ブランドと顧客の「感情」をAIが遮断する? SXSW2026で見えた「双方向フィルタリング」の衝撃

2026年3月12日から18日にかけ、米テキサス州オースティンにて、テクノロジー、映画、音楽などを扱う世界最大級のビジネスカンファレンス「SXSW 2026」が開催された。現地参加をしたideableの代表 中島琢郎氏によれば、AIチャットツールの浸透により、「これまで競争優位を生み出すための一手とされてきた、ブランドと消費者間の “感情” のコミュニケーションが、AIによって双方向にフィルタリングされつつある」という。AI時代に選ばれるブランドになるにはどうすればよいのか。「感情」の観点から、その落とし穴と対処法を解説します。

今となっては当たり前のことですが、ブランドは商品の機能的な便益だけでなく、人の感情に働きかけることで選ばれます。「好き」「信じられる」「懐かしい」「誇らしい」「怒り」「迷い」「寂しい」……。このような感情を、コミュニケーションを通じて掻き立て人の心を動かすことで、ブランドは記憶に残りやすくなり、場合によっては口コミやシェアを生み出し、結果として競争優位を築いてきました。AI時代、こうした人の感情を捉えることが、AIが代替できない人間のクリエイティビティの役割である――そんな論調も見受けられます。

しかしSXSW 2026で語られていたのは、「AI時代にはブランドが “感情で選ばれる” こと自体が難しくなりつつある」という現実でした。

AIは人とブランドの間の感情をフィルタリングする

調査源によってばらつきはありますが、現在25〜50%の人がAIチャットツールを通して情報を調べている、と言われています(Pew Research Center「Americans’ Use of AI Search Summaries」2025年7月、Bain & Company「Goodbye Clicks, Hello AI」2025年2月などの調査を踏まえて筆者が分析)。

しかしAIチャットツールを通じた検索セッションの90%以上で、AIが参照したはずの実際のWebサイトはクリックされません(Semrush社の2025年9月時点の調査によれば、Google AI Modeでの検索の93%がクリックを伴わずに終了。Pew Research Centerの2025年7月調査でも、AI Overview内のリンクをクリックするユーザーは1%にとどまる)。ユーザーにとっては、AIチャットツールが生成した文章がほぼ全てであり、ブランドがオンライン上に作成したコンテンツやランディングページ、広告といったものは、ユーザーにそのままの形で届くことはありません。

ユーザーが目にするのは、口コミなどの第三者のコンテンツはもちろん、競合情報や個人の趣味嗜好などのデータを踏まえたそのユーザーに向けた「専用レポート」です。そこにブランドが意図した「感情」的な要素はどの程度残るでしょうか。

しかもフィルターがかかるのは、ブランドからの発信だけではありません。

SXSW 2026の現地で開催された、若者のメンタルヘルスについて研究するアリソン・リー氏のセッションによると、全米の2400人の13歳から24歳の人を対象にした調査において、そのうち59%が、謝罪文や返信メッセージをもAIに書き直させていました。人を傷つけない言い方や、うまく伝わる言葉選びが、AIを通じてだれでも簡単にできます。

つまり、自分の感情を言語化する過程そのものを、AIに委ねる人も増えてきているのです。これは海外だけの話かと思いきや、日本でもその兆しは見え始めています。たとえば「LINE AI」の機能で「返信の提案」や「口調の変換」といった機能は既に実装され使われています。このような状況では、アンケートの自由記述、商品レビュー、SNS投稿などを「本音」と捉えるのは難しくなるでしょう。

ブランド側もまた、AIチャットボットを用いて顧客接点を効率化しています。たとえば、AIキャラクターを実装したとあるアプリは、しばらくアプリを使わないユーザーに「さみしいよ。今どこ?」などと、“感情的” なコメントを添えた通知を送る設計になっているそうです。このような、いわば “レプリカの感情表現” を、ユーザーはどのように受け止めるでしょうか?

機能性などの情報だけでなく、感情のコミュニケーションが、AIによって双方向にフィルタリングされています。特に高関与型の商材(住宅・自動車・家電など、比較検討に時間を要する商品・サービス)は、今後その影響を強く受けるでしょう。

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