「学びケーション」への進化―社内コミュニケーションのいまと広報の役割

チームがうまく機能しない、共通認識が持てない─社内コミュニケーションの悩みは、今や多くの広報担当者にとって共通課題だ。この課題の打開策となりうる「共創」という視点について、多くの企業の組織課題を解決してきた筆者が解説する。

 

※本記事では7月1日発売、『広報会議』2025年8月号 の特集企画「社内コミュニケーションー従業員の主体性を引き出し組織の力を高める」に掲載している記事の一部をお届けします。

avatar

沢渡あまね氏

あまねキャリア
代表取締役CEO

日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。

社内コミュニケーションに対する組織の関心が高まっています。

2024年11月にアサヒビールとHR総研が実施した調査によると、大企業(従業員1001名以上)の76%、中堅企業(301~1000名)の89%、中小企業(300名以下)の71%が社内コミュニケーションに課題を感じていると回答。当社あまねキャリアも、社内コミュニケーションに関する相談を企業の人事部門、事業部門の責任者、組織開発担当者などから頻繁に受けています。
なぜいま社内コミュニケーションが重要視されているのか。その背景に4つの多様化があります。

①人材の多様化
人材の流動化が全国各地で進んできています。転職も復職も当たり前。当社の顧客でも最近になって中途採用を始めた企業や、遠方の他都市に居住する人をフルリモートワークかつ副業で採用し始めた企業、多拠点居住をして東京と地方都市などを行き来しているプロフェッショナル人材に顧問やアドバイザーとして関わってもらう地方都市の企業が見られ始めています。

②働き方の多様化
働き方の多様化も進んでいます。リモートワークやハイブリッドワーク、副業や兼業を解禁する企業もいまや珍しくありません。時短勤務、週休3日勤務、週3日勤務など週5日×フルタイムでの参画を前提としない働き方を取り入れる企業や個人も増えてきました。働く人のライフステージも多様化しています。育児しながら、介護しながら、兼業しながら、通学しながら、地域の活動をしながらなど「ながら勤務」を許容していかなければ、少子高齢化による労働力不足が深刻さを増す時代において、企業組織運営どころか社会運営そのものが成り立たないでしょう。
「一社専業ではない」「ひとつの勤務先にフルコミットしない」、いわば(個人の)社会への関わり方が多様化していると言ってもよいでしょう。

③世代の多様化
職場のジェネレーションギャップも見逃せません。定年の年齢の引き上げなどに伴い、10代・20代の新卒の社員と60歳以上のシニアスタッフでチームを組む景色も当たり前になりました。ベテランを中途採用し、組織の世代構成がガラリと変わるケースもあります。そうなると世代間のギャップが問題に。ベテランと中堅と若手の間での意見の食い違いや、主導権の奪い合いが起こり、それは特定の世代のエンゲージメント低下をもたらします。50代以上のベテラン層または新卒入社したての20代前半の社員のエンゲージメントは高いが40代・30代のエンゲージメントが低い。あるいは若手を優遇する風潮が裏目に出て、20代のエンゲージメントは高いが、30代以降のエンゲージメントが低下するケースも散見されます。このような世代間における組織や仕事に対する熱量の差も、経営陣や人事部門の頭を悩ませます。

④職種の多様化
職種も多様化してきています。デザイナー、マーケター、データサイエンティスト、エバンジェリストなど、これまでその会社や組織においてなかった職種の人たちを採用または育成し、従来の職種の人たちとチームを組んで成果を出すことを狙う企業も多いです。

このような多様化が進むと、良くも悪くも個人の組織に対する「気が散りやすい」状態が生まれます。常にその会社やその仕事、ひいては仕事だけを気にしていれば良い訳ではない。プライベートも優先したい。人生100年時代、「会社のために働く」から「自分の人生を豊かにする手段としての仕事」ととらえる人も増えています。だからといって、半強制的に「社員の意識がほかに向きにくい状態」「気が散りにくい状態」を創ろうと、職種や世代の同質性を高めたり週5日オフィス出社を義務づけたりなどとするのは、短期的な一体感や生産性を高めるには効果があるかもしれませんが、エンゲージメントには逆効果に働きかねないでしょう。

また、上記のような社会環境の変化や多様化を鑑みると必ずしも現実的かつ長期的な最適解とは言えません。

多様化が進む時代において、これまでの同質性や均一性を前提としたコミュニケーションだけではうまくいかない。企業組織の社内コミュニケーションに対する問題意識の高まりは、それを如実に反映していると言えるでしょう。

「共創」スタイルへの進化

近年、「共創」をビジョンや方針に掲げる企業や部署が増えてきました。企業組織に限りません。地方自治体などの行政機関も、続々と共創を謳い始めています。

東京都府中市は「協働・共創の窓口」を開設し、民間企業や市民団体と行政機関などの力を集結した課題解決に取り組んでいます。静岡県磐田市の草地博昭さんは「『共創』のまちづくり推進」を掲げ、今年二期目の市長に当選。共創による地域づくりを加速しています。

共創による課題解決や価値創造、ひいてはイノベーション̶、これらはこれからの時代、いかなる組織も個人にも欠かせない所作でしょう。少子高齢化による労働力不足、劇的な環境変化、技術革新が進む時代。組織を越え、業界を越え、地域を越え、他者と共創して問題や課題をクリアする。いままでにない新たな価値を生み出す。それは私たち一人ひとりがより良く生きるための生存戦略と言っても過言ではありません。

