湘南ベルマーレフットサルクラブは小田原市を中心に神奈川県西部を活動地域とし、フットサルの国内リーグである「Fリーグ」(日本フットサルリーグ)に加盟しているクラブです。
これまでのコラムでは、クラブが掲げる「Chance & Empowerment」という言葉に込めた理念と、ゼブラ企業としての実践例についてお伝えしてきました。
社会と競技、支援と応援、企業と地域。異なる価値観や利害が交わる場で、どのように“共創”を形にするか。これは、スポーツクラブに限らず、あらゆる組織や地域が直面している“問い”だと思います。
クラウドファンディングなども企画する中で、今回は「応援」「支援」の先にどんな参加設計や共有体験が必要なのかを考えていきます。
異なる価値観を交差させる設計思想
私たちは今シーズン、この問いをさらに一歩深めるために、「合流」という言葉をテーマに掲げました。これはスローガンではなく、分断を越えて価値を共創するための“設計思想”です。
「合流」とは、異なる立場やスピード、思想を持つ人々が、ある一点で交差すること。
ただ人を増やすのではなく、「関係性の重なりによって価値が変化する仕組み」をつくることが目的です。
支援の“横の広がり”と“深さ”の違い
クラブが長年取り組んできた社会課題のプロジェクトは、すでに40件を超えました。関わってくださる企業・団体も130社を超え、ファンやサポーターも含めた支援の広がりは着実に生まれています。
しかし、数を増やすことと、重なりを深めることは別の話です。関係性が“並走”しているだけでは、本当の意味での共創は生まれません。むしろ、関わる人が増えることで自然とレイヤーができ、それぞれの関心ごとに違いがあったり、時間軸や熱の入れ方も異なっていたりします。また、使用する言語の違いによって一体感が生まれにくくなるという課題も顕在化してきました。
この感覚は、地域でも企業組織でも、少なからず存在しているのではないでしょうか。
CSR・社会貢献・共創・パートナーシップ——言葉は似ていても、そこに「本当の交差」が起きているかは、別の話です。だからこそ、私たちは「合流」という言葉に、構造への問いを込めました。
目指しているのは、プロジェクト単体ではなく、価値が交差し、循環していく“場”そのものです。
ユニフォームに共感が宿るという新しいモデル
そして、その設計思想を具体的に可視化したのが、今シーズン展開しているクラウドファンディングです。
この取り組みは、単なる資金調達の手段ではありません。支援者を「当事者」に変える仕掛けとして設計された、“共創のUX”なのです。
参加してくださった方々の共通言語が、ユニフォームの胸に並ぶ――通常であればこの胸部分には企業のロゴが掲出され、1社のスポンサーが資金を担う構造が一般的です。しかし、私たちはその箇所に「Chance & Empowerment」というクラブのミッションを掲げ、そこに共感してくださった個人や企業、さまざまな立場の方々の共感の想いを連ねるという形を取りました。
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湘南ベルマーレフットサルクラブが挑む、新たな一歩。
あなたの想いが、クラブの"胸"に刻まれる。
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つまり、“1社による支援”ではなく、“共感者の群れ”によってクラブの基盤が構成されるという新しいモデルを提示しています。それは、誰かを支える応援ではなく、「この物語の一部は自分である」という感覚を生み出す取り組みです。
感動を“観客席”から届けるのではなく、“ピッチの中心”に自分の意志が刻まれる。
そうした身体感覚を持った支援者は、もう受け手ではなく、合流者であり、共創者です。
共感から所有へ——行動が関係性を変える
私たちはこの仕組みを、「共感 → 参加 → 所有」のプロセスとして設計しました。誰かを応援したいという気持ちは、最初は外側から始まります。でも、参加によって物理的・心理的に接点を持ち、自分ごととして関与したとき、そこに“所有感”が生まれます。
その瞬間、組織と人との関係性は、支援と受援という枠を超えて、対等な協働へと変化するのです。
共創には、覚悟と誇りが必要だ
企業のブランドファンや、地域コミュニティにおける関係人口づくりとも似ています。重要なのは「共感」だけでなく、その先の“参加設計”と“共有体験”です。ただし、共創は「手伝ってもらう」ことではありません。互いに変わること、互いに責任を持つことです。
だからこそ、参加には覚悟が要ります。その覚悟を、楽しさや誇りに変換するのが、クラブの役割だと私たちは考えています。
「未完成への参加」こそが共創の本質
私たちの掲げる「合流」は、まだ完成された構造ではありません。むしろ、未完成であるからこそ、そのプロセスに加わる意味があるのだと思います。
誰かが設計した正解に乗るのではなく、試行錯誤の最中に自分が関わり、共にかたちをつくっていくこと——―その“未完成への参加”こそに、真の共創の価値があるのではないでしょうか。
次回は、この「合流」の思想が、どんな場面で具体的に現れ始めているのか。クラブと地域と企業が交差した“小さな出来事”をいくつか取り上げながら、そのプロセスを掘り下げてみたいと思います。
