前回のコラムでは、20年がかりでプロジェクトが進行している、ポートランドの環状型遊歩道「グリーンループ」を取り上げました。
6マイル(約10キロ)の環状型の歩行者のための(と自転車の)専用道路をつくるプロジェクトです。ポートランドの主要なランドマークを通り、ポートランドの中心を流れる川の東西をぐるっと囲むように設計されています。
この川をぐるっと囲んでグリーンループが設計されている。
このグリーンループが面白い点は、いままちづくりを取り巻く社会課題に対して、ポートランドとしての一つの解を提示している点ではないかと思います。世界でも近しい取り組みが進んでおり「リニアパーク」などと呼ばれている今、その可能性を探ってみたいと思います。
社会課題とグリーンループの関係性
「グリーンループ」のオフィシャルサイトでも説明されているのがエクイティ(公平性)。このループの工事やこのループの運営に関係する事業者を、中小企業、中でもMWESB(Minority, Women Owned, Emerging Small Business)と BIPOC(Black, Indigenous, and People of Color)に属するビジネスオーナーにビジネスチャンスを提供したいとしています。
この方針は、昨年リニューアルし、このコラムでも紹介したポートランド国際空港のターミナルとも共通するものであります。
2024年にリニューアルした、ポートランド国際空港。
そして、まちの人たちのウェルビーイング、健康の向上。車で目的地を行き来するだけでは得られない、人との繋がりが生まれたり、新しい趣味や何かに出会えたり、シンプルに歩くという運動機会が増えたり、そんな効果が期待できそうです。また、屋外に出て人の新しい流れができるという点では、まち全体の経済活性化の効果もありそうです。
そして気候変動。車に乗る機会が減ることによる、カーボン排出量の減少は、実際にコロナのパンデミック時に外出と経済活動が減った時に証明されています(1990年比で25%減少!)。このグリーンループが活用されることで、バイクレーンと相まって、車に乗る機会が少しでも減れば、それは中長期的に、カーボン排出量の減少へとつながると考えられます。
グリーンループは、エクイティ、経済の活性化。そして、ウェルビーイングと健康の向上。さらには気候変動対策。そんな複数の社会課題の解消のための施策と言えるかもしれません。
世界の「グリーンループ」事例
ついでと言ってはなんですが、世界に同じような事例があるのかも調べてみたので紹介します。ちなみに「グリーンループ」というのは、ポートランドの独自の名前で、似たようなものとして、運河や川、鉄道の線路などに沿って帯状に走る、リニアパークがあります。
古くはパリにあるプロムナード・プランテという配線を活用した緑地散歩道、また有名なところでは、ニューヨークのHigh Lineは廃線となった高架鉄道を活用したリニアパークなどがあります。
日本では、下北線路街が当てはまります。地下化した小田急東北沢駅から世田谷代田駅の線路跡地を活用し、緑地化し、新しい遊歩道として生まれ変わっています。まさにリニアパークといえ、新たな人の流れをつくり出した成功事例のように思います。
ポートランドの「グリーンループ」のユニークさは、オリジナルの名称、そして、環状にしたことにあるように思います。どこからでも入れる、そして一周することで街全体を俯瞰できる。ループして巡るという発想は面白いと思うのです。
撮影した時はイベントが行われていますが、緑で覆われた遊歩道が下北線路街にはあります。
ループが設計できそうな場所を探してみる
グリーンループは、人々を屋外へと連れ出し、新たなまちと人との繋がりを生むきっかけになるのではないでしょうか。日本でも車社会となりがちな、地方都市や、分断が感じられるまちにおいて、名所や交流できそうなスポットを繋ぎながら、ループをつくれそうな場所を探してみるのは楽しそうなアクティビティやイベントになりそうです。
歩くという行為が日常の日本ではありますが、移動手段としての「歩く」に「人と繋がる」「まちと繋がる」を加えてみませんか。
