3月2日から、東京・表参道ギャラリー5610にて「長沢岳夫展What is Copywriting?」が始まる。
長沢岳夫氏は、1943年東京生まれ。1967年慶應義塾大学経済学部卒業後、デザインオフィス・ナーク入社。1972年にアートディレクター 長谷川好男氏とあっぷるはうす設立。1976年に長沢事務所設立。日本の広告デザインが燦然と輝いていた1970~80年代に、国鉄、パルコ、サントリーなどの広告を手がけたコピーライターだ。「ジャパニーズ・クール」という言い方で、日本の広告が国際的な注目を浴びていた時代に、その活動の中心に位置し、広告界をリードしてきた人である。
初期の石岡瑛子とのコンビによるPARCOのポスターを始めとし、80年代から2010年代に至るまでに生み出されてきたコピーライティングの数々の名作が、『長沢岳夫作品集 What is Copywriting』(アートディレクション:葛西薫/カバーデザイン:井上嗣也/リトルモア出版)にまとめられ、このたび出版記念展が開催されることとなった。
本展では、長沢氏の仕事を俯瞰することを通して、この創造性に満ちた時代を回顧し、その成果を凝縮して、21世紀のこの時代に改めて問いかけることを趣旨としている。会場では、浅葉克己、石岡瑛子、葛西薫、サイトウマコト、高杉治朗、戸田正寿、中島祥文、長谷川好男といったアートディレクター・フィルムディレクターとの仕事を展示・上映する。
本展にあたり、写真家 十文字美信氏は「長沢岳夫のコピーは頭より胸を使い、論理より感覚、総体よりエッジ、抽象より生々しさ、理想より日常、説明より詩、否定より肯定、時間は未来から過去へ流れ、言葉で現像し記憶の場面が浮かびあがる。広告から出て行って、必ず広告に戻って来るコピーだよね」と言葉を寄せている。
会場を訪れた人は、言葉とヴィジュアルの丁々発止の世界を堪能できるだろう。会期は、3月7日まで。
※本展に寄せられた言葉より
ずっと今を生きている言葉。
国井美果
目の前の『長沢岳夫作品集 What is Copywriting?』の分厚い見本誌をじっと見つめる。カバーデザインは井上嗣也さん、アートディレクションは葛西薫さん(豪華)。帯には錚々たるアートディレクターの名が並ぶ。長沢岳夫さんは、コピーライターとして仰ぎ見るような大先輩であり、謎めいた存在でもある。お会いしたことはないけれど、私の中の深い場所には長沢さんのつくったイメージが、ずっとある。
本書にはPARCO、サントリー、国鉄など1970年代以降に長沢さんが手がけてきた数々の仕事が収録されている。これがとても貴重だ。なかなかお目にかかれない名作のボディコピーまでじっくり読める。そしてそれぞれのアートディレクターとの思い出を交えながら、コピーが生まれた背景がつぶさに記されている。この長沢さんの手記がまた、最高にワクワク・ヒリヒリする素晴らしい読み物となっている。読みながらふと想像してみる、もし石岡瑛子(敬称略)から写真を渡され「さあ、だれも書かないことを書いて!」と言われたら?なんの説明もなく…(汗)。
その中には私がいつか子どもの頃に見た、あのサントリーローヤルの広告もある。火を吹き、踊る、砂漠の旅芸人たち。異国の音色。「ランボオ あんな男、ちょっといない」という詩的なコピーの色っぽさ。衝撃だった。まるで白昼夢。なんだかよくわからないのに魅了された。あのイメージは、以来、私の深層心理にびっしりと貼りついている。だから後にコピーライターになったとか、そういう直接的なことよりもっともっと深いところ…自分が何を美しいと思い何を嫌だと思うかを左右する領域に、あの広告がある。そして自分はあのイメージに撃ち抜かれた、数多の人間のひとりに過ぎない。広告のイメージというものが、人の生きるに関わることもできるのだと身をもって知った最初の体験だったと思う。
しかしそういうコピーが、容易に書けるわけはない。
私たちは知る。苦しみ抜きながら長沢さんが目指し、諦めなかったものを。「コピーらしくないコピーがいい」「心でシャッターを切る」「時代をすくって語るコピーが面白い」「頭で書くな、腕で書け」「日常の視点から宇宙を見続ける」…。
目的があるから、弾丸は速く飛ぶ。と言ったのは仲畑貴志さんだが、長沢さんはその目的自体を自らつくりだしていた。これまで誰も気づかなかった位置に、思いもよらない角度で。どうしてもそれを言わなければならなかった切実さで。切れば血の出るような人間性と共に。そして生まれた、時代の風を変える言葉たちは、人間への問いかけは、時代・世代を問わず刺さり続ける。年齢なんて関係ない。未知なる過去は、未来なのだ。出会ったならそれは自分のものだ。ちなみに2006年生まれ、19才の女の子に、長沢さんの作品集の中で好きなコピーを聞いてみたらこんな答えが。「あゝ原点。」「モデルだって顔だけじゃダメなんだ。」そして「当時、僕は帝国大学の学生でありました。学業か恋愛か悩みましたが、やはり学業を放棄しました。パルコの着物。」→恋に堕ちていくストーリーを感じて、なんか好き。
これからも、今を生きる多くの心が、長沢さんの言葉と出会ったら素敵だなと思う。
長沢岳夫展What is Copywriting?
会期:3月2日(月)〜3月7日(土)
会場:ギャラリー5610
時間:午前11時~午後6時

