左から、編集家の松永光弘さん、ヘラルボニー代表の松田崇弥さん。
障害のある人のアートでIP事業を展開
松永:この「広告的発想ってこう使うんだ!会議」は、広告の考え方って実はもっといろんなところで生かせるんじゃないか、広告の発想には本当はもっとすごい可能性があるんじゃないか、ということを、さまざまなゲストとの対話を通じて探っていく企画イベントです。3回めとなる今回はゲストとして、いまや世界が注目しているクリエイティブカンパニー、ヘラルボニーの代表取締役社長の松田崇弥さんにお越しいただいております。松田さん、では、最初にヘラルボニーのご紹介をお願いできますか?
松田:こんにちは。ヘラルボニーの松田崇弥と申します。今日のテーマに合わせて少し自己紹介をさせていただくと、私は東北芸術工科大学の学生だった時に、当時教鞭をとっておられた放送作家の小山薫堂さんのゼミに所属していたんです。で、ありがたいことに、そのまま薫堂さんの会社であるオレンジ・アンド・パートナーズに入れていただいて、5年ほどプランナーとして働きました。在籍中は本当にいろんな経験をさせてもらいました。「くまモン」のIP事業を担当していた時期もありました。そういうなかでヒントを得たり、いろいろと思うところがあったりもして、福祉をテーマに、7年前にヘラルボニーを起業しました。ですから、広告出身と言うとちょっと違うかもしれませんが、そんな背景も含めて、今日は皆さんと対話していけたらと思います。
松永:ありがとうございます。ヘラルボニーは、ひとことで言うと何の会社ということになるんですか?
松田:いつも紹介でお話しさせていただいているのは「異彩を放つ作家とともに新しい文化を作るクリエイティブカンパニー」ですね。障害があるからこそできることを様々な形で展開し、障害のイメージを変えていくことに挑戦しています。従来の「障害者を支援する」かたちの活動も、もちろん重要ですが、できることなら、私たちは障害というものの捉え方やイメージを逆転させるところまでもっていきたい。障害のある人たちを助けるんじゃなくて、障害のある人たちが助けてくれるんだ、力を貸してくれるんだ、と示せたら面白いじゃないか。そう考えてこのビジネスに取り組んでいます。
松永:具体的には、どんなビジネスモデルなんですか?
松田:シンプルに言うと、IP事業です。障害のある人たちが生み出したアート作品2000点以上の著作権管理を行い、それを使いたい企業やさまざまな団体と、作家の間に入ることで、適切なライセンスフィーが作家に還元され続ける仕組みをつくって運用しています。
これまででいうと、東京2020パラリンピックの閉会式のプロジェクションマッピングや東海道新幹線の東京駅構内のアート装飾、ホテル「ハイアットセントリック銀座東京」のスイートルームのデザインなどでも使っていただいていますね。他にも日本航空とは業務提携して、ビジネスクラスのアメニティやファーストクラスのアメニティを提供したりもしています。
松田崇弥さん。手に持っているのは、大阪・関西万博を記念したペプシとのコラボ商品「ペプシ ZERO PEACH」。
松永:企業以外の一般のお客さん向けの事業には取り組んでいないのですか?
松田:BtoC事業も手がけています。銀座にビルを借りて、今年3月には常設店舗「HERALBONY LABORATORY GINZA」をオープンしました。ここでは自社ブランドのファッションアイテムなどを扱っていて、ギャラリーも併設しています。ただ、どちらも「障害がある人のアートです」と声高には示していません。「障害のある人たちだから」というよりは、プロダクトや作品を見て、純粋にかっこいい、素敵だからと購入してもらいたいんです。みなさんが過ごしている日常の、ごく普通の景色の中に入り込んでいくことを大切にしています。
契約作家は、国内だけでなく世界中にもどんどん広がっていまして、世界各国から作家を発掘するアワードも開催しています。
銀座に3月にオープンした常設店舗「HERALBONY LABORATORY GINZA」。
世界中から異彩を放つ作家を発掘するための国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」。