一方で「共創」を掲げているにも関わらず「サイロ化」「タコツボ化」していて社外はおろか社内の他チームとも協力関係を築けなかったり、管理職と担当者との間に壁をつくったり、相手を一方的に下請け扱い・弱い者扱いして不快にさせる(そして遠ざけるか無力化する)人たちも少なくありません。

それもそのはず。同質性の高い環境下で成果を出してきた人たちの多くは、共創の呼吸に慣れていないからです。とはいえ、いきなり社外の人たちと共創してイノベーションを興しなさいではハードルが高い。私たちはまずは半径5m以内から、すなわち社内(チーム間、部門間、事業所間、職位間など)から小さく共創慣れしていく必要があります。

「学びケーション」へ

まずは社内の共創の強化を目指しましょう。とはいえ飲み会やレクリエーション、あるいは1on1ミーティングを乱発すれば良いかというとそういうものでもありません。多様化が進む時代において、業務時間外の課外活動やウェットなコミュニケーションへの過度な依存は、逆効果をもたらす場合も多々あります。分かり合えそうにない相手と、1on1を強制されてもお互い苦痛でしかないでしょう(そのような形骸化した1on1は時間の無駄でしかないので、とっととやめるべきです)。

しかし、なにかしら共通のテーマや「ネタ」がないと社内であっても異なる立場、異なる働き方、異なる環境で育ってきた人たちとのコミュニケーションを促進しにくいのも分かります。

そこで、最近注目されているのが「学び」を軸にした社内コミュニケーション活性です。当社も本社を置く、静岡県浜松市の企業での事例を2つ紹介します。

NOKIOO(ノキオ)は、静岡県浜松市に本社をおく人材開発サービスを提供するベンチャー企業。中途採用かつ、兵庫県、福岡県など他県からフルリモートワークで参画する社員も多い会社です。NOKIOOは隔週月曜日に「edge NOKIOO(エッジ ノキオ)」という社内読書会・対話会を行っています。

写真 学びによる社内交流「edge NOKIOO」の様子(写真提供:NOKIOO)。

学びによる社内交流「edge NOKIOO」の様子(写真提供:NOKIOO)。

社員が関心のあるテーマ、本の内容などについてプレゼンテーションして参加者同士で対話と議論をする場で、毎回どのテーマを取り上げるかは、投票によって決められます。かつては本社の会議室で対面で行われていましたが、地域外の社員が増えたこともありいまはオンラインで行われています。

edge NOKIOOは、居住地域も仕事の役割や内容も異なるメンバー同士のつながりの創出と維持はもちろん、お互いの興味関心や背景を知る良いきっかけにもなっています。

また、管理職を対象にした読書会を実施している企業もあります。

鳥善は創業150年以上の老舗企業で、ウェディングやレストラン事業を軸に地方創生にも取り組んでいる会社です。6代目の代表、伊達善隆さんは「Mgrレベルアッププログラム」を社内展開。8カ月続く輪読会プログラムで、これは1カ月に2冊の課題図書(計16冊)をマネージャーと読み合い、組織の課題を話し合ったり、自身に足りない行動や能力を振り返ったりする試みです。

写真 「Mgrレベルアッププログラム」の様子(写真提供:鳥善)。

「Mgrレベルアッププログラム」の様子(写真提供:鳥善)。

この取り組みを開始して3カ月。伊達さんは社内の変化を以下のように語ります。

●課題図書を通じ、社内の共通言語・共通フレームワークが一気に形成された
●学ぶ楽しさ、学んで実践することで得られる手応えを感じているようで、管理職のモチベーションがあがっている

その影響は、管理職にとどまりません。入社5年目のスタッフが、このプログラムに興味を持ち自ら手を挙げて参加するようになりました。

また、管理職陣が学びを行動に移す際、後輩に書籍を渡して輪読を促すなど相手との「景色合わせ」がしやすくなったそうです。
「学び」、とりわけ本は、職位や立場の異なる人、社歴や経歴の異なる人、世代の違う人などと短期間で「同じ釡の飯を食う」体験を創出し、コミュニケーションを促進するのに効果的です。さらに、異なる担当者間の部署間の共創による課題解決をも後押しします。社内読書会がきっかけでお互いの考え方や背景を知り、他部署の人とあいさつを交わすようになった、仕事に何らか関係する話をするようになり、部門間の相談や協力が生まれるようになった。そのような変化を筆者も見ています。

――本記事の続きは7月1日発売の『広報会議』2025年8月号 に掲載しています。

advertimes_endmark

『広報会議』2025年8月号
「社内コミュニケーション
従業員の主体性を引き出し組織の力を高める」

【GUIDE】
社員と企業のよい関係構築と持続成長を導く
社内コミュニケーションのいまと広報の役割
沢渡あまね(あまねキャリア)
 
【CASE】
オカムラ、DHLジャパン、富士通、太陽ホールディングス、kubell、東レ、ビジョン、村田製作所、三菱電機、ジンズホールディングス、サントリーホールディングス
 
【GUIDE】
「コスト」から「投資」へと変化するユニフォーム
企業ブランドの一環に
三島菜々子(オンワードコーポレートデザイン)
 
企業にポジティブな変化を起こす
社内イベントは“Creative Switch”
河野一樹(JTBコミュニケーションデザイン)
 
ビジョン浸透とエンゲージメント向上に効く
「社内コミュニティ」
黒田悠介(コミューン)


この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