ECならではの体験価値創出から始まった「オリジナルコアラのマーチ」
ロッテがオンラインショップを立ち上げたのは2011年のことである。当初はナショナルブランド(NB)商品を販売する場としての役割が中心であり、ECならではの独自性や体験価値を十分に提供できていないという課題を抱えていた。BtoCのEC事業として顧客と直接つながっているからこそ、単なる「お菓子を買う場所」ではなく、より気持ちが動く体験を届けたいという思いが、新たなサービス開発の出発点となった。
2019年に「オリジナルコアラのマーチ」が誕生した。ECだからこそ実現できるカスタマイズ性、すなわち自分の写真を入れたり、ロゴの部分をアレンジしたりすることで、パーソナルな価値を創出することが狙いであった。久保田氏は、このサービスが「お菓子そのものに加えて“選ぶ楽しさ”や“贈る体験”といった新しい価値を提供し、ロッテオンラインショップならではの存在意義をつくる」ことを目指したと説明する。
企画当初から、利用シーンは自己消費よりも誰かに贈る「プレゼント需要」を中心に想定していた。主な用途として、子どもが生まれたタイミングで記念に作成し祖父母に贈ったり、結婚式の引き菓子として新郎新婦の写真を入れたりするケースが多く見られた。このように、写真とメッセージを自由に入れ替えられる機能が、人生の節目における贈答シーンとマッチしたのである。
親子のモーメントを捉えた新聞広告
サービスの認知拡大は次の課題であった。オンライン限定サービスという特性上、認知度はまだ低く、これまでは機能的な価値を直接的に訴求するコミュニケーションが中心。しかし、ブランドと生活者の関係性をより深めるため、ロッテは新たなアプローチを試みる。それが、特定の「モーメント」に寄り添う情緒的なコミュニケーションへの転換である。
その象徴的な施策が、2026年3月23日に読売新聞、毎日新聞、産経新聞、中日新聞、シティリビングに出稿された新聞広告だ。春から新生活を始める子どもと、それを見送る親というモーメントを捉え、「わたしが、人生でいちばん口にした言葉は、あなたの名前です。」というコピーで、親が子どもの名前を呼ぶという普遍的な愛情を表現した。久保田氏は、この広告が特に親御さん世代に受け、X(旧Twitter)上で「朝から泣いた」といった共感の声を呼び、大きな話題につながったと語る。

