AI時代に選ばれるホテルの条件 星野リゾートが進める「文脈データ」の内製化

生成AIの普及で、旅行者の宿選びは検索結果を自力でたどる形から、AIの提案を起点にする形へと変わる可能性がある。そうした中、星野リゾートは「AI対策」としてではなく、予約から滞在までを一気通貫でつなぐために基幹システムの内製化を進めてきた。自社開発の基幹システム「HOP4(Hoshino Resorts Operation Platform 4)」では投資額は18億円にも上り、また2025年10月には自社開発の新宿泊予約サービス「FleBOL(フレボル、Flexible Booking On Line)」もリリースしている。情報システムグループ グループディレクターの久本英司氏に、AI時代にホテルが選ばれるために必要な準備を聞いた。

AI対策で始めたわけではない

星野リゾートが自社の基幹システム「HOP4」の構築に着手した出発点について、「AIの危機感があるからではない」と久本氏は話す。通常、旅先を決定するには、楽天トラベルやBooking.com、Expedia、AgodaといったOTA(Online Travel Agent)を介して検索・比較・予約を行うのが一般的だ。しかし同社は、オンライン予約から現地での滞在体験までを一連のカスタマージャーニーとして捉え、自社ホームページ経由の予約強化に20年以上取り組んできた。だが、さまざまな機能を追加する中で、やりたいことや顧客ニーズがシステムの制約で実現できない場面が増えていったという。

そこで突き当たったのが、ホテル業界で広く使われてきたパッケージ型のホテル運営システムと、Web上の予約システムの分断だった。これまで“標準”だと考えていた部分にこそ問題があるのではないか。そうした議論を経て、同社は予約システムとホテル運営システムを別物ではなく「UXが違うだけの一つのシステム」と捉え直し、自社で基幹システムを作り始めた。

星野リゾートの予約システム。「星のや」「界」など各ブランドサイトとシームレスに連携する。いまでは自社サイト経由での予約は8割程度と業界平均10%以下を大きく引き離す

ホテル業界では、予約情報が途中で削ぎ落とされる

久本氏が強調するのは、ホテル業界特有の構造的な制約だ。現在、宿泊予約の多くはOTA経由で、自社予約比率は高いホテルでも10%前後、少ないところでは5%程度にとどまるという。一方で、ホテル業界では予約を取る会社と運営する会社が歴史的に分かれてきたため、会社間をつなげてきた古いインターフェースが今なお使われ、予約の仕組みとホテル運営の仕組みの間で情報が大きく削ぎ落とされる。

その結果、Web上でどんな動線をたどって予約したのか、滞在中にどんな行動を取り、何に満足したのかといった情報は、ホテル側で十分に蓄積しにくい。現場では、基幹システムに入りきらない情報を備考欄にメモしたり、Excelやスプレッドシートに書き出して補ったりする運用が一般的だという。久本氏は「ホテルの運営システムは世間のマーケティングから相当後れを取っていた」と率直に語る。

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