルエンサーを起用
マッピングを駆使した四国電力「愛でたい四国」
Tellusのオウンドメディア「宙畑」
宇宙ビジネスの発信、長続きの秘訣は
70ページ超で目指す、ミスマッチ0採用
アイグッズ、新卒採用サイトリニューアル
グローバル成長を加速する企業サイト改修
「知る人ぞ知るNOK」からの脱却へ
サイト内コンテンツを拡充したバンダイ
信頼できる情報発信でコラボ案件も増加
ブランドムービー制作に2年半
ノンバーバルで物語伝える印傳屋のサイト
【GUIDE】
「コーポレートサイト」と「オウンドメディア」
成果を出すために知っておきたいポイント
コーポレートサイトは「企業の顔」
運営における炎上リスクと対応策